第5回 北九州市立大学 経済学部 准教授 牛房義明氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー
かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。
第5回に登場していただきましたのは、研究や指導を行っておられる他、イノベーターを育てる活動なども幅広く実施されている北九州市立大学 経済学部の准教授、牛房義明(うしふさよしあき)氏(以下インタビューでは「牛房」)です。
1 「『北九大(北九州市立大学)はどれくらいノーベル賞を受賞した人がいるのですか』と聞かれたと言っていました」(牛房)
John
今回は、羽田空港にて牛房義明先生にインタビューさせていただきます。
フライト前のお忙しい中、お時間をつくっていただき、よしさん、本当に愛りがとうございます。私はいつも「よしさん」とお呼びしておりますので、今日も「よしさん」と呼ばせていただきます。
「イノベーション哲学」は、実際に起業しているCEOに聞くことも大事ですが、私とよしさんが行っているような「イノベーションカルチャーを作りイノベーターを生む」というアントレプレナーシップ教育の活動においても、「イノベーション哲学」は重要です。そこで今回、よしさんに、ぜひお話をお聞きしたいと思いました。とても楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします。
牛房
Johnさん、そうなのですね、光栄です! ありがとうございます。
John
まず、よしさんが普段何を研究されているのかということを、読者の皆さんに教えていただけたらと思います。よしさんが行っている「環境経済学」とは、どのようなことなのですか?
牛房
実は今、環境経済というのはあまりやっておらず、どちらかというとエネルギーや電力の研究になっていると思います。環境経済学というのは、二酸化炭素を出したり廃棄物を出したりするなど、環境に負荷を与えているような経済活動の悪い影響を、どのようにコントロールするかといったようなことを研究対象にしている「経済学」です。
John
なるほど、面白いですね!
牛房
一口に経済学と言っても、実はさまざまな分野があります。基本としては、一国全体の経済を見るマクロ経済学と個々人の経済行動に焦点を絞るミクロ経済学。その他、企業の経済活動に注目した産業組織論、途上国の経済発展をどうすればいいかを考える開発経済、教育経済、医療経済など、いろいろな「経済学」があります。
John
経済学といっても、さまざまな分野に分かれているのですね。その中で、今はエネルギーや電力に関する研究を行っておられるのですね。
牛房
はい、そうです。エネルギー関係です。
少しお話が戻りますが、経済学へのアプローチの方法としては、「行動経済学」というものもあります。例えば、人々は合理的に行動しない場合もあって、「ダイエットしないといけない」「もうタバコを吸うのをやめないといけない」というときに、なぜかダイエットを途中でやめてしまうとか、禁煙をやはり守れなかったというような、そうした行動についての経済学もあります。行動経済学は今、とても注目されています。ナッジ(nudge)という、人に情報を提供することで、いい方向に行動してもらうというようなイメージのものです。環境省も「日本版ナッジ・ユニット」というのを立ち上げています。
そうした行動経済学的なものも、エネルギーの分野で応用できないかということをやっています。特に、省エネ、節電などに活かせるのではないかと。
例えば、東日本大震災の後、原子力発電所が停止し、電気が足りなかったときがありましたよね。電気というものは、電気を使う量とつくる量が同じでないと停電してしまいます。そうなると経済的にも大きな損失になるので、停電にならないように、電力会社は1分単位、秒単位で、電力の需要と供給をコントロールしているのです。
John
ナッジ(nudge)は「肘で軽く突く」という意味もありましたね。人々にいい方向に行動してもらうための気付きを与える行動経済学、興味深いです。
牛房
例えば、お昼休みになれば、皆、電気を消しますよね。そのときにも、ちょうどそれに合わせて発電量を抑えないといけません。要は、ある範囲の中でバランスがしっかり取れていないと、停電してしまったりするのです。
John
こうしてお話をお聞きしていると、日ごろの生活を裏で支えてくれていることがよく分かります。なかなか、普段から意識できていないことがたくさんありますね。
牛房
そうですね、ありますね。皆さんが、あまり関心のないところかもしれませんが、そういうことをやっています。
John
とても面白いです。勉強になります! どのようなエネルギーが専門になるのですか?
