友人から、「事業を始めるので100万円の資金を提供してほしい」と言われました。その友人いわく、「今すぐに100万円を提供してくれたら、100%の確率で5年後に100万円を返す」とのこと。あなたがそれを信用した場合、友人に資金を提供しますか?

今の100万円と5年後の100万円の価値が同じであれば、資金を提供してもよいでしょう。しかし実際は、今の100万円は5年後の100万円に比べ価値がある、すなわち、貨幣には時間的価値があると考えます。これが「現在価値」の考え方のポイントです。


財務・会計の基本が分かる

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1 財務会計と管理会計とは?

財務会計とは、企業外部の利害関係者に対して、過去の財政状態や経営状況を示すために行われるものです。一定のルール(会計制度)に基づき比較可能性を担保した状態で財務諸表などを作成、公表します。企業外部の利害関係者に対して公表されるものであるため、内容の正確性が重視されます。集計単位は、企業単体やグループ中心となります。

一方、管理会計とは、企業内部、特に経営者が、経営の意思決定に使うことを目的としたものであり、将来志向の強いものとなります。企業内部で利用される管理会計は、経営者が欲しい情報を反映させるため、企業ごとに内容が大きく異なり、規制されるルールも特にありません。経営者の意思決定のためにタイムリーな情報提供が必要となるため、迅速性が重視されます。集計単位は、企業単体やグループ中心だけではなく、事業別・部門別・地域別などとなります。

財務会計と管理会計の特徴をまとめると次のようになります。

財務会計と管理会計のそれぞれの特徴を示した画像です

ここからは管理会計に注目し、「現状分析」「業績管理」「意思決定」の3つの視点でポイントを整理していきます。

2 現状分析

1)収益性・成長性の分析

収益の向上は経営の大きな目的の1つです。経営資源を効率的に回し、成果を得ることができているかどうかを把握することが必要であり、具体的には、売上高や売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高当期純利益率の推移や傾向を分析します。

2)安全性・キャッシュフローの分析

安全性の観点で特に重要となるのがキャッシュフローです。黒字倒産という言葉があるように、利益が出ていても資金がショートする恐れがあるからです。キャッシュフローの分析では、全体、あるいは項目別(営業・投資・財務)キャッシュフローの増減分析だけではなく、営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー÷売上高)で、売上高からどれだけのキャッシュを生み出しているのかを売上高営業利益率と比較して把握します。

また、運転資本の増減推移による分析などで「日々の資金繰りが問題なく行えていけるか」、自己資本比率・流動比率や固定長期適合率などで「資産・負債・純資産のバランスに違和感がないか」、債務償還年数(有利子負債÷営業キャッシュフロー)などで「長期的な借入金の返済にも耐えられる体力が企業にあるか」を分析します。

3)生産性・効率性の分析

生産性の分析では、主により少ない資源でいかに多くのアウトプットを生み出しているかどうかを把握します。具体的には1人当たり売上高や労働分配率の推移を確認し、人員の増加がしっかりと企業の成長につながっているか、より効率的に収益を上げるためにはどうするかなどを分析します。特にサービス業ではこの指標をより良くすることが必須となっています。

3 業績管理

1)業績管理の概要

主に現状分析で把握した情報を基にしながら、利益とキャッシュフローによる業績管理を行います。自社の利益構造を分析して、企業を取り巻く環境の変化に対応しながら、目標達成のための年間予算や複数年の利益目標などを設定します。業績管理ではさまざまな手法が用いられますが、損益分岐点分析と変動損益計算書が基本的な手法です。

2)損益分岐点分析

損益分岐点分析では、売上高の増加とともにどれくらいの利益が確保できるのか、固定費の回収ができる売上高である損益分岐点売上高(固定費÷限界利益率)がいくらなのかを把握します。限界利益率とは、売上高に占める限界利益の割合です。限界利益は、売上高から変動費を差し引いたものであり、文字通り、限界の利益となります。

売上高の変動幅や会社の成長性によって固定費と変動費の適切な割合は変化しますが、一般的に損益分岐点比率(損益分岐点売上高÷売上高)が80%以下であれば優良とされています。

3)変動損益計算書

変動損益計算書とは、費用を固定費と変動費に分けて作成する損益計算書のことです。損益分岐点分析で全体の状況を把握した後、部門別に固定費の回収ができているかを確認するため、部門別の変動損益計算書を作成します。これを基に、利益の源泉を把握して、成長のために経営資源をどこにどれだけ投入するか検討します。部門別損益計算書の例は次の通りです。

部門別損益計算書を示した画像です

この部門別損益計算書を基に部門別変動損益計算書を作成すると、次のようになります。

部門別変動損益計算書を示した画像です

4)その他の業績管理のための手法

損益分岐点分析や変動損益計算書の方法の他にも、業績管理にはさまざまな手法が活用されます。例えば、バランススコアカードやABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)などがあります。

詳細な説明は省略しますが、バランススコアカードとは、企業のビジョンや戦略を明確にした上で、それを実現するために必要となる要素を「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「成長と学習の視点」の4つの視点で整理し、管理を行っていく際のフレームワークです。

また、ABCとは、特に製造間接費の正確な把握に効果がある原価計算の方法で、原価管理や利益管理に際して有益な情報を提供してくれます。

こうした手法を活用することは有益ですが、相応の手間がかかります。自社における導入効果を見極めつつ、活用を検討する必要があります。

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4 意思決定

意思決定は大きく2つに分かれます。1つは、前述した現状分析や業績管理などを基に、PDCAサイクルを回すなかでの短期的、日常的な意思決定です。例えば、図表3の部門別変動損益計算書を基に、「売上高に正比例する限界利益が大きいB部門を強化する」「部門別利益の段階でマイナスとなっているC部門について、コスト削減を図る」といった意思決定が該当します。

もう1つは長期的な将来にまで影響を及ぼす設備投資やM&Aなどの意思決定です。これらは、金額や経営に及ぶ影響が大きく、不確実性の高い判断となるため、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を活用し、投資金額の決定や投資回収のシミュレーションを慎重に行いながら意思決定を行います。


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以上

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執筆:グローウィン・パートナーズ株式会社
「プロの経営参謀」としてクライアントを成長(Growth)と成功(win)に導くために、(1)上場企業のクライアントを中心に、設立以来400件以上のM&Aサポート実績を誇るフィナンシャル・アドバイザリー事業、(2)「会計ナレッジ」「経理プロセスノウハウ」「経営分析力」に「ITソリューション」を掛け合わせた業務プロセスコンサルティングを提供するAccounting Tech® Solution事業、(3)ベンチャーキャピタル事業の3つの事業を展開している。
大手コンサルファーム出身者、上場企業の財務経理経験者、大手監査法人出身の公認会計士を中心としたプロフェッショナル集団であり、多くの実績とノウハウに基づきクライアントの経営課題に挑んでいる。

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