近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 すいません、ファイルが開かないんですが(汗)

オトナのイライラ・モヤモヤ
添付ファイルに暗号化したパスワード付きのZipファイルを送付する。分かるよ、情報漏えい防止のためでしょ。でもさ、パスワードを要求されただけで、なんか焦るんだよね。送ってきたパスワードもすごく複雑だから、けっこう打ち間違うし。わざと複雑にしてない? え? パスワードはコピペするのが常識だって? それ早く言ってよ。

若者のホンネ
パスワードのコピペ、前にも説明したじゃないですか。ITは難しいって毛嫌いしてるけど、こんなの初歩の初歩ですよ。だいたい業務に必要なスキルなんだし、身につけようとしないのは、怠慢だと思いますけど。

ITは今や必須のビジネスツールです。それなしでは、企業活動そのものに支障が出るケースも決して珍しくありません。それでいくと、社会人であれば誰もができて当然であり、業務に必要なスキルだということになります。
にもかかわらず、できないというのは、身につけようとしないほうが悪い。若者はそう考えます。特にZ世代はデジタルネイティブと言われるほどITに慣れ親しんで育ってきました。PCやタブレットといったツールは、学生時代から講義や論文で、あるいは就職活動で使用しています。ITスキル、リテラシーが高く活用に意欲的な若者からすると、冒頭のシーンのように、「ITに疎い、イコール怠慢」であると感じてしまうのです。

2 下剋上ハラスメントの時代

そういう状況から生まれてきたのが「テクハラ」です。 テクノロジーハラスメントの略で、IT関連に疎く、PCやスマートフォンなどの扱いが苦手な人へのいじめや嫌がらせのことです。
今では、なんでもハラスメントになってしまう時代ですが、数ある職場系ハラスメントは、ほぼ上から下へのものです。今までは、上が「それ前に言ったよね!」、下が「えっ……」となってしまう。そういうベクトルのハラスメントでした。
しかし、このテクハラに限っては、下から上へのハラスメントがほとんど。デジタルツールの使い方を覚えられないオトナに、若手が「それ、前にも説明しましたよね」と発言する。で、オトナが「えっ……」とショックを受ける。今や、ITを巡って、下からハラスメントを受ける時代になったのです。

テクハラは当初、IT機器に相当疎い一部の中高年社員が対象でした。それこそ、メール1通送るのに時間をかけているオトナに対して、若者がイラモヤして「チッ」と舌打ちする。仕事がデキるオトナほど、プライドが傷つけられる。こんなシーンが多かったんだと思います。しかし、クラウドサービス利用の増加、コロナ禍での在宅勤務、テレワークの導入など、環境の変化に伴いIT環境はあっという間に変わっていきました。テクハラの恐怖は、大半の大人世代に忍び寄ってきています。

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3 日進月歩の進化に追いつけない

冒頭のファイルの送り方なんかも、IT環境の日進月歩を示す一事例です。あの方式はPPAPと言って「パスワード(Password)付きZip」「パスワード(Password)送信」「暗号(Angou)化」「プロトコル(Protocol)」の頭文字をとったもの。長らくセキュリティ対策の定番でした。
それが今、実はセキュリティの脆弱性について指摘されているのです。デジタル庁は、「中央省庁の職員はPPAP方式を使ってはならない」という方針を打ち出しました。
我々オトナからすると寝耳に水。「え? せっかく覚えたのに、やり方が変わっちゃうの?」って感じじゃないですか。
ある程度リテラシーのあるオトナであっても、日々、アップデートされるITには、追いついていけない状況になりつつあります。しかし、ここで一歩踏み出せないと、若手との格差はさらに広がっていきます。

4 PC接続くらい、ちょっと手伝ってくれてもいいでしょ

オトナのイライラ・モヤモヤ
最近、会社のパソコンが変わった。あ、パソコンじゃなくて、最近はPCって言うのか。それはさておき、この設定ってどうやればいいの? メールの設定とか、プリンターの接続とか、データのバックアップとか、さっぱり分かんない。恐る恐る若手に「ちょっと手伝ってよ」ってお願いしたら、すごく嫌な顔された。

