各種交通手段を1つのサービスとして考える「MaaS(Mobility as a Service)」。自動運転などのテクノロジーは、今後訪れようとするMaaS社会をどう支え、私たちの生活をどう変えるのか。MaaSに進化する“移動体験”に続き、ここでは、2019年11月15日に開催されたイベント「Mobility Transformation―移動の進化への挑戦―」の主要セッションの内容を紹介します。

1 電気自動車やコネクテッド・カーを想定した安全対策とサービス拡充を

渋滞や事故を加味した最適な移動ルートの算出、移動に伴う決済の簡略化、自動運転によるドライバーの負荷軽減……。MaaSが本格的に社会に根付けば、移動の利便性や効率性を図れるようになる他、交通事故も減少するといわれています。では、これまで事前の備えとして不可欠だった保険は、どんな形で進化するのでしょうか。

「モビリティの変化に伴う保険・サービスの未来」と題したセッションでは、プレステージ・コアソリューションの執行役員第一事業部長である松永新悟氏と、アクサ損害保険の執行役員 CTOである佐藤賢一氏が登壇。今後の保険のあり方について講演しました。

プレステージ・コアソリューションの松永新悟氏

松永氏は冒頭、MaaSの中心的な役割を担うことが想定される自動車の特性を踏まえた安全対策の必要性を指摘しました。「保険業界が関わる自動車は一般的に『事故車』。電気自動車が普及すれば、ガソリン車では見られなかった漏電のような新たなリスクも顕在化する。保険業界は電気自動車の普及を見据えた対策が求められる」と言いました。ロードサービスを手掛ける同社は、既に全ての出動車両に絶縁グローブを具備するなどの対策を講じているそうです。今後は出動車両を電気自動車にし、バッテリー切れで動かせない事故車に充電できるようにする対策も検討します。

佐藤氏も保険業界として電気自動車への対応の必要性を強調しました。「自動車保険は現状、ガソリン車より電気自動車の保険料のほうがやや高い。電気自動車が普及したとき、合理的な計算に基づいた保険料が求められる。保険業界は、電気自動車ならではのトラブルを想定した保険商品を整備する必要がある」と指摘しました。

両氏は、自動車がインターネットに常時接続するコネクテッド・カーの普及がロードサービスに与える影響についても考察しました。

松永氏は、「コネクテッド・カーは、遠隔地にある自動車の状態を把握できるのがメリット。鍵を自動車の中に置き忘れたときなどの開錠も遠隔操作できるようになる。現地にスタッフを派遣することなく、迅速なサービス提供が可能になる」と推察しました。

佐藤氏も、「数キロ先で発生した事故の情報を後続の自動車に通知できるようになる。また、ドライバーの感情などを読み取って危険度を知らせるといった使い方も見込める。インターネットを駆使し、事故を起こさせない事前策をサービス化することも模索すべきだ」と続けました。

一方、佐藤氏は自動車がインターネットに接続することによるリスクも指摘しています。「大型トラックが遠隔地から乗っ取られればテロ行為すら容易に起こり得てしまう。保険会社として、新たに起こり得るリスクを想定した対策は不可欠だ。コネクテッド・カーなどの普及を促進させるためにも、保険会社として対応し続けたい」と述べました。

2 モビリティ革命で勢い増すスタートアップ 日本は強みを活かして市場をリードせよ

自動運転やカーシェアリング、電動化など、次々に登場するテクノロジーやビジネスモデルは、業界にどんな影響を与えるのでしょうか。「資本市場から見たモビリティ業界の今後」と題したセッションでは、新たに参入するプレーヤーの動向などが紹介されました。

投資会社であるDNX VenturesのMANAGING DIRECTORである倉林陽氏は、テクノロジーを基点にしたスタートアップの動きを紹介。「海外では『ライドシェア』によるサービスは多く、投資対象にはなりにくい。伸びているのは半導体、MaaSを支えるハードウエア。これらはデータを収集・分析する基盤として、今後も欠かせない役割を担う」と分析しました。さらに投資に向く領域として、「鉄道や航空といった交通手段は軒並み成熟しつつあるが、自動車は『自動化』『コネクテッド』『シェア』などのキーワードを中心に伸びる。中でもAIを搭載したドライブレコーダーを開発するナウトや、スクールバスをシェアするズムなどのスタートアップに注目している」と具体的な企業名を交えて市場の動きを紹介しました。

