新型コロナウイルス感染症の影響により、経営課題としての重要度がより高まっている資金繰り。すでに影響を受けている会社だけでなく、今はまだそれほど受けていない会社においても、不確実な未来に向けた対策は欠かせません。

このシリーズでは、中小企業の経営者向けに、資金繰りの基本や資金繰りを行う上でのポイントを専門家が分かりやすく解説します。

1 摩訶不思議な中小企業の現実

顧問税理士や金融機関の担当者から「社長、こんなにも利益が出ていますよ。すごいですね」と言われるけれども、素直に喜べないと違和感を覚える社長も多いのではないでしょうか?「そうかウチの会社はそんなにもいい状況にあるのか」と思う半面、「ん?待てよ。それほどお金に余裕はないぞ。本当に喜んでいい状況なのか?」という違和感を抱く中小企業経営者は少なくないようです。
経営者であれば一度は聞いたことがあると思いますが、黒字倒産という言葉があります。黒字倒産とは、文字通り黒字の会社が倒産してしまうことです。決算書上は黒字でも資金繰りが行き詰まってしまえば倒産してしまうわけです。不思議ですよね?
なぜ黒字なのに倒産してしまうのでしょうか。その元になる考え方、すなわち「黒字なのにお金がない5つの理由」と「5つの解決策」を一緒に勉強していきましょう。

2 黒字なのにお金がない5つの理由とは?

黒字なのにお金がない理由は5つあるといわれています。その5つの理由を分かりやすくシンプルな図にして解説をしていきたいと思います。

1)売掛金

1つ目の理由は売掛金です。下の図表をご覧ください。左側は決算書の数字で、右側は実際のお金の動きを表したものです。ここで200万円の売掛金があった場合を考えてみましょう。売掛金はお金をもらっていないのにもかかわらず、決算書では売上としてカウントされます。決算書を見てみると売上は1000万円と計上されますが、その1000万円の中には売掛金としてまだお金をもらっていない200万円が含まれています。つまり、実際のお金の動きとしては、「入り」は800万円ということになります。その結果、決算書では70万円の利益は出ているので黒字なのですが、実際のお金の動きは130万円減ってしまっているという現実があります。

売掛金の動きを示した画像です

2)在庫

2つ目の理由は在庫です。在庫の支払代金は、実際にお金が会社の外に出ていきます。しかし、決算書は在庫を費用として認めてくれません。
ここで200万円の在庫があった場合を考えてみましょう。下の図表の決算書を見てください。決算書の仕入600万円には在庫の支払代金は含まれていません。しかし、実際のお金の動きを見てみると、右図で200万円の在庫を含めたところで800万円の仕入れ代金が支払われていることが分かります。つまり決算書では70万円の利益が出ているので黒字に違いないのですが、実際のお金の動きは130万円減ってしまっているという現実があります。

在庫が与える影響を示した画像です

3)設備投資

3つ目の理由は設備投資です。設備投資で支払った分は、決算書では数年にわたって費用処理していくことになります。ここで300万円の車を一括払いで買った場合を考えてみましょう。ちなみにこの事例では決算書上3年にわたって毎年100万円ずつ費用処理していくことにします。
下の図表の決算書の経費の中には、車以外の経費200万円と車の経費100万円(300万円÷3年)があります。ところが、実際のお金の動きを見てみると、車以外の経費200万円と一括払いをした車の支払い分300万円があります。あわせて500万円の経費支払いです。その結果、決算書では70万円の利益が出ているので黒字なのですが、右図のように資金繰りでは、実際のお金の動きは130万円減ってしまっているという現実があります。

