審査員の目を引く、「競争型補助金」の申請書の書き方
補助金は、原則として融資のような返済義務がなく、種類も多いため、創業間もない企業でも利用しやすい資金調達の1つです。ただし、研究開発や経営革新・地域活性化などに関する補助金は、多数の応募者の中で審査を通過した企業にだけ支給される「競争型補助金」が多いです。そこで重要になるのが、審査員の目を引く「申請書」です。
審査員の目を引くというと、技術的なレベルや開発テーマの価値が一層大切に思われますが、それ以上に意識しておきたいのは、「審査員が直感的に理解できる分かりやすい申請書」を作成することです。大切なポイントを、競争型補助金の申請書を例にご紹介します。
1 いきなり書き出さない
申請書は、一言で言えば、「なぜ補助金が欲しいのか」を審査員に伝えるためのものです。「自社がやりたいことを書けばいいのだろう」と思われるかもしれませんが、ストーリーをいきなり書き出すのはNGです。
最初にやるべきことは、補助事業(補助金の対象となる事業)の「目的」の確認です。補助金は補助事業者(政府や自治体)の施策に沿って、必要な事業を展開するための資金です。これを獲得しようというわけですから、自身の「こんなことがやりたい!」という熱意だけではなく、「自社の取り組みがいかに補助金を受領するにふさわしいか」をアピールすることが重要なのです。
補助金の公募要領や補助事業に関するガイドライン(補助金の公募サイトに掲載されている場合があります)に目を通し、「補助事業が求めている目的」を理解すれば、それに沿って自社の取り組みがアピールしやすくなります。
2 タイトルは看板
申請書の冒頭には、研究開発テーマ、つまり「タイトル」を書きます。「30字以内」など、文字数が制限されていることもあります。このタイトルは非常に重要です。多忙な審査員が、「紙に書かれた情報のみ」で合否を判断するからです。
審査員は、一度に多くの申請書に目を通します。審査員の経験を持つ複数の方に聞いたところ、「タイトルが分かりづらいと読む気にならないので、アウト」と言っていました。そうした意味では、タイトルは「少ない字数で分かりやすく表現する」だけでなく、「キャッチーな表現にする」ことも必要です。
また、良いタイトルがつけられている申請書は、その内容自体も簡潔で、分かりやすくまとまっていることが多いようです。タイトルからして、内容を練り込んでいるということです。実際、私が企業にアドバイスをする際も、最初にタイトルを決めて書き出すのではなく、全体の内容を書いてから、最後に参加メンバー全員でじっくり時間をかけて決めるようにと伝えています。
3 シナリオライターのように書く
次に、申請書のストーリーについてです。タイトルと同様、ストーリーも審査員がすんなり理解できる分かりやすい内容にすることがポイントです。審査員は「内容の分かりやすい申請書ほど、計画の価値が明確である」という認識であるため、理解しやすいストーリーを重視するのです。
ストーリーを作成する際は、いま一度「自社が補助金を使ってやりたいこと」を整理します。流れが決まったら、次は「伝わりやすい表現」に落とし込んでいきます。審査員は、必ずしも自社が手掛ける技術やサービスに精通しているわけではないので、申請書全体で訴えたい内容を表現するストーリーを組み立てて、それに沿って平易な表現を心掛けます。図や写真を配置するとイメージがしやすくなるのでお勧めします。
4 「定量的」に表現し、「根拠」を記載する
競争型補助金の申請書を書く際は、できるだけ「定量的な表現」を心掛けます。例えば、特徴を強調したい場合は「徹底した低廉化」や「画期的な軽量化」と記載したくなりますが、「従来方式から35%のコスト削減」や「同等品の10分の1の重量」のように事実を数字で表します。
また、「新規性」は多くの補助金で評価されますが、その記載方法には注意しましょう。次に挙げるような、業界の状況が分からないと理解できない表現や用語になっている場合があるので、適切に使い分けましょう。
- 従来品より優れていて1~2年で実用化が見込まれる技術:「高度な」
- 従来なし得なかった技術であり、実用化までに3~5年が必要:「次世代の」
- 発想自体が新しく、社会への影響が大きく、実用化までに5~10年が必要:「革新的な」
さらに数字を使う場合、できるだけその根拠も記載します。製品化が実現できれば「全く新しい市場が開拓できる」などと言いたいときは、次のように記載します。
