2024年の株主総会(この記事では「定時株主総会」を指します)のシーズンになりました。第1回は事前の準備第2回は開催当日の運営を紹介しましたが、この記事では、株主総会における後日の事務手続ポイントを紹介します。

株主総会が終わった後も、議事録の作成や登記手続などさまざまな事後手続があります。これらの手続の中には、法令で期限が定められているものもあります。株主総会が終わったからといって、安心することなく、忘れずに事後手続を済ませましょう。

なお、以降で想定するのは、「非公開会社」で、取締役会・監査役設置会社(会計監査人非設置会社)です。非公開会社とは、定款上、発行する株式の全部に譲渡制限を設けている株式会社です。


あわせて読む
中小企業の株主総会

1 議事録の作成

1)記載事項

株主総会が終わったら、取締役は、必ず株主総会の議事録を作成しなければなりません。議事録に記載すべき事項は、主に次の通りです。

  • 株主総会の日時および場所
  • 株主総会の議事の経過の要領およびその結果
  • 監査役等による意見または発言があるときはそれらの内容の概要
  • 株主総会に出席した取締役等の氏名または名称
  • 議長がいるときは議長の氏名
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役(議事録作成者)の氏名

ここで注意すべきなのは、法令では、「株主総会の場所」の記載が求められていることです。株主総会でオンラインを利用する場合も、実際に株主総会の会場を設けなければなりません。なお、上場会社の場合、一定の条件を満たすことでオンラインのみで株主総会を開催することが認められています。一方、上場会社ではない会社では、議長、取締役および株主などの全ての関係者が自宅からテレビ会議システムで株主総会を行うという対応はできません。

なお、テレビ会議システムによって出席した取締役等や株主がいる場合、その出席方法についても議事録に記載する必要があります。

議事録には、出席した取締役や監査役の氏名または名称を記載すれば足ります。出席した取締役や監査役の署名または記名押印までは求められていませんが、これらの取締役や監査役は押印するのが一般的です。

2)作成期限

議事録の具体的な作成期限は明確にされていません。しかし、一般的に、株主総会が終わった後1週間程度で作成されることが多いです。なぜなら、後に解説するように、会社の登記事項に変更があった場合には、原則として2週間以内に変更登記の申請をしなければならず、このときに株主総会の議事録が添付書類として必要になるからです。

3)書面決議の場合

株主総会の決議を省略した場合であっても、株主総会の議事録は作成しなければなりません。

第2回の「総会運営の流れを知ろう」で解説した通り、一定の場合には、株主総会の決議を省略することができます。この場合、一般的に書面決議と呼ばれます。

株主の数が少ない会社であったり、株主が親族や役員だけである会社であったりする場合には、書面決議を行う中小企業も多いと思いますが、忘れずに議事録を作成しましょう。

2 登記手続

株主総会の決議により、役員が代わるなど登記事項に変更が生じた場合、原則として、株主総会の日から2週間以内に変更登記の手続を行わなければなりません。この登記申請を行う際、必要書類として、株主総会の議事録が必要となります。

株主総会の決議によって登記手続が必要となる典型例は、取締役や監査役の選任の場合です。取締役や監査役の選任は株主総会の決議によってなされ、役員の選任や改選が行われた場合には、退任する役員、再任または新たに就任する役員についての登記が必要です。

メールマガジンの登録ページです

3 公告の実施方法

会社は、株主総会が終わった後、株主総会で承認を受けた計算書類を公告しなければなりません。法令では「遅滞なく」とされているのみで期限は明確にされていませんが、実務上は株主総会の翌日に公告することが多いです。

なお、この記事で例に挙げている非公開会社の場合、公告すべき計算書類は貸借対照表になります。

公告の方法は、「官報」「日刊新聞紙」「電子公告(インターネット上のホームページに掲載する方法)」のいずれかから選択するものとされており、定款によってその方法を定めることができます。定款に定めがない場合は官報で公告を行います。

公告方法を定める際にも注意が必要です。公告の実施方法が官報または日刊新聞紙の場合、貸借対照表の要旨を掲載することで足ります。しかし、電子公告の場合、貸借対照表の全てを、かつ5年間掲載しなければなりません。

4 書面等の備え置き

株主総会に関連する書類の中には、一定期間、本店や支店に備え置かなければならないものがあります。また、株主や債権者からの請求があった場合には、閲覧や謄写に応じなければなりません。

備え置きが必要となる主な書面等は次の通りです。

備え置きが必要となる主な書面等

5 株主総会に不備があった場合の対応

1)不備の種類と訴えの種類について

中小企業であっても、会社の経営支配権をめぐって、株主総会の決議の効力が争われることも珍しくありません。法令では、株主総会の決議の効力を争う方法として、「決議取消しの訴え」「決議無効確認の訴え」「決議不存在確認の訴え」の3種類の訴えが定められています。

これらの訴えによって、株主総会の手続や決議内容の不備を指摘されることが考えられますので、事前に理解しておく必要があります。

訴えの種類

2)不備があった場合の対応方法について

仮に、株主総会が終わった後に不備に気付いた場合、会社はどのような対応をしたらよいでしょうか。法令では、会社がどのような対応を取ればよいのかを定めていません。そのため、取るべき対応は決議の不備の内容によって判断する必要があります。

例えば、取締役会で株主総会の招集を決定しなければならないにもかかわらず、代表取締役が独断で株主総会を招集してしまったことを想定し、次のような場合の対応を考えてみましょう。なお、以降で紹介する対応例はあくまでも執筆者の見解ですので、実際に不備が判明した場合には、株主総会に詳しい弁護士に相談することがよいでしょう。

1.株主全員が開催に同意して、株主全員出席のもとで株主総会が行われた場合

代表取締役による招集手続に不備はありますが、株主全員が出席して決議を行っているため、招集手続の不備は治癒されると考えられます。このような場合には、株主総会の決議は有効に成立すると考えられますので、特段の対応は必要ないでしょう。

2.株主の一部が株主総会を欠席した場合

招集手続に不備があるため、招集手続に法令違反があったものとして、決議が取り消されてしまう可能性があります。決議取消しの訴えは、株主総会決議の日から3カ月以内に提訴しなければならないため、既に3カ月が経過しているのであれば、特段の対応は必要ないでしょう。

一方、3カ月が経過する前であれば、出席できなかった株主から株主総会決議の効力を争わないことを書面で差し入れてもらうことや、改めて株主総会を招集し、追認決議を行うことなどが考えられます。

6 終わりに

株主総会が終わった後も、会社が行うべき手続は多くありますので、気を抜くことはできません。また、株主総会の決議が争われる可能性をよく理解し、事前準備から当日運営、事後手続を通して、適切に対応する必要があります。

次回は、株主総会においてよく問題となる事項も踏まえて、株主総会にまつわるQ&A(近日公開)を解説したいと思います。


あわせて読む
中小企業の株主総会

以上

(監修:三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
https://www.miura-partners.com/lawyers/00024/

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年4月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト http://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

提供
日本情報マート
中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。「売上向上」「市場動向」「開業収支」「人材育成」「朝礼スピーチ」など1000本を超えるコンテンツのほか、市場調査も実施。現在、30を超える金融機関に情報提供中。

関連するキーワード

PickUpコンテンツ