近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 え? 君が在宅で、こっちが出社って……

オトナのイライラ・モヤモヤ
え? 今日も在宅なんだ? いや、テレワーク自体を否定するつもりはないよ。だからって、そんなに目一杯在宅勤務するのもどうかと思う。同じ部署内でも、在宅で仕事できる人とできない人もいるわけだし。テレワーク嫌いの上の目とかもあるし。こっちは、そうやっていろいろバランスとりながら、仕方なく出社してるってのに……。

若者のホンネ
テレワークが認められているのに、うちの職場の在宅勤務しにくい雰囲気って何なんですか? バランスとって出社しろとか、ホント意味分かりません。このご時世でいえば、もはやテレワークは常識。どうせ在宅だとサボってるって思ってるんでしょうけど、ちゃんと働いてますって。

コロナ禍によって、一気に広がったテレワーク。2023年5月からコロナは5類感染症に移行しましたが、出社に切り替える企業もあれば、逆によりリモートに舵を切る企業もあり、テレワークに関する企業の考えはまちまちです。そんなふうに企業間での温度差が浮き彫りになってくる中、企業内におけるテレワークの利用に関しても、世代間ギャップがより顕在化してきています。

「うちの部署は在宅は無理だよな!とか勝手に決めつけるの、やめてほしい」「対面でしかコミュニケーションをとれない時代遅れの人には、職場から早々にいなくなってほしい」などなど、テレワークに消極的なオトナ世代に対して、テレワークに積極的な若者の言動は辛辣です。
確かに「やっぱり出社して顔を突き合わせて働くのがいちばん」「リモートでちゃんと仕事ができるのか?」などと、テレワークで働くことに否定的な旧来型のオトナ世代が少なくないという事実は否めません。

2 まだらテレワーク問題

こうしたテレワークをめぐるすれ違いに拍車をかけているのが、「まだらテレワーク」による職場の不協和音でしょう。まだらテレワークとは、例えばA部署は出社でB部署は在宅といったふうに、社内に出社して働く人とテレワークで働く人が混在している状態を指します。

ある調査によると、出社勤務している人が、在宅勤務している人に対して思っていることは、「通勤しなくていいので羨ましい」「仕事をサボっていそう」「コミュニケーションがとれなくて仕事しにくい」「テレワークしている人のせいで業務負担が増え不公平に感じる」などなど。テレワークを利用している人たちに対して、釈然としない気持ちを抱いている。そんな空気が漂っています。

「人事部門では、給与業務のスタッフは出勤せざるをえないし、経理部門の一部の担当者は、月末は毎日出勤している。それ以外のスタッフはほとんど在宅勤務。出社している社員からは、『なんで私たちだけが出社しないといけないの』という不満の声があがってきていた。最近では、『テレワークができないなら人事異動させてください』と申告する社員まで出ている」。これは、ある企業の中間管理職の切実な声です。

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3 中間管理職オトナ世代の板挟み

テレワークに消極的なオトナの多数派は、実は自分もテレワークしたいけど、テレワークに関する職場の不公平感が気になってやむをえず出社、と考えているんじゃないでしょうか。
なおかつ、オトナ世代の上席にいる上司層は、年齢的にも出社派比率がより高いわけです。上が出社するから、自分も渋々出社するという忖度系オトナ世代も相当数います。

こうした中間管理職オトナ世代は、「こっちだって、できることなら在宅がいいに決まってるじゃん。だけど、バランスってものがあるでしょう」と、職場全体に気を遣って出社する。あるいは、「上が出社するから渋々出社してるんだよね、だからって、自分と同じような目に遭わせるのもどうかと思うから、君たち若手のテレワークはOKしてるでしょ」と、自分の上司と若手の板挟みの中で出社するーー。こんな悩ましい状況に頭を抱えるオトナがけっこういるのです。
だからこそオトナは、自分の権利とばかりに、能天気にテレワークをしたがる若者にイライラ・モヤモヤするんです。

4 テレビ会議、カメラオンにしてほしいんだけどなぁ

そんな能天気な若者のテレワークを容認したらしたで、これまたイライラ・モヤモヤする問題が発生します。その代表格が、オンラインでのテレビ会議におけるカメラオフ問題でしょう。

