こんにちは、弁護士の村上嘉奈子と申します。シリーズ「スタートアップのための法律知識」第7回は、ウェブサイト活用時に生じ得る法的トラブルとその対策について紹介します。

ウェブサイト上での情報発信は、自社の認知や信用を高め、取扱商品・サービスの広告としても大いに効果を発揮します。また、情報発信にとどまらず、スタートアップ時からインターネットを通じた商品売買などのビジネスを予定している企業も多いのではないでしょうか。

しかしながら、ウェブサイト上での情報発信や商品売買などには即座に情報が広い範囲に伝達される特性があり、不適切な情報発信などがトラブルにつながる例も散見されます。ウェブサイトの活用時に想定される法的トラブルを事前に認識し、留意することも肝要です。


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こちらはスタートアップのための法務シリーズの記事です。
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1 他サイトの画像や文章の無断転用をしない~著作権法等

ウェブサイトに関連するトラブルとして最初に想定されるのは、他サイトの画像や文章等の素材の無断転用を発端とするトラブルです。

他サイトに掲載されている魅力的な素材を思わず自社サイトにも利用したところ、著作権者から著作権侵害のクレームが来たという事例はしばしば目にします。クレームがウェブサイトを通じて行われる例も多く、サイト運営者の信用低下にもつながります。また、この場合には著作権者による差止請求や損害賠償請求などの法的トラブルにつながることも十分に想定されます。

このようなトラブルを回避するため、自社の著作物に当たらない素材を利用する場合には、事前にいわゆる「著作権フリー」の素材であるか否かを確認し、無断転載が許されない素材については著作権者の同意を得ることを検討します。また、著作権フリーの素材でも、商用利用を禁止しているケースがあるので注意が必要です。

なお、著作権法においては、著作権者の承諾がなくとも、「公表された著作物」を「引用」として利用することは可能とされますが、著作権法上適切な「引用」として認められるためには、次のような要件を満たす必要があります。適切に要件を満たしていることにご留意下さい。

  • 出典/引用部分が明確に分かる状態とすること
  • 引用以外の部分が「主」で引用部分が「従」であることが分かるような形態とすること
  • 報道、批評、研究その他の目的上、正当な範囲で行われること

2 真偽や根拠が不明な内容を掲載しない~景品表示法

インターネット上の広告内容等が虚偽を含む場合や適切な根拠が存在しない場合には、景品表示法の規制を受ける可能性があります。

自社の商品やサービスの魅力を伝えるために、商品等の効果・効用を多少オーバーに表現したくなる

心情は人の常ともいえます。しかし、景品表示法では、商品・サービスの内容または取引条件について、実物や競争事業者の商品等よりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認させる表示等を、措置命令や課徴金納付命令等の規制対象としており、注意が必要です。

表示内容が同法に違反した場合、対象商品・サービスの売上額の3%相当額の課徴金を納付しなければならなくなる可能性があり、事業活動に与える経済的ダメージは少なくありません。また、事業者に対する措置命令や課徴金納付命令は行政庁による公表の対象とされ、事業者の信用にも大きなダメージを与えます。

事業者が行政庁の求めに応じて表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出することができない場合は、不当表示に当たるものと解されることとなります。従って、商品・サービスの広告を行う際は、記載内容が適切であるか、またその根拠を事前に確認・検討し、リスクを回避していただく必要があります。

また、インターネット上の広告表示については、消費者庁公表のガイドライン「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」も参照し、取引条件についての重要な情報を表示する場合にハイパーリンクの文字列に明確にその旨を表示することや、情報の更新日を正確かつ明瞭に表示することなどにも併せてご留意下さい。

3 情報漏洩防止等に備える~個人情報保護法・GDPR等

昨今、ウェブサイトの安全管理が不十分であることを原因とした情報漏洩や不正アクセスなどの不祥事も頻繁に生じています。

インターネット上の安全管理が不十分であることにより、情報漏洩や不正アクセスが生じてしまった場合、顧客に重大な損害が生じることとなり、事業者の信頼も大きく毀損されます。ウェブサイトに顧客情報等の入力が予定される場合には特に、不正ソフトウェア対策やシステム監視などの適切な安全管理措置にご留意下さい。

なお、インターネットを通じて海外向けサービスを展開している場合には、海外における個人データの保護規制にもご留意いただく必要があります。特に2018年5月に施行されたEUの一般データ保護規則(GDPR)では、域外適用が定められており、EUに拠点がない企業も、EU域内の顧客に商品・サービスを提供する場合などには規制を受けます。違反した場合の制裁金リスクが高額であることが知られており、欧州域内の顧客との取引が想定される事業者においては十分にご留意下さい。

4 適切な定型約款を活用する~改正民法

2020年4月1日施行予定の改正民法においては、定型約款(事業者が作成する定式化された「約款」「規約」などの条項群)に関する民事ルールが新たに定められ、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの)につき、所定の要件を満たした定型約款の効力が法律上明確に認められました。定型約款の活用は、多数の顧客との画一的・統一的な契約条件を実現し、大量取引の合理化・効率化を可能にするものといえます。

 上から目線にならない催促メールの書き方を文例付きで紹介します。なお、こちらが催促を受けてしまった場合は、次の記事が参考になります。

一方、定型約款の活用に当たっては、定型約款準備者(企業)等において相手方から請求があった場合、直ちに定型約款の内容を示す義務を負うものとされます。ウェブサイト上の開示等による対応も可能とされますので、適用条件等につき確認の上、活用していただければと存じます。

今回はウェブサイト活用時の注意点を見てきました。ご紹介した点にご留意いただきつつウェブサイトを最大限に有効活用し、皆様のビジネスをさらに発展させていただければと存じます。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
執筆:のぞみ総合法律事務所 弁護士 村上嘉奈子
2000年京都大学法学部卒業。2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2011年認定コンプライアンス・オフィサー資格取得。企業の危機管理、内部通報システム構築・運営対応、個人情報等の情報管理体制構築運営サポート、労務管理を手がけるとともに、知的財産権・エンターテインメント関連法務(パブリシティ権、著作権、商標権、営業秘密・ノウハウ保護)、名誉毀損・プライバシー侵害案件に関する各種相談及び法的手続、消費者関連法などを取扱う。

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