創業する人たちは、夢や目標を持って第一歩を踏み出します。「不便なサービスを使いやすくしたい」「地域社会に貢献したい」「子どもたちに良い未来を与えたい」「これまでよりも収入を増やしたい」「成長する会社にしたい」などさまざまです。

こうして夢や目標のためには苦労もいとわないと決意して創業するのですが、創業後に待っている現実は、想像していたよりもはるかに大変なことが分かります。日本政策金融公庫の創業融資のアンケートでは、約90%の経営者が何らかの悩みを抱えています(日本政策金融公庫「2017年度新規開業実態調査」)。経営に問題があるのはある意味で当然かもしれませんが、その“深さ”や“大きさ”が想像を超えるということでしょう。

経営者はこうした問題をどのように対処していけばよいのでしょうか。主に創業3年以内の企業を想定し、筆者の経験を交えつつ紹介していきます。

1 最大の悩みは顧客・販路開拓

前述した日本政策金融公庫「2017年度新規開業実態調査」を、もう少し詳しく見てみましょう。「開業時に苦労したことおよび現在苦労していること」という質問に対して、「特にない」と答えたのは9%にすぎません。逆にいうと、91%の企業が何らかの苦労を抱えていることになります。

開業時に苦労したことおよび現在苦労していることのアンケート結果を紹介した画像です

現在苦労している割合が高いのは、「顧客・販路の開拓」「資金繰り、資金調達」「従業員の確保」の順となっています。まずは、自分たちの製品やサービスの販売先を確保しなければなりませんし、収益が安定するまでは運転資金の調達が生命線となります。さらに、そうした状況であっても、将来への投資として設備資金が必要なことがあるなど、営業や調達に関する経営者の手腕が試されます。

また、特徴的なのは、従業員に関する苦労が開業時よりも開業後のほうが高くなっていることです。企業の成長に応じて従業員の確保や教育が必要となります。また、上のグラフからは読み取れないものの、創業メンバーとトラブルになることも珍しくありません。

2 創業後の苦境期を乗り切ることの意義

創業後にたどる軌跡は企業によって千差万別です。「創業後なかなか売上が上がらず赤字が続いている」というケースがあれば、「創業当初は順風満帆で期待通りの収益を得られたのに、3年目に入った頃から減速し、ついに赤字に転落した」というケースもあります。いずれにしても、創業後3年以内の企業は不安定な状態が続いているケースが多く、この時期をどのようにして乗り越えるかが企業存続の鍵を握ります。

創業後3年以内の苦境期を何とか乗り切ることができれば、その経験は経営者にとって大きな糧になります。企業経営ではその後も問題が続きますが、それに対処する「企業維持力」が備わってくるのです。

事業経営は、「軌道に乗って安定すればその後は盤石」というような右肩上がりの曲線を描くことは少なく、「山あり谷あり」となるのが実情です。谷に落ちたときにうまく脱出できることが、長く続く企業となるためには不可欠だといえます。

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3 経営の停滞要因を分析して打開策を講じる

1)早急な打開策が必要

創業後3年以内の時期に、「経営状態が思わしくない」と感じていたら、早急に打開策を講じる必要があります。特に中小企業においては、経営の停滞は資金残高の減少に直結します。この時期に停滞するということは、資金繰りが「待ったなし」という状態であることが多いので、時間的な余裕があまりないかもしれません。

万一、停滞が続いて資金が底をつくようなことになると、倒産や廃業という事態になりかねません。一刻も早く有効な方策を考え、実行する必要があるでしょう。

2)停滞要因となる経営上の問題点とは

まずは、冷静に停滞を招いている要因を探ってみましょう。中小企業の経営の構成要素を大まかに分けると、「経営戦略・経営者」「マーケティング」「組織・人材」「運営管理」「財務管理」の5分野となります。創業後間もない企業は、これらの一部、あるいは全てに問題を抱えていることが少なくありません。

では、具体的にどのような問題が生じるのか。創業後に停滞している企業が抱える問題点の例をまとめると次のようになります。

開業時に苦労したことおよび現在苦労していることのアンケート結果を紹介した画像です

創業後3~5年で経営が停滞している企業は、特に「経営戦略・経営者」「マーケティング」「財務管理」に問題を抱えているケースが多いものです。まずは、どこに停滞要因があるのかを探ってみましょう。

3)安易に場当たり的な方策に走らない

停滞要因を特定できたら、打破するためのアイデアを何とかひねり出して実行に移していきます。とはいえ、効果的な解決策がなかなか思いつかず、苦境期が長く続くことも珍しくありません。

業況が停滞し資金が減少してくると、「早く何とかしなければ」と焦ります。すると、畑違いでも手っ取り早く稼げそうなことに注力する、どこからか高い利率のお金を借りるなど、場当たり的な方策に走りがちです。例えば、安易に利率の高い融資を利用するなど、短期的な解決策をとるのは危険です。当面の急場をしのぐことができても、経営改善策がなければすぐに資金が枯渇してしまいます。

4)創業時の事業計画を振り返る

厳しいときにヒントを与えてくれるのが、創業前に作成した「事業計画書」です。事業計画書を書いたとき、どのような熱い思いで、どのような世界を実現したいと考えていたのかを思い出してください。相当な期間をかけて事業計画を練り上げたはずです。

また、「誰に、何を、どのようにして売るか」「広告宣伝はどうするか」といったことに関しても、さまざまなアイデアがあったはずです。創業志望者のほとんどは、創業前に事業計画書を作りますが、いざ創業した後はその内容を忘れ、目の前の活動に翻弄されてしまうことが多いのです。

事業計画を練っていた頃に考えていたアイデアを思い出してみると、「いいことを考えていたのに実行していない」というものがたくさんあるはずです。苦境のときこそ、改めて事業計画を見直し、未着手のアイデアを実行に移してみましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年4月10日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
執筆:上野光夫 株式会社MMコンサルティング 代表取締役・中小企業診断士
1962年鹿児島市生まれ。九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に26年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。3万社以上の中小企業への融資を担当した。融資総額は約2,000億円。
2011年4月にコンサルタントとして独立。起業支援、資金調達サポートを行うほか、研修、講演、執筆など幅広く活動している。
リクルート社『アントレ』などメディア登場実績多数。
著書に
 『起業は1冊のノートから始めなさい』(ダイヤモンド社)
 『「儲かる社長」と「ダメ社長」の習慣』(明日香出版社)
 『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)
などがある。

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