牛房
電力ですね。電力の中でも、今は特に、再生可能エネルギーです。2015年12月に21回目の気候変動に関する国際会議がパリで開かれ、そこで産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑えましょうというパリ協定が締結されました。特にヨーロッパが率先してやっていますが、日本もそれをやろうとしています。
John
それで去年(2018年)は、パリに行っていたのですか?
牛房
去年のパリは、OECD関係のプロジェクトになります。北九州市は2011年にOECDのグリーン成長都市に選ばれました。グリーン成長都市に選ばれた都市は世界に4都市あり、パリ、ストックホルム、シカゴ、そして北九州市です。
John
北九州市が選ばれたのですね。すごいですね!
牛房
グリーン成長都市に選らばれた都市にある大学と連携して、環境エネルギーに関する国際共同研究のネットワークを構築しているところです。
ところで北九州市立大学の職員が以前、シカゴ大学に訪問した際に、「大学間協定できませんか」と提案したことがあります。その時、シカゴ大学から「北九大はどれくらいノーベル賞を受賞した人がいるのですか」と聞かれたと言っていました。
John
驚きの質問ですね。シカゴ大学はノーベル賞を受賞している人が多いのですか?
牛房
シカゴ大学は受賞者が多いです。経済学では何人もいます。最近では、先ほどお話した行動経済学の分野で受賞した人がいます。
2 「電気が足りないので、皆さん電気を使うのをやめてくださいと言っても、やめる人もいればやめない人もいます。そこで、別のやり方で電気の使用量を減らすようなことができないかというのを北九州でやったのです」(牛房)
John
なぜ、エネルギー、経済学、環境といったことに興味を持たれたのでしょうか?
牛房
エネルギーについては、東日本大震災がきっかけです。それと、北九州市が、「スマートコミュニティ創造事業」というのを実施したこともあります。それは、電気が足りないときでした。電気が足りないので、皆さん電気を使うのをやめてくださいと言っても、やめる人もいればやめない人もいます。そこで、別のやり方で電気の使用量を減らすようなことができないかというのを北九州でやったのです。
IoTが進んで、その一つに「スマートメーター」というものがありまして、電気使用量を30分単位で把握することができます。それが把握できるということは、「時間帯ごとにどれくらい電気を使っているか」が分かるので、「ある時間帯に電気代を上げたら、電気の使用がどれだけ減るのか」ということを確認するための社会実験を北九州で実施しました。それからエネルギーに関する研究をやっており、もう7年近くになります。
John
研究は、どのように行うのでしょうか?
牛房
まず、研究ですので、今までやった「先行研究」というのがあり、その先行研究を基にするのですが、当然その研究は完璧ではありません。課題があったり、十分に検討されていないところがあったりします。そういう課題を解決するために、「こんな課題を、こういう形で解決することができますよ」という仮説を立てて進めていきます。
John
解決する人たちは事業会社なのでしょうか? よしさんたちは、解決策を提案するのですか?
牛房
はい、提案します。
John
よしさんはどのように研究しているのですか?
牛房
今は、自治体や事業会社と連携し、ある仮説を立て、「こういうことをやったらどのような効果があるのか」ということをやっています。例えば最近では、これから実施する調査になりますが、電気の使用状況のデータを住民の方に見せる。ただ、見せるだけではなくて、「この時間帯にたくさん電気を使っているので、それだけ無駄な電気の使われ方をしていますよ。このようなエネルギーの使い方をしたら、節約できるかもしれませんよ」と情報提供して、エネルギーの使う量を減らしてもらうというような取り組みです。
John
なるほど。そのように課題を解決するための仮説を立て、実際に取り組んでみて、効果の確認をしていくのですね。今回の研究は、どのようなところと一緒に行うのですか?
