年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介する面白い人物は、大久保治仁さんです。

今回、大久保さんにお会いして、初めて「代表執行役社長」というなかなかお聞きしない肩書を知りました。ほんの一例ですが、大久保さんは、次のようなことを成し遂げてこられた方です。

  • 年商数百億円の会社をたった2カ月で変革し、破産後の会社もV字回復へ導く
  • 国内で初めてファンドによるMBI(Management Buy in。企業買収の手法の一つで、企業買収と同時に外部から経営陣を招いて経営再建を行うもの)による事業再生を実施し、営業初月から黒字化を実現
  • 事業変革を行い、再生プロジェクトのマネジャーを3カ月から1年で社内表彰されるレベルに養成する

大久保さんは、瀕死(ひんし)の状態にある会社を10社以上もV字回復させ、後進の育成でも大きな実績を残されてきた、会社変革の請負のプロ。こうした「社長請負人」の大久保さんについて、今回はリポートしたいと思います。

なお、いつもインタビューでは内容が素晴らしく盛りだくさんですが、今回はさらに濃い内容となっていますので、目次をつけています。

1 さまざまな会社の「経営変革」の立役者

お会いいただいた際に、お話をお聞きして印象に残ったのは、【社長請負人の大久保さん】というフレーズでした。まず、大久保さんのご経歴についてお伝えします。

1967年鹿児島出身の大久保さんは、ラ・サール高校卒業、そして、早稲田大学政経学部経済学科卒業です。学生時代から企業再建ができる、実践派のコンサルタントを志していたそうです。新卒で中堅中小企業に対する実務的な経営コンサルタントを行う会社に入社。その後、会計事務所での実務経験を経て、主に上場企業を中心に、経営幹部、管理者との協業による現場常駐型「経営変革プロジェクト」を通じて、社長主導による経営変革・業績改善を支援されてこられました。

大久保さんの専門領域はまさに【経営変革の実践】といえます。製造業、卸売業、小売業、サービス業を中心に年商10億~数兆円規模の東証一部上場企業、未上場オーナー企業、企業グループの子会社、投資ファンド投資先企業、破産後の企業再生まで、幅広く経験されています。こうした経験から、大久保さんは、「『経営変革』に関する実践に基づく【戦術】をエッジの効いた武器としています」と語っていらっしゃいました。

また、後進の育成にも熱心で、「普通のコンサルタントを短期間で優秀なコンサルタントに養成すること」についても、相当数のご実績があるそうです。これまで、役割としては、プロジェクト責任者、外資系投資ファンド投資先の暫定COO、執行役員(社長特命担当)、東証一部上場企業の社外取締役、執行役副社長、代表執行役社長をご経験されています。大久保さんのお話をお聞きして、レポーティングや会議出席などなど……といった仕事の「上辺だけのコンサルタント」ではなく、本気で実行し、変革を成し遂げてこられた方だと感じました。

2 経営変革の基本は植木屋さんのアルバイトで学んだ!?

大久保さんは、社会人時代に面白い経験をしています。なんと植木屋さんでのアルバイトです。植木屋さんでの経験が、経営変革の実践を行う上で大いに役立ったという興味深いお話もしてくださいました。

大久保さんいわく、「植木屋さんで行うさまざまなことが、実はビジネス全般に通じる大切な教えだった」そうです。例えば、植木屋さんでは、「手入れ」というお仕事があります。うっそうとした植え込みの中にあるゴミを取り除く際には、しっかりと、文字通り“手を入れて”作業をしなければなりません。植栽の枝や茎、トゲなどにはばまれるので、痛いし、腕のひっかき傷は当たり前。こうしてしっかりと植え込みの中に入り、たとえ痛いことでも実践しなければ、きれいにすることはできないのだそうです。

こうした「手入れ」は、経営変革を実践するときにも同じだと思います。会社の中、しかも問題のあるところに自ら入り込んで、痛くてもつらくても、なんとかしようとしなければ、会社をきれいにすることはできない。そういうことではないでしょうか。

