「事業の適法性」は、許認可の取得、投資家への説明、上場審査など、スタートアップが成長していく様々な場面で問題となる法務の重要テーマの一つです。「事業の適法性」という言葉に明確な定義があるわけではありませんが、本稿では、「企業が事業を行う上で適用され得る法令の遵守」と広い意味で捉えることとします。
このシリーズでは、事業の適法性について、起業家の皆さんに押さえておいて頂きたい基本的な事項を3回に分けてご紹介していきます。第1回目となる今回は、事業の適法性を確保していないと、どのようなリスクが現実的に生じ得るのかをご説明します。

1 事業の適法性を確保していない場合のリスク

1)投資契約におけるリスク

昨今、スタートアップの投資契約書がコモディティ化しつつあることもあり(経済産業省『我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項』等)、創業から間もない段階の資金調達においても、投資契約書の中に表明保証条項の一部として「事業に関する法令が遵守されていること」等が定められていることが多く見受けられます。
表明保証条項への違反は、投資家による株式買取請求権の行使条件となっていることも多いため、契約の当事者である会社や経営株主等は、事業の適法性を確保できないことにより、少なくとも株価相当額のリスクを負うおそれがあります。
なお、バイアウトの際の契約条項にも同種の定めが置かれることが一般的であるため、上記と同様のリスクが生じることになります。

2)デューディリジェンスにおけるリスク

金額規模の大きな資金調達やバイアウトが実施される場合には、投資家や買収者から会社の法的なリスクの洗出しと分析を行うための調査(「法務デューディリジェンス」といいます)の実施を求められることがほとんどです。
法務デューディリジェンスの段階で法令違反が発覚する場合には、調達金額や買収価額の算定に悪影響が生じるリスクや、法令違反に対する行政処分等に備え特別補償を求められるなど契約条件が不利になるリスク、法令違反の内容によっては資金調達やバイアウトそのものが中止となるリスクもあります。

3)上場承認に支障が生じるリスク

主幹事証券会社による引受審査や、証券取引所による上場審査では厳格な質問対応が求められます。指摘される法令違反に気づいていなければそれ自体が命取りになります。また、法令違反に気づいていながらそれを是正していないのであれば、よほど合理的な説明ができない限り、やはり各審査で承認を得ることは難しくなります。

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2 事業の適法性を確保し維持することの難しさ

事業に対応する法律が存在する場合、同じ法律の中でも具体的なビジネススキームによって適用される条文が変わり、守るべきルールが異なることも珍しくありません。法令には、施行規則や施行令といった法律より下位のルールも存在するため、それら全てを守らなければ事業の適法性は確保できません。さらに、法令には改正もあるため、油断していると違法な状態が容易に生じてしまいます。
そして、厳密には法令ではありませんが、法令を所管する行政庁が公表する各種ガイドライン等についても、企業が成長するにつれて、遵守すべき立場に置かれていくことになります。
このように事業の適法性を確保するためには、確認すべき事項が多岐にわたるほか、法令の内容が抽象的であるため、その内容を確認するだけでは答えが出ないという問題も生じます。事業の適法性の確保のため、法務やコンプライアンスの専門部署を設置し、インハウスローヤー(組織内弁護士)を迎え入れるといったことも考えられますが、全ての会社でそのような対応が可能なわけではありません。そこで、次回は、起業家の皆さんが適法性を確保するために活用できる手段について解説します。

以上

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提供
執筆:五三法律事務所 弁護士 猿渡 馨
弁護士登録後、スタートアップを中心的なクライアントとし、ファイナンスや上場支援、人事労務など、様々な企業法務を経験。現在は、企業(使用者)側の立場で、労働事件を主に取り扱う。
https://www.imlaw.jp/lawyer-2.html

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