ゴールドマン・サックス証券のヴァイス・プレジデントである鎌田和博氏は、「スタートアップのビジネスモデルに着目すべき」と指摘しました。「次々登場するスタートアップを見極めるとき、ライドシェアなどの新たなサービスであるかどうかに注意を払うべきだ。今後も新しいビジネスモデルの創出が見込まれるが、サービスの基盤を構築するプラットフォーマーとして収益化できるかどうかを見極めたい。現在の株価からでは評価が分からなくても、今後、サービスがブレイクスルーするかが重要である」と述べました。

投資会社であるPlug and Play JapanのDirector,Mobilityである江原伸悟氏は、変化に追随できるスピードの重要性を強調しました。「自動車メーカーが自動車を販売するというビジネスモデルは、2020年にも変わると見ている。このとき、変わることに抵抗感なく取り組むのと、最高のチャンスと受け止めて取り組むのとではスピードが違う。既存プレーヤーがスタートアップの強みであるスピードに対抗するには、最新のテクノロジーやITとどう向き合うのかが重要だ。いつまでにMaaSに取り組むのか、サービス化するのかといったタイムラインを設定し、世の中が求めるニーズを競合より早く満たせるかが生き残る鍵だ」と指摘しました。

倉林氏、江原氏、鎌田氏の画像

モビリティ革命を日本が主導する必要性についても言及しました。江原氏は、「今のモビリティ革命は米国のスタートアップやグーグルの自動運転への取り組みなど、海外勢が中心だ。世界は日本で始めた取り組みが広がることを求めている。日本でつくれるものは何かを模索すべきだ。海外のノウハウや知見を活用し、日本発の取り組みを世界に向けて打ち出すことが重要だ」と指摘しました。

倉林氏も日本が活躍できる領域があると続けました。「ICT領域はすでに海外勢に押され気味だが、ハードウエアが欠かせないMaaSでは、日本の『ものづくり』の強みを活かせるのではないか。特に自動車とハードウエアを結び付けたビジネスモデルは日本の得意分野に違いない。新たなテクノロジーに目を向け、モビリティ革命を日本がリードすべきだ」と結びました。

3 サプライズでウサイン・ボルト氏が登壇 電動キックボードのシェアリングを日本で展開

イベント終盤、セッション終了後のサプライズとしてウサイン・ボルト氏が壇上に上がりました。同氏が共同出資するBolt Mobilityが新サービスを発表するのに合わせて登壇しました。

ウサイン・ボルト氏の画像

同社は、電動キックボードを使ったシェアリングサービスを日本向けに展開することを発表。これに伴い、同社が開発した電動キックボードも紹介されました。一度の充電で約50キロメートルを走行可能で、最高速度は約24キロメートル/時、ハンドル付近にドリンクホルダーを装備しているなどの特徴を有します。なお同社は、小型の電気自転車もすでに発表済みで、動力源に電気を用いる各種移動手段を拡充するとともに、シェアリングサービスの普及・拡大を目指す構えです。

日本で電動キックボードを使うためには、原動機付自転車(原付き)として運転免許の所持やナンバープレートの取り付けなどが必要です。本格的な普及はまだ先かもしれませんが、自動車や自転車のシェアが拡大する中、キックボードやバイクのシェアも今後、急成長が見込まれる分野といえるでしょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年12月20日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

提供
執筆:Eriko Nonaka
大学卒業後にメガバンクに入社。その後、IT企業でFintechに関わる新規事業に携わるなどしてフリーランスに。現在はベンチャー支援に向けた企画立案などに関わる。働き方改革にも注目し、パラレルワーカーなどのネオワーカー向けのメディアも運営する。

PickUpコンテンツ