起業コンサルタント(R)、税理士の中野です。創業間もない経営者のみなさまのために資金繰りの基本について解説するこの連載。第1回は損益計算書や貸借対照表の基本的な読み取り方をご説明しました。第2回は、その応用編として貸借対照表をどのように分析するかについて解説していきます。
なお、第1回は、以下のコンテンツをお読みください。

1 貸借対照表の分析がなぜ大切なのか

損益計算書は項目(構造)が簡単で、わりあい誰でも簡単に読み取れます。その期の売上がいくらで、経費がいくらで、儲けである利益がいくらだったか、簡単ですよね。すぐに経営に活かすことができます。ところが貸借対照表については、基本的な項目の見方が分かったとしても、どうやって分析して、どのように経営に活かしていけば良いかわからないという方も多いのではないでしょうか。

ただ、貸借対照表をきちんと読み取れるようにならないと、現状、会社が安泰といえるのか、税金対策をすべきか、会社にお金を残すべきか、設備投資をするときに借入は必要なのかなど、具体的な経営の施策を考える上で必要な情報が頭にスッと入ってきません。貸借対照表を読み取れるようになることが経営者としての次のレベルに上がれるための試金石だともいえるでしょう。

2 安全性分析をしてみよう

まずは貸借対照表の基本的な分析として、安全性分析を学んでいきましょう。企業は存続していくことを前提に経営を行いますが、志半ばで倒産などでなくなってしまう企業があるのも現実です。有名だから、大企業だからといって、その会社がずっと生き残っていくとは限りません。逆に小さくても100年以上経営を続けている会社だってあります。知名度やイメージに囚われず、どのような会社が生き残っていけるのかを数字の面から把握するために行うのが、安全性分析です。

3 安全性分析は「お金」を重視する

会社が倒産する原因の1つは、お金がなくなってしまうからです。まずは利益を出せずに毎期、赤字を出し続けていれば、どこかでお金がなくなってしまいます。一方で、どれだけ収益性が高く黒字を出している会社でも、お金をうまく回収できなければ支払いに支障が生じて、最終的に会社は潰れてしまいます。会社にとってお金が残っているかどうかは経営のキモなのです。

4 安全性分析の注意点

安全性の分析をするに当たって注意点が1つあります。安全性の分析は、主に貸借対照表を使います。貸借対照表は期末日の一時点の情報を表しています。そのため、期末日現在の数字では安全性が高く見えても、次の期に大きな設備投資をするなどして多額の支払いがあれば、安全性の指標が大きく変化するということもあり得ます。特に、これから説明する手元流動性比率など現金や預金に関する安全性の指標については注意が必要です。
期末の一時点の数字だけを切り取って行う分析は、必ずしもその企業の本当の姿を映しているとは限りません。安全性の分析においては、こうした貸借対照表の落とし穴も理解しておくとともに、1つの指標だけで安全性が高いと判断せずに、複数の指標を用いてさまざまな視点から分析していくことがより重要です。期末の決算書だけでなく、期中の試算表でも毎月必ず確認するようにしましょう。

5 安全性を測る指標

1)手元流動性比率

安全性を測る指標には、いくつかありますが、まずは資産に注目します。資産の中で最も重要なキャッシュから測る安全性の指標を見てみましょう。

現金預金についての安全性を測る指標として、現金預金を(年間売上高÷12)で割って計算される手元(てもと)流動性(りゅうどうせい)比率(ひりつ)があります。手元流動性比率は、月の平均売上高(以下「月商」)の何カ月分の現金を保有しているかということを表します。

手元流動性比率=現金預金/(年間売上高÷12)

手元流動性比率は大体2カ月分程度が目安といわれています。コロナ禍のような先の見えない非常時にはもっと多くてもいいでしょう。手元流動性比率が低い場合は、取引先に交渉して売掛債権の回収期間を早くするなどして、手元流動性を高めることで改善できます。

貸借対照表の画像です

貸借対照表の画像です

手元流動性比率=現金預金/(年間売上高÷12)

A社にあてはめてみると…
A社の手元流動性比率=1,317,000/(39,000,000/12)=0.41
→2を大きく下回っているため、改善の必要がある=現金をもっと手元に置いておきたい。

2)売上債権回転期間

資産の中で、お金に次いで重要なのが売上債権(売掛金と受取手形)です。近い将来、お金へと代わる資産ということで、売上債権も会社経営上、しっかりと把握しておくべき資産です。

この売上債権に関する安全性の指標が売上(うりあげ)債権(さいけん)回転期間です。これは、売上債権の合計を月商で割って計算します。

売上債権回転期間=売上債権(売掛金と受取手形)の合計/(年間売上高÷12)

売上債権回転期間は、低いほどに債権回収の期間が短く経営的に望ましいといえます。数値が1以下になることを目指しましょう。手元流動性比率と同様に、売上債権の回収期間を短くすることで、売上債権回転期間の数値を改善できます。逆にこの数値が大きい場合は、売上代金の回収に時間がかかっていてお金がすぐに戻ってこない、その間の経営を回すための借入などが多く必要になるかもしれないことを意味します。