また、「根回し」にも、深い意味があると教えてくださいました。木を植え替えたり、移植したりする際、「どの根っこまで切り落とすか」「どこまで残すか」を考えなければなりません。そして根っこを切り落とした後は、その根っこをきちんと養生し、移植します。移植した後も、新しい場所でしっかりと根が張りやすいように、細かい根が切れないように、土壌や水、環境に気を配らなければなりません。これが植木屋さんの「根回し」なのだそうです。

日ごろ、ビジネスでも、「根回し」という言葉はよく使われます。志や実現したいことがあったとき、そのことが「しっかりと根が張るように」「細かい根までも切れないように」、小さなところにまで気を配って一人ひとりと話をし、調整をしていく。まさに、植木屋さんで実践している「根回し」と同じだと、大久保さんは語ります。

このように、植木屋さんのアルバイトで経験したことが、実際に現場での旧経営陣との対峙、社員との対話、V時回復への「根回し」に生きたそうです。草木は、ハサミの入れようによって状況が変わります。たった1回のミスで枯れたりすることがあるばかりか、そのミスが他の木に影響を及ぼしてしまったりする。それくらい難しいものだそうです。

大久保さんは、経営改善も同じ。問題を避けてもうまくいかない、少々の痛みは当たり前と話されます。本当に面白いですね。植木屋さんのアルバイト経験も無駄にされていない。大久保さんは、「感じる力」が人並み以上なのだと思った次第です。

大久保さんと執筆者の対談の様子を示した画像です

3 「経営変革」の実践:大久保さんへの一問一答

大久保さんに、「経営変革」を実践する際に大事にされていることについて、幾つか質問をさせていただきましたので、ご紹介します。

1)過去に困ったこと、ご自身の【武器】を手に入れるに至った貴重な経験、エピソードについて

・大久保さんのご回答

まだこの仕事の経験が浅かった30歳くらいの頃のことです。私の倍近くの年齢で、その企業を世界トップシェアへと導いた実績のあるこわもての実力派の支社長に対して、マネジメント行動を変革する覚悟を決めていただかなければいけない場面がありました。この支社長は、自信があって、何を言っても自説を曲げることはなく、変革の強力な抵抗勢力になるだろうと、前評判が高い方でした。

正攻法で愚直に変革を促していくだけの時間的余裕がないプロジェクトでしたので、最初の面談で、覚悟を持っていただこうと、面談の1週間前から、ああでもないこうでもないと、寝ていても頭が勝手に考えているような状態でした。

しかし、面談の際には、それまで考えていたことは全て忘れて、その場の真剣勝負をすることにしました。真正面からこちらの真剣な思いとエネルギーを伝えようと考えたからです。

結果、初回の面談で、その支社長は変革の覚悟を決めてくださり、抵抗勢力どころか、変革推進の旗振り役になっていただいたのです。優秀な方でしたので、周囲が驚愕(きょうがく)するような改善成果を創出しました。変革への働きかけの基本は「愚直」です。しかし、相手がそれなりに手慣れた経営幹部でしたら、正攻法では困難で、それなりの戦術が必要となります。

・大久保さんのご回答で受けた印象など

大久保さんに、この「戦術」についてもお話を伺いましたが、これは企業秘密ということでした。【心構え】が第一、それがあれば対処もできるようになっていく(経験値が上がっていく)ということでもあると感じます。

2)短期的に会社を立て直す。そこを現場で数多く経験されてこられて大切にされている着眼点について

・大久保さんのご回答

本物、本質、本音です。会社の中で本当に価値があるのは何か? どの商品か? どのサービスか? サービスの中のどのような要素なのか? それを本気で追究している気骨のある人物は、社長の他には誰か?

本質は? 社長をはじめとした経営幹部が業績向上において本来、果たすべき責任と権限とは? 現場のマネジメントはどうあるべきなのか? 経営者や経営幹部、管理者は、本音では、どのような志を抱いているのか? また、社員の本音は? こうしたことを捉えていきます。