若者のホンネ
設定だって、接続だって、一回くらいは手伝いますよ。でも一回手伝うと、これは?あれは?それは?って、いつも頼ってきますよね。挙句の果てには、業務上のPC操作だけでなく、プライベートのスマホの設定までお願いされたり。こっちはサポートセンターじゃないんですから。

冒頭の「すいません、ファイルが開かないんですが(汗)」という場面で紹介した「テクハラ」が増えてくる一方で、最近では、実は「逆テクハラ」という言葉も話題になっています。逆テクハラとは、IT関連の知識が豊富で得意な社員に、そういった関連の作業を押しつけることを指します。
これは、職場では上位の立場にある、かつITへの苦手意識があるオトナ世代が、「ITからは逃げよう、得意な若者にやらせればいいんだ」と開き直ったために起こる事象といえます。

5 IT弱者のオトナ世代が逆襲

人間誰しもプライドはあります。それが長年生きて積み重ねた経験があればなおさらです。新しいものを習得するためには、誰かに教えを乞うか、自身で身につける必要があります。
しかし、プライドが邪魔すると、部下などの若手には素直に聞くことができません。仮に勇気を出して聞きにいったとしても、PC設定など、ごく稀にしか発生しない業務は、結局覚えられない。あるいは、教えてもらってもよく分からない。だからといって、自身で身につけようと思っても、基礎知識が足りないし、情報があるのはネット上だったりするので、調べるのが難しい……。そこでつまずくと、代わりにやってもらおうという心理が働きがちです。

結果として、ITを若者に押しつけようとするオトナが大発生してしまうんでしょう。いってみれば、IT弱者であるオトナ世代の開き直りによる逆襲です。

6 時間を奪われることがストレス

「今までITとの接点が少なかった世代が、高圧的な態度を取りITから逃げている」
「分からなくて当たり前とか、分かりやすく作らないほうが悪いという発言が老害」
「PCに詳しい=何でもできると思ってる。分からない設定も無理やりやらされる」
「私物PCのセットアップなど、普通はお金払ってやってもらうものへの感謝がない」
ネット上では、若者の手厳しい声があふれています。

若手社員は、オトナのITに対する理解不足に対して、当然イライラ・モヤモヤしています。しかしそれ以上に、時間を奪われることにイライラ・モヤモヤしているのです。一度や二度の質問は良いのですが、何度も同じことを聞かれる。代わりにやってと頼まれる。これは、時間を大事にする若者にとっては、明らかに時間を奪われる=業務を圧迫されることに他なりません。

ITに詳しい人間が「強者」で、ITに疎い人間が「弱者」。これがテクハラの温床になっていたわけです。しかしオトナの開き直りは、ITに疎い人間が「強者」でITに詳しい人間が「弱者」という立場の逆転構造を生んでしまったのです。
むしろ、テクハラよりも逆テクハラのほうが発生ケースとしては多く、深刻なものが多いのではないでしょうか。

7 イライラ・モヤモヤ解消法

テクハラに遭遇しない、逆テクハラを引き起こさない。そのためには、やっぱりオトナ世代が頑張って、ある程度のITリテラシーを身につけることなんだと思います。
ちなみに、最低限のITリテラシーとして定義されるのは、「Excel、パワポを使える」「リモート会議の設定」「書類のPDF化」「メールの設定」「スクリーンショット」だという声が大多数でした。この5つはマスターしましょう。あ、これ、筆者自身にも言ってます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
平賀充記(ひらが あつのり)
株式会社ツナググループ・ホールディングス エグゼクティブフェロー 兼 ツナグ働き方研究所所長。1988年(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「タウンワーク」「はたらいく」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年(株)リクルートジョブズ・メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、いまに至る。
著書に『非正規って言うな!』(クロスメディアマーケティング)、『神採用メソッド』(かんき出版)、『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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