○○機器分野の年間X億円の市場(2020年度版A社「○○市場リポート」より)が、新たなマーケットとして期待できる。
文章で事業の優劣を判断して合否を決める競争型補助金では、具体的な数値が書かれたものが有利であるとご理解ください。
5 「絵」で伝える
表現を工夫しても、文章だけではどうしても難しい場合があります。そこで、図や写真を使います。特に、新製品や新サービスの開発や事業化を申請書に記載する場合、極端に言えば適切な図や写真やグラフなどのビジュアルパーツをストーリーに合わせた順番に並べ、文章は、その説明として加えていく程度の感覚でもよいでしょう。
上図は以前、歯科用医療機器の開発に関する補助金申請をされたお客様が、「顎の骨に埋めるインプラントに細菌が繁殖することにより顎の骨が溶けてしまう様子(インプラント周囲炎)」を説明するために使用したものです。
決して精緻な絵ではありませんが、「インプラント」という言葉を知らない人にも、この病気の恐ろしさが一目で分かると思います。逆に、絵を使わずに文章だけで、インプラントの仕組みやインプラント周囲炎の症状を表現することを想像していただければ、ビジュアルの持つ力をご理解いただけると思います。
6 公募要領と記入例は宝の山
公募要領は50ページを超えることもあるため読み込むのはつらいですが、ここには申請書を作成するのに必要な全ての内容が収納されており、まさに宝の山です。注意書きなども読み飛ばさずに確認しましょう。特に提出書類に関する注意書きについては、よく確認してください。注意書きを見落としたことで、関連書類に不備があり、時間をかけて作成した申請書が受理してもらえないということもあり得ます。また、必ず書かれている「評価(または審査)基準」については、審査員が求める提案の内容が箇条書きで多角的に表現されています。全ての項目に対して、漏れなく適切に回答するつもりで申請書を作成しましょう。
最後に、公募要領の後半か別冊で用意されている「記入例」は、各章ごとに審査員が求めている答えを、どのような形で表現すべきかに関するヒント集との認識を持って十分に活用しましょう。
7 「どうしても分からない」ときにすべきこと
申請書を書き進めるうちに、どう記載すればよいのか分からなくなってしまった場合は、迷わず事務局に問い合わせましょう。事務局の連絡先は、公募要領や公募サイトで確認できます。その場で答えが得られないこともありますが、回答可能な質問であれば大半の場合、2営業日程度で回答が届きます。
8 提出前の最終仕上げ
申請書が完成したら、誤字脱字をチェックし、提出となります!
と言いたいところですが、ここでもう一度公募要領に目を通すことをお勧めします。複数人で手分けして申請書を作成した場合、作成者全員で公募要領を読み直すとよいでしょう。
作成者本人は既に申請書の内容がよく頭に入っているため、改めて公募要領を読み直すと、頭の中の申請書を客観的な目で見直すことができます。申請書を記載するのに夢中になってうっかり記載し忘れた項目や、思い違いをしていた内容が見つかることがありますし、「全体の流れを考えて、ここの部分を審査員にもっと強調すべき」といった気付きを得られることも多いです。大変な作業に思われるかもしれませんが、実際は公募要領の見直しで10~15分、レベルによりますが、それ基づく修正時間は30~40分程度で十分かと思います。
以上のようなポイントを押さえれば、きっとアピール度の高い申請書を作成できるでしょう。補助金獲得を目指して、ぜひチャレンジしてみてください。
以上
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認定経営革新等支援機関
早稲田大学理工学部卒業後、産業用機械メーカー、広告代理店、外資系通信会社を経て2006年より現職。工学系の業務経験及び外資系通信会社における対官庁折衝の経験に基づき、研究開発系中小企業を中心としたイノベーションを目指す公的資金の活用を支援。 NEDO、JST、AMED他の公的事業における補助金申請から予算執行のマネジメントまで、中小企業に伴走しつつ目的の達成を支援するスタイルで、創業以来支援先資金調達の総額が20億円を超える実績あり。またこれらの実績を通じて産学連携、特にエネルギー、医療機器分野では多くの国公立大学、私立医大との連携経験豊富。