牛房
今回は、北九州市と、北九州市の事業に関わっている大手メーカーやIT関連会社などです。そういうところからデータを提供してもらって実施します。
John
なるほど~。そうすると、大学の先生でありながらも、戦略コンサルタントのような役割を行うわけですね。データに基づいて、課題があって、それを解決することを、自治体や会社に提案しながら進めるということですよね?
牛房
そうですね。
John
その際の費用はどこから発生するのですか?
牛房
外部資金を申請して、自分で研究費を獲得したり、行政や企業から研究費を提供してもらったりしています。
John
大学の教員も資金獲得は大変そうですね。コンサルティング料としてもらうことはないのですか?
牛房
基本的に大学の教員は、何か相談が来て、「ちょっと教えてください」というときにはお金は取らないですね。社会貢献ということで、お金を取らずにやっている先生も多いような気がします。
John
研究費を負担してくれる会社もありますか?
牛房
出してくれる会社もあります。一緒にやりましょうということで。
3 「大切なのは『5つのi』。important、interest、impact、innovation、そして……」(John)
John
スタートアップのように、ピッチをしてお金を集めるというようなケースもありますか?
牛房
ありますよ。書類審査があり、その後、プレゼンをするというものもあります。
John
そのようなときは、誰が対象になるのでしょうか?
牛房
資金を提供する国、自治体、民間企業になります。
John
そのような資金調達は、スタートアップの人が投資家からお金を得るのと似ているように感じますが。
牛房
似ていると思います。その際に大切なのは「3つのi」と言ったりしています。important、interest、impactですね。
John
面白いですね。innovationはないのですか?
牛房
ああ~そうですね。そこにinnovationは入っていないですね。そこまでできる研究であればいいのですが。とりあえずは、important、interest、impactの3つです。
でも、入れたほうがいいかもしれないですね、innovation。そうすると、4つのiになりますね。
John
5つかもしれないですね。「愛りがとう」も入れて。やはり、最後は「愛」が大切だと思いますから、「5つのi」にしましょう!
牛房
素晴らしいですね! 今日、「5つのi」になりました。
John
大切なのは「5つのi」。important、interest、impact、innovation、そして……「愛」。やはり、この5つです。
4 「基本的にはSVOCや5文型などをしっかりと押さえた上で、英文を読まないといけませんよ、というものです」(牛房)
John
よしさんは、海外では、どういったことを発表されているのですか?
牛房
自分の研究です。
John
どういった国々に?
牛房
今まで行ったのは、アメリカ、ギリシャ、フランス、ドイツ、シンガポール、台湾。今度は、中国に行くかもしれません。
国際学会での発表は、まず、abstractという要約を書いて、国際会議の運営者に送ります。それを、運営委員会が見て、面白いといいますか、発表する価値があるかどうかを判断します。審査されるわけです。その審査に通ったら、発表できるというプロセスです。
John
審査は英語ですよね?
牛房
はい、英語です。
John
それは大変ですよね。英語はどのように勉強されたのですか?
牛房
中学高校の勉強と、あとは、参考書などを使って自分で勉強しました。受験英語ですが。
John
ご自分で。すごいですね!
牛房
いやいや、全然できなかったですよ。中学のときはそれほど難しくなかったですが、高校のときは……あまりできなかったです。しかし、予備校の授業を受けたときに、「英文を読むときにはこういう考え方が大事なんだなあ」と思ったことがありました。
John
どういった考え方なのですか?