設備投資が与える影響を示した画像です

4)税金

4つ目の理由は税金です。決算で利益が出ていれば税金を支払わなければいけません。ところが、利益が出ているにもかかわらず、税金を支払うときにそのお金がない、ということが多々あります。上記1)~3)と後述する5)が原因で税金を支払うお金が無くなることがほとんどですが、たまに下の図表のようなケースもありますので紹介いたします。
季節によって入出金状況が大きく変動する会社は要注意です。お金がない時期と納税時期が重なる会社は特に要注意。下のグラフ「預金残高の推移」をご覧ください。3月決算法人なのですが、税金を支払う5月にいつもお金が足りなくなります。このように季節変動が大きく、お金がない時期に税金を支払わなければならない会社は、決算書は黒字であっても税金を払うお金がないという事態に陥ってしまいます。ちなみに、このような会社は大抵お金を借りて税金を支払っています。

納税と預金残高の関係を示した画像です

5)借入の返済

5つ目の理由は借入の返済です。中小企業でよくみられるケースです。上記1)~4)までの原因(売掛金、在庫、設備投資、税金)によってお金が足りなくなるので、会社は銀行からお金を借りることになります。そして、借りたら返済をしていきます。ところが、借入の返済は決算書では費用として認められません。ですから、下の図表のように、決算書では利益が出ていても、その利益よりも返済額のほうが大きければ、実際のお金の動きは「入り」よりも「出」のほうが大きくなってしまします。黒字であってもお金は減っていくわけです。

借入の返済が与える影響を示した画像です

3 会社にお金が残るようになる5つの解決策とは?

黒字なのにお金がない5つの理由について、そのカラクリを見てきました。ここからは、会社にお金が残るようになる解決策を一緒に見ていきましょう。

1)回転期間のバランスを取る!

「1)売掛金」と「2)在庫」に対応する解決策です。ついでに買掛金についても一緒に考えていきましょう。左側のケースをご覧ください。商品を購入して販売するまでの在庫の期間が12日あり、販売してから入金までの売掛金の期間が34日あります。これらの期間のことを回転期間と呼びます。在庫と売掛金の回転期間は、長くなるよりも短くなるほうが資金繰りは楽になりますので、少しでも短くなるようにチェックすることが大切です。
そして、次に買掛金について見ていきます。商品を購入して支払いまでの買掛金の期間が31日あります。買掛金の回転期間については先ほどとは逆で、短くなるよりも長くなるほうが資金繰りは楽になりますので、少しでも長くなるようにチェックすることが大切です。
極端な例ですが、右側のケースのように在庫と売掛金の回転期間をそれぞれ短縮し、買掛金の回転期間を長くすることで、入金が支払いの前にくるのが資金繰り上は理想的な形となります。

回転期間を変更した場合を示した画像です

2)設備投資をするときの鉄則!

「3)設備投資」に対応する解決策です。左側の図表は、300万円の車を一括払いで買った場合の数字です。お金は「入り」よりも「出」のほうが多くなっていることが分かります(お金が減っています)。このような場合は、一括払いで買うのではなく、右側の図表のように「出」が「入り」の範囲内で収まるように長期にわたって支払っていくほうが資金繰りは楽になります。「出は遅く長く」が鉄則です。

設備投資に対する解決策を示した画像です

3)事業年度を変更するだけで資金繰りが楽になる!

「4)税金」に対応する解決策です。左側のグラフは、お金がない時期と納税時期が重なっています。このような会社は税金を支払うときに資金繰りが悪化します。そのような場合は、決算期を変更するだけで資金繰りが改善します。決算期を変更することを、正確には「事業年度の変更」といいます。会社の設立当初に預金残高の推移を正確に予測するのは難しいものです。そもそも決算期と資金繰りを関連付けて決めたという経営者はそれほど多くないでしょう。
事業年度の変更の手続き(株主総会の決議や税務署への届出など)は割と簡単なので、資金繰りを改善する目的でやっている会社は多いです。資金に余裕がある時期と納税時期が重なるように事業年度を変更すればいいわけです。この事例でいえば、3月決算を12月決算にすればいいわけです。

事業年度を変更した場合を示した画像です

4)手っ取り早くて効果が大きい解決策!