大久保さんと執筆者の対談の様子を示した画像です

3)どのような手法で現場を掌握され、立て直されているかについて

・大久保さんのご回答

現場で、虚心坦懐(きょしんたんかい)に見て、感じて、「おかしい」という直感を大切にしています。表象的な問題として発生している事象も大切ですが、その背景にあるものを見抜くことを心掛けています。そのためにも、現場で働いている方々の生の声(本音)を聞くことに留意しています。現場の経営幹部や管理職が問題を問題と感じなくなってしまっていることが多いため、問題を経営幹部や管理職と一緒に見て、問題認識を共有することから着手し、経営幹部や管理職に問題解決の当事者として、即時改善を実践し、成果を創出していただきます。

4)学生時代、今のお仕事に通じるエピソードについて

・大久保さんのご回答

大学時代に飲食店でアルバイトをしていたのですが、同僚から「20歳にもなって自分のやりたいことが分からないなんて、バカですよね」と言われました。その彼は、夢を抱いて、地方都市から上京していました。そのとき私は、「そうだよね」と同調したふりをしたのですが、改めて、自分自身が何を職業として選択するべきなのかを真剣に考えました。景気循環の数理的モデリングを研究する経済学者になりたいと漠然と考えていたのですが、ゼミの担当教授から「学者は、お金と暇がなければなれません」と言われ、諦めました。

父親は田舎で小さな事業を営んでいました。夜になると、近隣の個人事業主や中小企業の経営者が訪ねて来ます。父は、そうした方々の相談に乗っていました。幼少期に、その席に同席し、たまに、父から、「どう思う?」と質問されました。もちろん、返答できるはずがありません。その経営者の中には倒産したり、夜逃げしたりした方もいました。

こうした幼少期のことを思い出し、中小企業の経営者を助けられるような仕事をしたいと考え、経営コンサルタントという仕事があることを知りました。田辺昇一さんや船井幸雄さんの本も読みましたが、最も影響を受けたのは、企業再建を専門にやっていた一倉定さんで、1冊1万円近くする書籍が全シリーズで10巻近くあったと思いますが、全巻購読しました。

私は、企業再建が実践できるような腕利きの経営コンサルタントを志しました。当時の就職状況はバブル経済の真っ盛りで、売り手市場。友人は、内定を何社もらった、特別待遇を受けたなどの自慢話をしていましたが、世間知らずながら、私は一人黙々と、その道につながるであろう道を探して、就職活動をしていました。

4 大久保さんの強烈な胆力【なんとかする精神力】は、中学受験で身についたというお話

大久保さんにインタビューをさせていただいているうちに、会社を変革させるときの、【なんとかする精神力】【胆力】は、いつ、どういう経験で備わったのか?ということを疑問に感じ、質問させていただきました。

意外にも、中学受験が大きな影響を及ぼしているとのことでした。名門ラ・サールへの中学入試。一般的な入試の準備では小学3年生か4年生から塾通いを始めるところを、大久保さんは6年生の途中から猛勉強し、周りが驚くほど短期間で合格ラインまで急成長したそうです。しかし今度は、あまりに勉強を頑張り過ぎて体調を壊し、ドクターストップ! 年末から学校や塾にも行けず、ましてや勉強もできない状況が1カ月半。大久保さん、「病床でどれだけ苦しんだか分かりません」と当時を振り返ります。こうした絶体絶命の中で、【なんとかする精神力】が身につき、土壇場、正念場の踏ん張りで、見事合格を勝ち取ったそうです。

また、30代前半に、売上100億円ほどの会社で国内初のMBIによる事業再生案件を実施し、実質、営業初月で黒字化を達成したときのお話も、この小学校時代に中学受験にまい進したお話と通じるところがあります。再スタート間際に、破綻した会社の社員100人全員と、たった2日間で面談したというのです。

社員1人に費やせる時間は、わずか15分。この15分が真剣勝負です。社員にとっては、自分の今後の人生や生活が掛かった重大な面談であり、本気でぶつかってきます。かなり厳しい面持ちで真っ向から立ち向かってくる社員100人に対峙する。会社にとっては、新たに事業を“爆速”で立て直すための大事な面談でもあるのです。

こうした局面で、100人の社員全員に対峙する2日間の面談。並大抵の精神力ではできないと思います。このあたりにも、子供の頃の経験からくる、【なんとかする精神力】が生きていると大久保さんは話します。