牛房
基本的にはSVOCや5文型などをしっかりと押さえた上で、英文を読まないといけませんよ、というものです。どこからどこまでが主語で、どこからどこまでが目的語で、修飾語なのか。予備校ではそういうことをしっかりと教えてくれました。僕はそこが分かっていなかったのだな、と気付きました。
John
分かります。私も全く一緒です。私もいつもSVOが大切で、目的は何かということを考えて読んでいるので、速読ができるのだと思っています。やはりSVOですね。
牛房
そうだと思います。もう少しレベルの高いことを教えてくれた先生もいました。英語を話す人や海外の人は、英文を左から右に読みますよね。そういう風に英語を読めるようになったほうがいい、と。関係代名詞が後ろにあるから後ろをまず先に訳してから、ということではなく、とにかく左から右に読むように、ということでした。
John
なるほど。それから、「全部読める」と思って読むことも大事ですよね。そして、自分の言葉で要約すること。65~80%くらいの理解になっておけば大体、内容は分かると思います。
牛房
そうですね。そして、「いい文章」を読むことですね。特に、論文を書く時は、学術論文をたくさん読むことだと思います。
John
賢い他の人の言い回しを勉強するということですね。論文はどこから見つけてくるのですか?
牛房
インターネットで探して見つけてきます。
John
見るのは疲れませんか?
牛房
結構疲れます。それだけでも、軽く半日くらいはかかりますし。
John
それはそうでしょうね。ずっと読んでいるのですか?
牛房
さすがに、ずっとは読めません。途中で集中力が切れてしまいますから。1時間か2時間くらいです。分からない単語もたくさん出てきますし。ということもあり、一から十まで全部は読まないですね。まずは、始めのabstract(要約、概要)と、introduction(導入)と、最後のconclusion(結論)を読む。もう少し知りたいと思ったら内容を読む、という感じで進めると情報収集しやすいかもしれません。
John
なるほど。まずは、概要を把握して、それから詳細を確認するのですね。とても良い勉強方法をお聞きしました!
牛房
ありがとうございます。
John
これまでのお話では、研究者や大学の先生がお金を取ってくることは、起業家が投資家からお金を取ってくるのと同じ。そして世界で発表するのも同じということですよね。発表は、何分間くらいですか?
牛房
15分くらいだと思います。
John
英語で発表するわけですよね?
牛房
そうです。まずは、なぜこの研究をするのか。要は研究の動機ですね。それから、何がその研究で新しいのか、何が貢献点なのか。
John
それは、誰に対しての貢献なのですか?
牛房
その分野に対してです。学術的な分野。環境経済学であれば、その分野で今まで解決されてない課題に対して、こういう解決方法が明らかになりましたよ、ということを言わなければなりません。それから、なぜその結論になったかという根拠。その上で、「だから今回やった発表というのは、意義があるのです」ということを伝えていきます。
John
社会的にどういう成果をもたらす可能性があるか、ということも伝えるのですか?
牛房
それは分野によります。重箱の隅をつつくような研究もありますからね。ただ、それはそれで価値あることだと思います。
John
なるほど、そうなのですね。研究者の方々がどのように日々研究を行っているのかがよく分かりました。ありがとうございました。
5 「ラッパーたちとスタートアップの仲間づくりは似ていると思います」(John)
John
さて、話は変わりますが、よしさんと私が出会ったのは、2016年の12月1日でしたね。
牛房
3年前ですね。
John
私が北九大のAIの権威である永原教授と出会って、「#StartupFire」をやろうということで。イベントタイトルを「イノベーションナイト」として、若い学生などを集めました。大阪からもVCの方が来てくださいました。スピーカーとしてシンガポールに行っているスタートアップ企業のCEOなども来てくださいました。また、東京からラッパーのDirty R.A.Y氏を呼んで司会をやってもらったりしました。開催場所は地方でしたが、「とんがっているイベント」を企画してやっていました。そこに、よしさんが来られたのですよね。
牛房
はい、北九州でこんな面白そうなイベントがあるのかと思って参加しました。そして、Johnさんと出会って、数日後にまた2人でランチミーティングした時に、来月またイベントをやろうというお話になりましたね。
John
出会ってすぐに、一時間のランチであっという間に決まりましたね。最初の時は、やはり物珍しさに、とんがっている学生がたくさん来てくれました。
牛房
イベントをきっかけに、VCやスタートアップにインターンに行くような学生もいましたよね!
