【再監修】決算対策で確認したい固定資産
生産性向上やオフィス環境の改善など、さまざまな目的で行われる固定資産の購入。金額も少額なものから高額なものまで多種多様です。
固定資産は、決算対策として活用しやすい半面、税務上の取り扱いは詳細に取り決められています。そのため、処理を間違えやすく、税務調査でも入念に調べられる項目の1つとなっているので、固定資産に関する基本的な知識を押さえることは非常に重要です。
早速、固定資産の基本である減価償却の税務上の考え方、そして基本的な対策の具体例を見ていきましょう。
1 税務上の固定資産と減価償却
1)固定資産と減価償却の概要
建物、建物附属設備、機械装置、車両、器具備品などを総称して「固定資産」といいます。一般的に固定資産は購入した年に一括して損金とすることはできず、数年かけて損金(減価償却によって費用化)とし、少しずつ法人税の負担を減らすことになります。
減価償却の主な方法としては、定額法と定率法の2種類があります。
- 定額法:毎事業年度定額を損金に計上する方法
- 定率法:初年度の減価償却費が多く計上され、年々費用計上額が減少していく方法
税法上で定められている償却方法(法定償却方法)としては、建物や建物附属設備、構築物については定額法のみが採用され、機械装置や車両、器具備品などについては定額法と定率法のどちらかを選択できます。定額法と定率法では、購入後の年数(経過年数)によって、各事業年度の減価償却費として損金算入できる金額が異なるため、決算対策を考える上では、その影響度合いを考える必要があります。
また、固定資産購入時にはキャッシュは一度に出ていきますが、減価償却費として費用計上できるのはその一部分ずつとなります。つまり、一括して費用化することができないので、支払金額に比例して利益がすぐに減少するわけではありません。そのため、決算対策を考える際には、減価償却費の影響を考慮しなければなりません。
次の図は損金の推移(法人税の負担)に見る定額法と定率法の違い(イメージ)です。
定額法と定率法のいずれかを選択できる固定資産については、定率法を採用したほうが初年度に係る法人税の負担は減少します。
2)減価償却費の計算方法
減価償却は、固定資産を取得した日から計算を開始するわけではありません。固定資産を取得して使い始めた日(事業供用日)から計算を開始します。
仮に固定資産を取得した初年度に半年間使用した場合には、1年分の減価償却費の半分(6カ月/12カ月)が損金になります。
1カ月未満は1カ月としてカウントしますので、決算月の半ばに購入して使用した場合でも、1カ月分の減価償却費は計上できます。
税務調査では事業年度末に購入した固定資産については、実際に使用しているか否かがポイントとなりますので、取り扱いに十分ご注意ください。
2 固定資産に関する決算対策のポイント
ここでは固定資産に関する決算対策を幾つかご紹介します。
これらの決算対策は事業年度中や決算直前など、どの時点においても有効です。
特に1)と2)については、決算直前に利益が出る見込みとなった場合に、有効な決算対策となります。実際、決算前にパソコンやデスクなどの備品を購入し、オフィス環境などを充実させる企業も少なくありません。
1)少額減価償却資産
購入金額に付随費用を加味した金額(取得価額)が10万円未満のものは、購入時に一時の損金とすることができ、固定資産に計上する必要がありません。
また、金額が大きなものであっても、使用可能期間が1年未満のものは、同じく一時の損金とすることができます。
2)一括償却資産と中小企業者等の少額減価償却資産の特例
取得価額が10万円以上のものは固定資産に該当し、金額により取り扱いが異なります。
1.一括償却資産
取得価額が10万円以上かつ20万円未満のものは一括償却資産として、資産の種類にかかわらず3年で按分して損金にすることができます。
通常の減価償却資産のような月割計算の概念はないので、事業年度中に取得しても損金算入できる金額は取得価額の3分の1になります。また、固定資産には耐用年数が3年を超えるものが多いため、通常の減価償却に比べ早期に損金とすることができます。
なお、中小企業者等(青色申告法人で資本金の額が1億円以下かつ従業員が1000人以下など)に該当する場合には、下記2.を選択することができます。
2.中小企業者等の少額減価償却資産の特例
中小企業者等は取得価額が30万円未満である固定資産を取得して事業の用に供した場合には、年間300万円を限度としてその取得価額の全額を損金処理することができます。
仮に単価29万円のものを同一事業年度中に11個購入した場合には、上限の300万円ではなく290万円(29万円×10個)まで損金とすることが可能となります。
上記1.と2.の要件と特徴を表にしましたのでご参照ください。
なお、令和2年度税制改正により、対象法人の要件のうち常時使用する従業員の数の要件を500人以下(現行では1000人以下)に引き下げられ、適用期間が2022年3月31日(現行では2020年3月31日)までに延長される予定です。
3)中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却と税額控除(中小企業投資促進税制)
中小企業者等が2019年3月31日までの期間内(令和2年度税制改正により、2021年3月31日までに延長される予定)に、新品の機械装置などを取得して国内にある製造業、建設業などの指定事業の用に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、次の特別償却または税額控除のどちらかが適用できます。
対象となる資産は、1台の取得価額が160万円以上の機械装置や、2012年4月1日以降に取得した事務処理の能率化、製品の品質管理の向上等に資する測定工具などになります。
1.特別償却
取得価額の30%相当額を、通常の減価償却に加えて損金処理できる
2.税額控除
法人税額の20%相当額を限度として、取得価額の7%相当額をその事業年度の法人税額から控除できる(資本金額が3000万円以下の法人が対象)
4)修繕費と資本的支出
固定資産を使用していくうちに、年数の経過に伴う消耗や摩耗により修繕が必要になってくることがあります。
これらは全てが修繕費として損金になるわけではなく、固定資産の価値を高めると判断されるものに関しては、資本的支出として資産計上しなければなりません。
そのため、大規模な修繕などを行う場合には取り扱いにご注意ください。
修繕費と資本的支出の具体例は次の通りです。
1.修繕費
- 20万円未満である修理費用
- おおむね3年以内に行われる周期の短い修理費用
- 機械装置の移設に要した費用
- 原状回復費用など
2.資本的支出
- 建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分に係る金額
- 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した金額
- 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した金額のうち高額と認められる部分
今回は、固定資産に関する決算対策の代表的なものについて解説しました。固定資産は事業を行う上で必要不可欠なものです。設備投資や資産の買い替えなどを控えている場合には、今回紹介したものについて幾つか検討されてはいかがでしょうか。
ただ、とっさに対応できる決算対策は多くありません。決算直前に対策を思い立っても要件を満たさなかったり、効果が十分に得られなかったりすることもあります。決算間際に慌てて対策を講じるのではなく、早い段階で利益予想を行い、税理士等の専門家に相談されることをお勧めします。
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