事業継続に必要な競争戦略
「こんな商品が世の中にあったら売れるだろうな」
経営者は、商品・サービスに関するアイデアをたくさん持っていることでしょう。しかし、素晴らしいアイデアがあっても、考えているだけでは価値はありません。さらに、アイデアを形にしても単発で終わっては、得られる利益は限定的です。
つまり、収益力の高い事業を継続するためには、アイデアを基に「ビジネスモデル」を練り上げることが重要なのです。
1 ビジネスモデルを再構築する
ここではビジネスモデルを、「お客様に満足を提供しながら企業に利益をもたらす仕組み」と定義してみましょう。例を挙げると、次のようになります。
優れたビジネスモデルを構築すれば、収益力の高い事業を継続することができます。中小企業は「長時間働いても不安定」という状態に陥りがちですが、ビジネスモデルを工夫すれば、“顧客満足”と“企業収益”を両立することが可能です。
特に、ITを活用すれば容易に複合的なビジネスモデルが構築できるようになっています。最初は小さく始めた事業でも、短期間で大きく成長することが夢ではないかもしれません。
2 ニッチ戦略で市場ナンバーワンの地位を得る
中小企業が生き残るためには、ビジネスモデルの構築に加えて、競争戦略を考えて実行することが重要です。競争戦略とは、「競争環境の中で自社の強みを生かし継続的に収益を上げる方策」です。
シリーズ第3回「競争優位の戦略『ポジショニングとブランディング』」で解説した「ポジショニングマップ」の考え方に加えて、市場をさらに細分化して組み立てるのが「ニッチ戦略」です。大企業など他社が狙わない市場の「隙間(ニッチ)」を狙い、そこで相対的な競争優位性を確保して、収益を狙う戦略です。
競合が少ない市場を選ぶことによって、市場ナンバーワンになることも夢ではありません。ここでは、自社の強みを生かしたニッチ戦略で収益を上げるための考え方を説明します。
ニッチ戦略は、次の3つのステップを踏むと具体化しやすくなります。
●ステップ1 自社の強みを洗い出す
あなたが、創業した頃を思い出してください。自分(または起業メンバー)の強みや特徴を意識して、それを生かした事業を始めたはずです。ところが年数が経過するうちに、こうした強みや特徴についてあまり意識しないどころか、忘れてしまいがちです。今こそ、自社の強み・特徴を再認識することで、ニッチなビジネスを構築することが可能です。
自社の強みや特徴を洗い出す際の視点は、次のようになります。
実際には、これ以外にも多岐にわたる切り口があります。強み・特徴を洗い出すためのコツは、ホワイトボードや大きな紙を準備して、思いつくままに書き出していくことです。経営者が1人で考えるのではなく、従業員と一緒にブレインストーミングをするとたくさんの項目が出てきます。
また、自社の事業について社外の第三者の人にも話してください。「それってすごい強みですよ!」と、社内のメンバーでは気付かなかったことを指摘してくれることがあります。
●ステップ2 マーケットセグメンテーションによるターゲットの絞り込み
ニッチ戦略立案のためには、市場を細分化して考えること(マーケットセグメンテーション)が有効です。BtoCの事業を例にとると、細分化する切り口は、「地域」「年齢」「性別」「価格」などがあります。
さらにニッチな市場を想定するには、こうした属性情報だけではなく、「○○が好きな人」「○○したい人」「○○でこうなりたい人」(例:スポーツで健康になりたい)など、ライフスタイルや趣味嗜好などを加味した「コト発想」による細分化が有効です。
例えば、飲食店の場合は、利用するお客様の目的は「利用シーン」で分類することができます。飲食店の「利用シーン」と「業態」でセグメントすると、次のようになります。
「コト発想」による細分化によって、特徴のある店をつくることが可能です。例えば、あるインド料理店は、ランチタイムは定額でビュッフェ形式の食事を提供、夜は主にミュージシャンを呼んでライブイベントを行うなど、特徴を打ち出すことで安定した売上を上げています。「インド料理」と「ライブ」という意外性のある組み合わせで、人気を博しているのです。
●ステップ3 強み・特徴×ターゲットで事業を構築
自社の強み・特徴を洗い出して市場を細分化し、ターゲットを明確にしたら、その2つを組み合わせた事業を構築します。そのための検討の切り口は、次のようなものが考えられます。
1.新商品・新サービスの開発
市場を細分化しターゲットを絞り込んだら、それに対応する商品・サービスを開発します。その際は、自社が持つリソースを活用できる分野が最適です。例えば、機械部品などの金属製品加工をしていた町工場が、その加工技術を生かして、若い女性向けのアクセサリーの製造を始めるなどです。
2.新たな販路の開拓
同じ商品でも、販売先を変えることで売上が伸びることがあります。例えば、機械を東南アジアへ輸出している企業が、アフリカ諸国の市場へ進出するなどです。
3.市場へ浸透させる
販売先(地域や対象層)を限定することで、その市場ではナンバーワンの地位を得る方法です。例えば、「○○の方限定でご提供します」といった販売方法です。
3 サブスクリプションモデルのビジネスを組み立てる
ビジネスを、売上・収益の発生頻度の観点で見ると、「単発収入」と「サブスクリプションモデル(定額収入)」とに分類できます。