売上債権回転期間=売掛金と受取手形(売上債権)の合計/(年間売上高÷12)

A社にあてはめてみると…
A社の売上債権回転期間=(134,000+0)/(39,000,000÷12)=0.0412…
→A社の場合、売掛金も極端に少なく、1以下どころか、かなり少ない数値になった。
ほとんどが現金商売で、売上代金はすぐに回収できていることが想像される。

3)債務償還年数

次に負債に目を向けてみましょう。経営をしていく上で多くの企業が金融機関から借入を行っています。ある程度の借金を持つことは会社経営においては必要なことが多いからです。それでは、どのくらいの借入金が適正なのか見てみましょう。

今ある借入金を返そうとした場合、どの程度の年数で返せるのかといったことを見るのに、債務(さいむ)償還(しょうかん)年数(ねんすう)といわれる指標があります。債務償還年数は、貸借対照表上の借入金の合計を、「税引前当期純利益+減価償却費(注)」で割って計算します。

債務償還年数=貸借対照表上の借入金合計/(税引前当期純利益+減価償却費(注))

(注)「税引前当期純利益+減価償却費」のかわりに営業活動によるキャッシュフローを使う方法もある。

債務償還年数を見れば、本業で生み出されたお金を使ってあと何年で今の借金を返済し終えるかが分かります。数字が小さいほど返済余力があるということです。会社の借金は長くても10~15年程度です。この年数を上回ると安全性の面で要注意ということになります。つまり会社の返済能力に対して、借入金が多い可能性があるということです。

債務償還年数の改善には、分母に目を向けましょう。利益を増やし、キャッシュを生み出すことで債務償還年数の数値が低くなる、つまり改善されるということになります。

債務償還年数=貸借対照表上の借入金合計/(税引前当期純利益+減価償却費)

A社にあてはめてみると…
A社の債務償還年数=(1,000,000+3,000,000)/(55,000+600,000)=6.10…年
→およそ6.1年ということで無理ない範囲内で借入をしているということが分かる。

4)固定長期適合率

最後に固定長期適合率を見ていきましょう。固定長期適合率は固定資産を自己資本(純資産)と固定負債の合計で割ったものです。

固定長期適合率=固定資産合計/自己資本(純資産)+長期借入金など

自己資本(純資産)と長期借入金などのうち、固定資産への投資に充てられた比率のことです。この数値は100%以内になっているのが理想です。

どういうことか、簡単に説明します。例えば、本社ビルや車両、機械、パソコンなどの固定資産は、すぐに支払期限が来てしまうような流動負債で賄うものではありません。もともと自分のお金である資本金や今までの利益の積み重ねなどで構成される自己資本(純資産)や、すぐには支払期限が到来しない固定負債(長期借入金など)を使って購入すべきものです。

もし、1年以内に返済しなければならない借入金をもとにして本社ビルを建てたとすれば、本社ビル分の利益を1年間で稼がなければならないということになります。分かりにくい場合には、個人の事例で考えてみましょう。自宅マンションを買うときに、自己資金で足りないなら、35年など長期のローンで買いますよね。1年のローンを組む人はいないはずです。もし1年で組んだら、すごい額の年収を稼がないと返済できないことになってしまうからです。簡単にいえば、経営上、そのような状態を生み出してはならないということです。

固定長期適合率=固定資産合計/自己資本(純資産)+長期借入金など

A社にあてはめてみると…
A社の長期固定適合率=(7,098,000+0)/(3,000,000+3,533,000)=約108.64…%
→約108%ということで100%以内ではないものの、おおむね安全な固定資産の買い方をしているのが分かる。

6 まとめ

いかがだったでしょうか? 貸借対照表をこんな風に分析したことがあるという方は少ないのではないでしょうか。自社で経理をしている場合も、税理士にまかせている場合も、必ず、上記の4項目を意識して、決算書や試算表の貸借対照表を見るようにしてください。今後の経営や資金繰りを考える上で、重要な指標となるはずです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年11月6日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

提供
執筆:起業コンサルV-Spiritsグループ 代表 中野 裕哲
起業コンサルタント(R)、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、一級ファイナンシャルプランニング技能士。
年間約200件~300件の起業相談を無料で受け、多くの起業家を輩出。起業準備から起業後の経営まで、窓口ひとつで支援している。
日本最大の起業支援ポータルサイト「ドリームゲート」にて9年連続相談件数日本一。最優秀賞受賞他8部門受賞実績。

主な著書:
『給付金・協力金・融資・助成金・補助金・納税猶予・支払猶予「新型コロナ資金繰り対策」がすべてわかる本』(日本実業出版社)『起業の疑問と不安がなくなる本』(日本実業出版社)、『起業で使える事業計画書のつくり方』(ソシム)など

PickUpコンテンツ