John
そうですね、アメリカに留学したり、クラウドファンディングを成功させたりしている学生もいました。
当時は、関門エリア(北九州と下関)で学生やスタートアップを応援できるものがなかったので、私たちがつくろうということになりました。
私たちが考えていたのは、やはり最初からシリコンバレーを意識して、海外のメンタリティやマインドを若い人に移植する、インスパイアできるようなカルチャーを生み出すイベントにしようということでした。それは本当に最初から意識していました。司会をラッパーにやってもらうようなイベントは、東京でもあまりありませんよね。スタートアップイベントでラッパーが司会するなんて。そういうことを、私たちは最初から意識していましたね。
ポスターも、Dirty R.A.Y氏の知り合いのヒップホップアーティストにつくってもらいました。ヒップホップとスタートアップは一見、全然違いそうに思えますが、実は同じようにStruggleしていると思うのです。はいつくばって、もがいている感じです。起業家はさまざまなことで苦しんでいますが、楽しみながら仲間とともに生きています。ラッパーも同じです。ラッパーたちとスタートアップの仲間づくりは似ていると思います。好きだからやっている。そうしたことを若者に味わってもらいたかったのです。
「#StartupFire」のビジョンは、「Fire Your Soul」「Design Your Future」。魂に火を灯せ、未来をデザインせよ。というものです。2016年12月4日に北九州でイノベーションナイトとして開催し、「#StartupFire」が始まりました。それから、いろいろなところで「#StartupFire」と言ってきました。シリコンバレーによしさんと2人で行って、「#StartupFire」のディナー、会食もしましたね。地方でもそういうことができたらいいなあと思っていました。一緒にやってくださるよしさんがいてくださったので、本当に感謝しています! 今まで、私たちは(イベントを)何回くらいやりました?
牛房
この2年で、10回ほどやっているかと思います。アメリカのサンフランシスコやシリコンバレーでもやりました。
確か去年(2018年)には、下関市立大学でJohnさんに来ていただいて1コマ講義してもらいました。
また、2人で福岡のラジオに生出演してアントレプレナー教育について語ったのち、急いで北九州に移動して#StartupFireを開催したこともありましたね。
John
そのとき、タイトルを「#StartupFire」にしていただきました! ありがとうございます。講義の中で「#StartupFire」させていただいて、本当に感謝しています。
新たなイノベーションカルチャーを生み出すことを目的として北九州から始めた#StartupFireですが、東京、大阪、シリコンバレーやインドにも広がっています。昨年は、某大企業と共同開催で、3度#StartupFireを東京で行いました。北九州では、大学内だけではなく、レストランやバーで毎年#StartupFireクリスマスパーティーも開催してます。3年前からサマートークツアーも行い、全国各地で#StartupFireの講演ツアーも行っています。
牛房
Johnさんに講義してもらうと、やはり、学生が何人か関心を持ちますよ。本当に。
John
ありがとうございます。1回ずつ、講義内容は変えましたね。
牛房
そうですね、変えました。海外に行って感じたことや、その都度内容は変えていましたね。そのほうが情報が新しいですし。ピッチ大会もやりました。
ピッチ大会では、参加した人たちに対して、どのようなビジネスモデルを考えていますかということを聞いたりしましたね。
John
そうでしたね。日本では、まだあまりピッチがなかったころです。未来予測などもやりました。とがったことを、東京よりも早くやっていました。
それにしても、本当によく(イベントを)やっていましたね。ポスターを、よしさん自らつくっていただいたりもしました。下関で講演させていただいて、学校の車で迎えに来ていただいて、私が(講義で)叫んで、そこから北九州空港まで車で一緒に行って、一緒に飛行機に乗って、東京の大手町まで行ってまた講演しましたよね。
私がアンバサダーをさせていただいているスタートアップワールドカップも、前夜祭からサンフランシスコに一緒に、二度行きましたね! 本当に思い出に残っています!
