今回はシェアリングエコノミーの中でも、2020年に開催される東京五輪に向けて話題になっている“民泊”についてお伝えしていきます。

米国のAirbnbを筆頭に、さまざまな企業が民泊関連サービスの市場に参入しています。ただし、民泊を提供する場合は、日数の制限など業法との兼ね合いが問題となるなど課題もあります。

1 従来の宿泊業と民泊の違い

民泊とは、“有償で自宅などを貸し出し、人を泊める”ことです。遠方から来た友人を無料で自宅へ泊めることはよくある光景ですが、近年、日常での関係性がない他人を、有償で自宅(一般住宅)に宿泊させる、つまり宿泊業ではないものの、事業として宿泊サービスを提供する動きが起こってきました。

日本でも農家などが都会の若者などを受け入れて農業体験と宿泊をセットにした“農泊”が話題になっています。海外ではシェアリングエコノミー人気の中、転勤で住むことのできない自宅を使って収益化を図りたい人や、副業で収入を増やしたいという思いを持つ人を中心に、民泊事業が普及。「インターネット上で空き部屋と泊まりたい人をマッチングするサービス」として、日本へも上陸しました。

日本国内では、ホテルや旅館へ泊まるのが主流。民泊を選ぶユーザーは、価格の安さや他の宿泊者との交流を求める層、すなわち若い旅行客や学生などが多く、外国人も少なくありません。一方で、民泊は騒音やゴミ出しなど、近隣住民や管理者とのマナー感覚のギャップがしばしばトラブルに発展することもあるようです。

2 宿泊に関する業法の整理

宿泊を業として行う、すなわち、有償で人を泊まらせるとなると、なんらかの業態に分類されることとなります。従来は厚生労働省が主管となり旅館業法が制定されていましたが、民泊が登場したことで、宿泊業に関しては、現在では次の3つの業法のいずれかの規制を受ける整理となっています。

 1)旅館業法
 2)民泊新法
 3)特区民泊

以降で、それぞれについて見てみましょう。

1)旅館業法

旅館業法における宿泊とは、「寝具を利用して人を宿泊させること」と定義されています。例外として、ネットカフェなどは旅館業法で定義する宿泊を提供している施設には当たらないこととなっています。ネットカフェの椅子はあくまでソファ、ブランケットは寒さ対策ということで、「うっかり眠ることはあっても、元来は寝具もなく宿泊目的で貸し出していない」という整理です。

旅館業法では現在、宿泊を提供する施設は次の3種に区分されており、いずれかに該当すると都道府県知事の許可を得る必要があります。また、宿泊料の他、みなし宿泊料と呼ばれる休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱・水道費、室内清掃費などを顧客から受領する場合にも、旅館業法区分の許認可が必要です。

施設別の施設基準などを示した画像です

施設別の施設数の推移をを示した画像です

種別としては旅館営業の施設数が最も多いものの、家族経営や地方の旅館は、特にバブル崩壊後にその経営が厳しくなったこともあり、その数は減少傾向にあります。

2)民泊新法

民泊は、旅館業法で定める施設基準などには合致しない施設、既存の一般住宅で、空き部屋に布団を敷いて人を宿泊させるなどしており、どのように規制するのかという問題が出てきました。

そこで、専用施設の運営ではなく、一般住宅を利用して人を宿泊させる事業について新法が成立しました。これが住宅宿泊事業法、通称・民泊新法(2018年6月15日施行)です。

この法律にのっとって申請をした場合、「届出住宅」となり、消防法令上、防火対象物として分類されます。旅館業法で定められている施設基準ほどではありませんが、ホテルや旅館並みの防火設備(火災報知器、スプリンクラー等)を整えなければなりません。

この法律では宿泊日数が年間上限180日間、有償かつ反復利用が条件となります。特区民泊(詳細後述)では2泊3日以上という下限が存在しますが、民泊新法では1日から可能です。

民泊新法では、次の2つの種類が存在します。

1.家主居住型

住宅提供者が、住まいの一部を貸し出す形態です。最大のメリットは、このタイプかつ宿泊室が50平方メートル以下であれば、防火対象物の対象外とみなされることです。防火設備が不要なことは、民泊開業のハードルを大きく下げるでしょう。また、清掃などの管理を委託する義務もないため、費用負担が軽い半面、洗濯や掃除といったケアが必要になります。

180日制限を鑑みても、気軽に趣味や交流目的で民泊をやってみたい人に向いた制度といえるでしょう。

2.家主不在型

家主が不在のまま、貸し切り状態で貸し出しをする形態です。管理人がいないため、騒音などが発生しやすく、近隣住民とのトラブルのもととなる場合があるようです。また、このタイプは清掃などを管理会社へ委託することとなっています。

こちらにも180日制限があるので、長期出張時の自宅やセカンドハウスなど、長期間家を空けているが少しでも運用益を得たい人に向いていると考えられます。

3)特区民泊

旅館業法の特例を活用した特定の地域で運営が可能な制度で、東京都大田区、神奈川県、愛知県、大阪府と大阪市などが対象となっています。居室の床面積が25平方メートル以上、最低宿泊日数が2泊3日以上という制限があるので、「1泊2日の週末モデル」などを行いたい人にはハードルがやや高くなっています。

趣味かつ副業などで民泊を提供するのであれば、家主同居型が恐らく適していると思われます。一方、事業として民泊を成り立たせて、恒常的に収益を上げていくにはどうしたらよいのでしょうか。

民泊新法にのっとれば、例えば投資家が民泊専用で住宅を借り上げ運用するとしても、稼働率は年間50%が上限となっています。となると、旅館業法の簡易宿所の許認可取得が現実解となってきます。

 また、大手民泊サイトAirbnbでは、2018年6月、民泊収益性改善アドバイスを開始しています。民泊新法による180日制限を超えても運営できるよう、賃貸物件として貸せるようにするなどの支援を行っています。こうした専門家のコンサルティングなどを受けて、収益の改善を図っていく方法もあるかもしれません。


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3 民泊事業に関連するトピックス

1)民泊関連ビジネス

民泊に関連するビジネスは、民泊自体やマッチングサービスを提供するだけにとどまりません。例えば、清掃や受付対応などは家主不在型の施設を運営する場合に大きな課題となるので、これを解決するためのビジネスにも注目が集まっています。例えば、家事代行、無人受付システム、スマートロックなどの関連ビジネスがあります。

2)新たなビジネスモデル

 FinTech(フィンテック)では、QRコード決済などの勃興に対してApple PayやGoogle Payのように、複数のサービスを束ねるプラットフォーム型ビジネスが出現しました。民泊においても同様の動きが出てきています。

その1つが、“ホステルパス”です。株式会社Little Japanが運営し、登録してあるゲストハウスであれば、月額料金の中で泊まれるというもので、回数制限などはありますが、家とよく行く場所が離れている人にとっては注目のビジネスモデルです。

現在、首都圏では多くの宿泊施設が建設されており、一部では供給過多との指摘もあります。しかし、多くのインバウンドが来日する2020年の東京五輪の開催期間中は、宿泊施設が不足するとの予測もあります。

また、インバウンドの中には、日本の日常を体験したいというニーズもあり、民泊への関心は高いものと思われます。

以上

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提供
執筆:Eriko Nonaka
新卒でメガバンクに入社。
現在はIT企業でFintech新規事業開発に携わる。フリーランスとしても活動しており、企画やPM等でベンチャー支援を行う。働き方改革にも注目しており、パラレルワーカー等ネオワーカーにフィーチャーしたメディアを運営。

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