「単発収入ビジネス」は、単発的・一時的に発生するもので、飲食店など「お客様が欲しいときに商品・サービスを購入する」ものです。「サブスクリプションモデル」は、定期的に決まった金額が入るもので、会員制の英会話スクールなどのビジネスが該当します。単発収入のビジネスは、売上・収益に波があり安定しないことがあります。飲食店を例にとると、12月は忘年会シーズンで繁盛するのに2月や8月はお客様が少ない、といったことがあり、資金繰りに影響します。
それに対して、サブスクリプションモデルでは、定期的に一定の売上が見込めます。分かりやすい例は、有料アプリの月額課金です。アプリを販売している人(企業)には、毎月会員数に応じた収入が入ってきます。
サブスクリプションモデルだけを手掛けている場合は、不安定な収益をカバーする固定収入のビジネスを導入することが有効です。
1)サブスクリプションモデルのメリット
サブスクリプションモデルは、「来月は○○円入る」と、“勝ちが分かった状態”でビジネスを進められることが最大のメリットです。
また、「顧客が増えてもコストがさほど変わらない」ことで、スケールしやすくなります。アプリの月額課金を例にとると、利用者が10人から1000人に増えても、サービスを提供する側のコストはそれほど変わりません。売上が増えてもコストは増えないので、顧客数の伸びに比例するように収益が増えるといえます。
2)サブスクリプションモデルは工夫次第で実現可能
実際にあるサブスクリプションモデルの事例を挙げると、次のようなものがあります。
- 観葉植物レンタル
- 月額料金制のWeb制作業
- 民間資格の会費(家元ビジネス)
- バーチャルオフィス
- スポーツジム
- 会員制勉強会(セミナー)
- フランチャイズシステム
- 定額課金制セキュリティーシステム
「当社の事業だとサブスクリプションモデルは無理……」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、どんな業種業態でも工夫次第で構築可能です。
ある経営コンサルタントは、従来はマンツーマンでコンサルティングをしていましたが、クライアントが増えると売上に限界があることに気付きました。そこで、経営者を対象とした会員制の通信講座を構築し、多数の会員を確保することに成功しています。会員は年会費を支払うことで、定期的に経営に関するノウハウや情報が送られる他、セミナーに参加することもできます。
また、サブスクリプションモデルになじまないように思える飲食店でも、お客様が会費を支払えば常に割引価格で食事ができるシステムや、会費制の料理教室などが考えられます。
3)サブスクリプションモデルを構築するためのヒント
サブスクリプションモデルを構築する場合、現状とかけ離れた事業を新たにスタートするのではなく、既存のリソースを活用した内容にするほうが、早期に実現できる上、ブランド力を損なうこともありません。
サブスクリプションモデルを生み出すために、次のような観点で発想してみてください。
1.会費制にできないか
お客様から定期的に会費をもらい、商品やサービスを提供する方法がないか検討しましょう。
独自のノウハウやコンテンツがあれば、月額1000円など会費をとって定期的に提供する方法があります。例えば、スポーツ用品店が、定期的に月額制のランニング教室を開催するなどです。
ノウハウやコンテンツは、インターネットの活用で、広い範囲からお客様を確保できる可能性もあります。ある士業の人は、資格試験に受かるコツについてセミナー動画を撮影し、月額制によってWebサイトで配信しています。
2.お客様をコミュニティー化することはできないか
自社の強みや特徴を生かして、お客様をコミュニティー化する方法が考えられます。例えば、ケーキ屋さんがお菓子作り教室を定期開催すれば、一定数のお客様を生徒として確保できます。参加料金の収入が固定的に入るだけではなく、お店のファンを増やす効果も期待できます。
3.売り切りではなくレンタルはできないか
従来販売していた商品を、レンタルにする方法です。販売すれば10万円の商品を、月額5000円でレンタルするといったやり方です。「所有するよりも借りたほうが何かとお得」と考えるお客様が想定される商品であれば、検討してみてください。
サブスクリプションモデルは、最初の仕組みづくりに高いハードルがありますが、回り始めて損益分岐点を超えると、事業の安定につながります。
以上
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年5月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。
【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp
(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)
ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。
2011年4月にコンサルタントとして独立。起業支援、資金調達サポートを行うほか、研修、講演、執筆など幅広く活動している。
リクルート社『アントレ』などメディア登場実績多数。
著書に
『起業は1冊のノートから始めなさい』(ダイヤモンド社)
『「儲かる社長」と「ダメ社長」の習慣』(明日香出版社)
『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)
などがある。