6 「(Johnさんに出会って)面白そうだなというのが一番大きいですね。楽しそうって」(牛房)
John
いろいろと振り返ってみましたが、よしさんは、なぜスタートアップワールドカップに行こうと思ったのですか? 普段とてもお忙しいと思うのですが、なぜアントレプレナーシップをそこまで重要視されるようになってきたのでしょうか。
牛房
まず、一つ大きい要因として挙げられるのは、Johnさんに出会ったことです。それから、2016年4月に電力自由化がスタートしたこともあります。そこからさまざまな企業が電力に参入し始めました。もちろんベンチャー企業もです。Johnさんと会って、スタートアップやベンチャー、イノベーションにとても魅せられましたし、電力自由化もありましたので、いろいろと勉強したいなと思いました。
John
ありがとうございます。私と会って、よしさんの中で何が変わられたのでしょうか?
牛房
面白そうだなというのが一番大きいですね。楽しそうだと思いました。とてもパッションを感じたのです。Play、Passion、Purpose。3つのPですよ(笑)。
John
経済学者として、イノベーションを創出する必要性といいますか、アントレプレナーシップ教育の大切さに、よしさんは、どういうことから気付いたのでしょうか?
牛房
まず、学生に元気がないということだと思います。大学に入って初めのうちは、学生にはやりたいことがあります。勉強したい、サークル活動やりたいなどなどです。ところが、2年生、3年生になると、やりたいことを尋ねても「特にありません」と答えるようになってきます。「就職どうするの?」と聞いても「考えていない」とか。目標がだんだんなくなってくるのですよね。それはおそらく、大学に入ったはいいものの、つまらないということなのかもしれません。
John
何がつまらないのでしょうか?
牛房
授業そのものかもしれません。一方的に教員が「これを教えなきゃいけない」ということを話しているだけで、なぜそれが大事なのか、どう社会に役立つのかが、学生に十分に伝わっていないのではないかと思います。
John
それは寂しいことですね。(泣き)
牛房
本気で何かやりたいと思っているような学生は、授業に出て来ないかもしれないです。自分でインターンをやったり、何か行動を起こしたりしているのだろうと思います。
7 「自ら物事を解決する能力や、『恥をかける』ような、そういう人材育成を、講義やイベントを通して行いたい」(John)
John
よしさんは先ほど学生にモチベーションがないと仰られましたが、私が講義したときは、学生は皆、話を聞いてくれました。学生たちには、学生やスタートアップなど若い人がイノベーションを起こすのが大事ということを、3つのPで一緒に伝えてきましたよね。
先ほども少し話に出ましたが、3つのPは、ハーバードの初代イノベーションラボのトニーワグナー博士が提唱したものです。「Play、Passion、Purpose」。やはり、「Play(遊び)」が大事で、それがまず日本の中では足りません。まず、ワクワクさせて楽しくさせて、これが大事だと思います。
そしてPassion、授業も情熱的にインタラクティブにすることが大切です。そして最後に目的、Purposeを掲げる。夢だけではなくて、意義ですね。何のためにやるのか。ただのイベントや講義ではなく、それが核となって、イノベーション教育をやってきています。
牛房
本当にそうですね。ただイベントを開催してそれでおしまいではなくて、イベントで火を付けて、その火を灯し続けないといけないですよね。
John
私は、「シリコンバレー道場」というものを、CTOと一緒にオンライン教育で、英語でやっていたことがあります。
このオンラインプログラムに参加してくれた学生の中には、外資系の大手コンサルティング会社に内定した人もいましたが、もしかしたら、そういう子は地方や中小企業では就職先がないかもしれません。人から見たら「落ち着きがない」かもしれませんが、反対の意味でいうと、「いろいろなことに興味がある」ということになります。そうした子の可能性を摘むのではなくて、伸ばす。弱点じゃなくて、長所と捉えて伸ばす。それが私たちの「#StartupFire」です。
「#StartupFire」は例えば、就職率を高くするのではなくて、起業率を上げる。それで地方から世界に羽ばたける人を増やす。自ら物事を解決する能力や、「恥をかける」ような、そういう人材育成を、講義やイベントを通して行いたいなというのは、いつも思っていました。
よしさんには、何回も「#StartupFire」で講義に呼んでいただきましたが、なぜそこまで呼んでくださったのでしょうか?