オトナのイライラ・モヤモヤ
オンラインのテレビ会議だって立派な会議なんだから、そりゃあ、顔は出さなくちゃいけないでしょ。ていうか、なぜ「声」だけで参加してもいいではないかという発想になるのかが、分からない。でも、うかつに顔出しを強制したら、パワハラとか言われかねないし……。ったく、めんどくさいったらありゃしない。

若者のホンネ

在宅勤務で普段着のときだってあるし。そういう柔軟な働き方がテレワークのいいところじゃないですか。そもそもオンラインで実施するのに、会議に「顔」を出さなくてはならない意味が分からないんですけど。ちゃんと聞いて、ちゃんと発言すれば「声」だけ参加でもよくないスか。

こうしたオトナ世代と若手社員のすれ違った声にもあるように、若手社員ほど、テレビ会議で顔を出したがらないという悩みをオトナ世代からよく聞きます。

5 エヴァンゲリオンを彷彿とさせるサウンドオンリー

「エヴァンゲリオンのゼーレ状態っていうか。とにかく無機質な会議で……」と語る管理職もいました。声は聞こえるものの、画面には「サウンドオンリー」と書かれた文字が映るだけ。大ヒットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」によく登場した会議風景と、画面オフのテレビ会議は、確かにそっくりです。

ある調査のデータで、「あなたはテレビ会議で自分の顔を映していますか?」と質問したところ、「毎回映している」「どちらかというと映している」の合計が61.3%。
6割以上は顔出しをしていますが、逆に、残りの約4割は顔出しに消極的でした。ちなみに同調査によると、オンライン会議を行う際に「相手の顔が見えているほうが話しやすい」と回答した人が、71.7%もいました。おいおい、自分は顔出しNGなのに相手には顔出ししてほしいんかい、とツッコみたくもなります。

実際に、テレビ会議で進行役を務めたことがある人なら実感できると思いますが、相手の顔が映らない、誰からも反応がない状態で一方的に話すのは、とてもやりにくいものです。オトナ世代のほうが会議の進行をする機会が多いでしょうから、この観点からも顔出ししてほしいと考えるのは自然でしょう。
顔出ししたくない若者を、どうやったらパワハラと言われずに説得できるのか。ここもイライラ・モヤモヤする悩ましい問題です。

6 イライラ・モヤモヤ解消法

個人的な見解ではありますが、テレワークはできるかぎり推進されてしかるべきだと思います。ご存じのように、コロナ禍がなくとも企業活動のデジタル化は急務です。周回遅れとも言われる日本社会のデジタル対応を進める必要はおおいにあります。

だからこそ、まずはテレワークについてのルールを整えましょう。ある程度は不公平感を緩和でき、経営層からも理解を得られるはずです。例えば週何回のテレワーク利用が妥当とか、ルールを作って共通認識化していく。ここから始めませんか。

また、これはテレビ会議における画面オンオフも同じです。はじめから「テレビ会議では顔出ししよう」とルールで決めておけばよいのです。え、顔出しの強要ってパワハラじゃないの?と思われるかもしれませんが、専門家の見解はこうです。
対面会議の代わりとして行われるテレビ会議において、「顔を出すように」「カメラをオンにしてください」と伝えることはパワハラにはならないと考えられる。会議の効率化や有用化という観点から、顔出しの要求は不当なものとは言えないーー。正当にリクエストしてよさそうです。
そして、あらかじめルール化しておくことは、会議の場面で伝える必要がなくなる=パワハラと思われる言動を抑止するという効能があります。

ただし、テレワーク問題もテレビ会議問題も、ルール化するうえで、できるだけ「言い方」には留意しましょう。これは法的な観点というより、若手の納得度合いの観点です。相手が飲み込みやすいような点を伝えていくことが効果的。自組織でのカルチャーとして根付いていくとベストです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月19日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
平賀充記(ひらが あつのり)
株式会社ツナググループ・ホールディングス エグゼクティブフェロー 兼 ツナグ働き方研究所所長。1988年(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「タウンワーク」「はたらいく」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年(株)リクルートジョブズ・メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、いまに至る。
著書に『非正規って言うな!』(クロスメディアマーケティング)、『神採用メソッド』(かんき出版)、『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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