「5)借入の返済」に対応する解決策です。決算書の利益よりも返済額が大きければ当然お金は減っていきます。逆に返済額が利益の範囲内に収まっていればお金は自然に増えていきます。上記のようなケースでは、金融機関と相談しながら返済期間を延ばすなど、毎月の返済額を減らしてもらうことをお勧めします。お金が増える体質にするには、この解決策が一番手っ取り早く効果的だからです。

借入の返済に対する解決策を示した画像です

5)4カ月先までの「資金繰り表」がないと話にならない!

資金繰りを改善するには、「資金繰り表」が大事であることは言うまでもありません。そして資金繰り表は形が大事です。月ベースの資金繰り表だとか、1カ月先までしか読み取ることができない資金繰り表を使っている中小企業をよく見かけます。資金繰り表は、できれば日繰り表(日ベース)で4カ月先くらいまでは見通すことができるものが望ましいです。一般的に取引のワンサイクルが4カ月くらいだからです。欲を言えば1年先くらいまで日繰りで見通せるものであればなお良いです。そのような資金繰り表をチェックしながら経営のかじ取りをしていけば、自ずと会社にお金が残りやすくなっていきます。次の図表は、筆者がクライアント企業に提供している資金繰り表のプロトタイプですので参考にしてください。なお、この資金繰り表は、こちらからダウンロードできます。

資金繰り表の例を示した画像です

4 まとめ

もし、あなたが顧問税理士や金融機関の担当者から「社長、こんなにも利益が出ていますよ。すごいですね。」と言われたときに、「ん?待てよ。そんなにもお金に余裕はないぞ。本当に喜んでいい状況なのか?」という違和感があるなら、黒字なのにお金がない体質の会社である可能性が高いでしょう。でも慌てることはありません。5つの解決策を1つずつ丁寧に実践してみてください。そうすれば、下の左側の状態から右側の状態に変化し、近い将来、あなたの会社は黒字かつお金が増える体質の会社に変身していることでしょう。

会社は黒字かつお金が増える体質の会社を示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年12月11日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

提供
執筆:株式会社神田どんぶり勘定事務所 税理士 神田知宜
新発田高校卒業、関西大学卒業。1969年生まれ、新潟県出身、千葉市在住。
中小企業の資金繰りの悩みをゼロにする専門家。
「どんぶり大福帳®」導入コンサルティング、セミナー講師、執筆を業とする。
大学卒業後、大阪の税理士事務所に勤務。顧問先の社長から「もっと気の利いたアドバイスはできないのか? 全く何の役にも立たないな」と怒鳴られ続けノイローゼに。税理士業界にいる限り、社長との「心の溝」は埋まらないと感じ、税理士会を退会し、税理士業界を一度離れる。
上場会社の経理責任者となるがリーマン・ショックの影響をもろに受け上場廃止に。想像を絶する極限ギリギリの資金繰りを経験し、会社が生き延びるためには決算書や会計の専門知識は何の役にも立たないと絶望。
そのときに、お金の本当の姿を見えるようにしておかないといけないと痛感し、独自の資金繰り予測の体系化に成功。本の出版を機に独立し、神田式・資金繰り予測ツール「どんぶり大福帳®」の導入コンサルティングを展開。
「お金の使い方が変わり残高が3カ月で130%に増えた」「人件費300万円のコストダウンに成功」「返済額が50%OFFになり3000万円の特別な借入枠を設定できた」など、全国から喜びの声が届くようになり、「どんぶり大福帳®」導入実績は500社を超える。
 ●株式会社神田どんぶり勘定事務所
 ●YouTubeチャンネル「どんぶり勘定事務所」
 ●神田知宜税理士事務所

【著書】
「世界一シンプルでわかりやすい決算書と会社数字の読み方」(日本実業出版社)
「お金が残る「どんぶり勘定」のススメ~会社のお金は通帳だけでやりくりしなさい」(あさ出版)
「面白いほどわかる!!会計とファイナンスの教科書」共著(洋泉社)

関連するキーワード

PickUpコンテンツ