牛房
学生に変わってもらいたいからです。大学の教員が話しても、どこか真実味がなさそうに聞こえてしまうところがあります。しっかり伝わっていないような。Johnさんのような外部の方に話していただいたほうが、現場感があるかなと思います。やはり、社会に出ている人の言葉って重いですからね。
John
それはただ社会人経験がある人が話せばいいということではなくて、イノベーションやアントレプレナーに詳しい人など、そういう何かを持っている人がいい理由はありますか?
牛房
そうですね……。大人がどのようなことを真剣に考えているかということを伝えられる人は、実はなかなかいないのです。会社の方が来ても、かしこまって淡々と喋っていたりします。
John
私を呼んでくださる前も、外部から頻繁に招いていたのですか?
牛房
いえ、そうでもありません。たまに「話をさせてほしい」という人がいるときに、少し話してもらうくらいです。
John
私の講義を聞きに、どこでやっても来てくださっているファンの方もいました。言葉は悪いかもしれませんが、その人たち自身がイノベーションを起こそうという人に、勝手に育っていっているのが、本当にうれしく感じます。イベントを通じて、そういう方々といい出会いがあり、縁や友情が芽生えている。本当にありがたいことです。
それから、「#StartupFire」を通して、イノベーションを起こそうという仲間が日本全国でもアメリカでも増えました。上場企業の社長でも、スタートアップでも、投資家でも、分け隔てなく、全員で「いいこと」を話すようになっています。世の中をどのようにして良くしようかと話すときには、「若者の育成が大切。アントレプレナーだ」というのが全員で一致しています。特にこの2年で、そういう話が増えたと思います。
皆、同じことを考えて、同じことをやっているのです。結局、皆、人を助けるためにやっています。自分たちだけでは無理だから若者をスタートアップに変えていくという思いが、全員一致になってきましたね。そういうところにいるからかもしれませんが。かなりそういう動きが強くなり、温度差が少なくなったなと思っています。よしさんは、何か感じますか?
牛房
起業に対して無意識な人が結構多いと思いますが、それが少しずつ減ってきて、実際に行動する人が増えてきたのではないかと思っています。
8 「単にお金儲けではなくて、自分のやることが人の役に立っている、社会の役に立っている、そういうところですね」(牛房)
John
最後の質問ですが、よしさんにとってイノベーションの哲学とはどのようなものですか?
今までの人生の中や学ぶこともそうですが、学んだ学問でも研究でも、行動するときに、何か自分自身で「これはやったほうがいい」と決断するポイントがあると思います。それを私は、その人の「哲学」と思っています。あるいは、どういう風にイノベーションを起こしたら良いか、ということでもいいですが、何かご自身の哲学はありますか?
牛房
単にお金儲けではなくて、自分のやることが人の役に立っている、社会の役に立っている、そういうところですね。常に、自分のためだけじゃなくて、皆のためになっているというところを意識しています。
映画「ボヘミアンラプソディー」の中で、フレディ・マーキュリーの父親が「よい考え、よい言葉、よい行い。そういう生き方をしろ」とフレディに言います。フレディは、若いころはそれに反発していましたが、エイズ支援のチャリティコンサートをやったときに、父親が言ったことをそのまま言ったら、父親も喜んで、和解したというエピソードがあります。「よい考え、よい言葉、よい行い」そういうようなことを意識して活動したいと思いましたね。今もそう思っています。
John
よしさん、最高に素晴らしいです!!
牛房
「いつの世も、人・社会のためになるかどうか」というのが私のイノベーションの哲学です。
John
いつの時代であっても、人のためになるかどうかですよね。本当にそうだと思います。
今日は、お忙しいところ、たくさんお話お聞かせいただきまして、よしさん、本当に愛りがとうございます!
共に、「#StartupFire」を通じて、世界中の人々のことを考えられる人を教育し、イノベーションを起こすカルチャーを日本の地方都市にもたくさんつくって参りましょう。よしさんに会えて本当に良かったです。
これからも同志としてよろしくお願いいたします。
最後に、読者の皆さまの地元でも、私たちと一緒に#StartupFireを開催しませんか? 私、Johnがどこにでも駆けつけます!
以上
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年9月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
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中央大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了 博士(経済学)。専門分野はエネルギー経済学、環境経済学。現在はエネルギー(主に電力)に関する経済分析に取り組んでいる。
【主要な著作・論文等】
- Takanori Ida, Naoya Motegi, Yoshiaki Ushifusa(2019) “Behavioral study of personalized automated demand response in the workplace, ” Energy Policy, Volume 132, pp.1009-1016.
- Takaaki Kato, Ayano Tokuhara, Yoshiaki Ushifusa, Arata Sakurai, Keiji Aramaki, Fumitaka Maruyama(2016)“Consumer responses to critical peak pricing: Impacts of maximum electricity-saving behavior,” The Electricity Journal, Volume 29, Issue 2, pp.12-19.
- Yao Zhang, Weijun Gao, Yoshiaki Ushifusa, Wei Chen, Soichiro Kuroki(2015) “An Exploratory Analysis of Kitakyushu Residential Customer Response to Dynamic Electricity Pricing”, Urban Planning and Architectural Design for Sustainable Development, pp.409-416, University of Salento, Lecce, Italy.
- Yan Zheng, Didit Novianto, Yao Zhang, Yoshiaki Ushifusa, Weijun Gao(2015)“Study on Residential Lifestyle and Energy Use of Japanese Apartment/Multidwelling Unit”, Urban Planning and Architectural Design for Sustainable Development, pp.388-397, University of Salento, Lecce, Italy.
- Weijun Gao, Liyang Fan, Yoshiaki Ushifusa, Qunyin Gu, Jianxing Ren(2015),“Possibility and Challenge of Smart Community in Japan”, Urban Planning and Architectural Design for Sustainable Development, pp.109-118, University of Salento, Lecce, Italy.
- Ushifusa, Y. and A. Tomohara(2013)“Productivity and Labor Density: Agglomeration Effects over Time”, Atlantic Economic Journal 41(2): 123-132.
●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
イノベーションプロバイダー、ファミリービジネス二代目経営者、起業家、講演家、コラムニスト
山口県下関市生まれ。19歳から7年半単身オーストラリア在住後、家業の医療・福祉・介護イノベーションを目指す株式会社モリワカの専務取締役に就任。その後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学ぶ。約6年間シリコンバレーと日本を行き来し、株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業。近年はNextシリコンバレー(イスラエル、インド、フランスなど)のエコシステムのキープレーヤーとのパートナーシップと英語での高い交渉力を活かし、スタートアップ支援やマッチングを行う。「日本各地でのイノベーション・エコシステムの構築方法」や「どのように海外スタートアップと協業しオープンイノベーションを起こすか」を大企業、銀行、大学などで講演、病院ではリーダーシップセミナーを行う。国内外アクセラレーター支援、スタートアップイベント運営、ピッチ指導(英語・日本語)等も行う。
株式会社シリコンバレーベンチャーズ代表取締役社長 (兼) CEO
株式会社モリワカ専務取締役(兼)CIO
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
MIB Myanmar Institute of Business 客員教授
Startup GRIND Fukuoka ディレクター
著書「ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?」