5 今の日本に足りないもの、今後について

大久保さんには、社長請負人として、今の日本に足りないと感じること(社長として必要なことも含めて)、今後、関わっていきたいことについても、お聞かせいただきました。

・大久保さんのご回答

企業再建で、経営者を助けたい、というような甘い考えでいたのですが、実際に企業再建の現場で痛感したことは、「いかに企業経営に強さを取り戻し、さらに強化するかが重要である」ということでした。社員がやる気になり、一丸となって頑張って再建しましたという美談も、リスク管理がおろそかになり、将来に禍根を残している可能性が高いことを実感しました。

そこで、私が貢献できることは、「経営力の強化」だと考えています。経営力が弱いことは、「問題から逃げる、甘える(先送りする)、隠す」という経営を生じやすく、そういう経営の会社は、社会的にも罪悪だと考えています。

業績不振は、経営力を抜本的に見直す好機です。業績不振で弱気になりがちな経営者に、強い気持ちで再起していただき、業績不振を早期に解消し、真摯にまい進する経営者を支援したいと考えています。有能な経営者は、業績が好調のときにこそ、あえて抜本的な経営変革に着手します。当然ながら、現状維持派の抵抗に遭います。私は、志の高い経営者の経営変革を支援したいと考えています。

組織が3階層以上になれば、各階層の経営管理者のマネジメント力強化のために、経営者の強力な武器として「経営変革プロジェクト」が最も有効です。私自身、「経営変革プロジェクト」の責任者としての経験がなければ、企業再建ができるような経営コンサルタントになりたいという志はあっても、実現できなかったでしょう。日本において33歳という若さで、外資系投資ファンド投資先の暫定COOとして、破産後の企業再生で営業初月から黒字化など到底できなかったと思います。日本経済を根底で支えていただいている百戦錬磨の質実剛健な経営者の皆さまとご一緒に、経営変革や事業承継という経営の根幹に関わる重要な課題に取り組ませていただく機会もなかったでしょう。

「経営変革プロジェクト」の責任者の経験を生かして、「経営変革プロジェクト」を縦横無尽に活用し、経営を変革し続け、長期的な成長を実現する。そして日本経済の将来を支えていただける、志あるオーナー企業の後継者を支援したいと考えています。

経営変革プロジェクトの工程を示した画像です

6 大久保さんへのインタビューの振り返り

今回、何かすごく「アツいもの」を感じるインタビューでした。直面する事業承継問題にも大きなヒントになるお話を、大久保さんから示唆していただけたと思います。ここ最近、事業承継の軽い感じのイベントが目につきます。アイデアを出す、事業承継を座学で勉強をする、新規事業を考えてみる。こうした単なる「イベント事」で厳しい事業承継が成し遂げられるとは、私には到底思えません。

今回の大久保さんへのインタビューから、後継者問題の解決の早道は、まずは会社の再建、変革が先だということ、そして、それほど後継者育成は難しいということを、改めて考えさせられました。旧経営陣や古参社員による社内クーデター、離反、内紛が毎日勃発するような場面を乗り切る胆力、心構え。また現状の経営体制の根本を見直せる、変化に対応できる。そうした経営変革ができる後継者が、今、まさに必要なのだと感じました。

・このインタビューを通じて、大久保さんから一言。

短期間で成果が出せる理由、なぜ、他のコンサルタントや同じ仕事をしている元部下が成果創出に時間がかかっているのかを考察する、良き機会をいただきました。ありがとうございます!

大久保さんと何かご一緒させていただける場面を今後も創出し、事業承継に役立つ活動に、私自身も参画していきたいと、強く思いました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年3月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
執筆:杉浦佳浩 (すぎうら・よしひろ) 代表世話人株式会社代表
三洋証券株式会社入社(昭和62年)。鹿児島支店にて勤務。地元中小企業、個人富裕層の開拓を実施。 日経平均最高値の2カ月前に退職。次に日本一給与が高いと噂の某電機メーカーに転職。埼玉県浦和(当時)にて、大手自動車メーカー、菓子メーカー、 部品メーカー等の主力工場を担当。 退職時は、職場全員から胴上げ。そして、某保険会社に二十数年勤務後、平成26年末に退社。在社中は、営業職、マネジメント職を経験して、リテール営業推進、若手人財育成を中心に担当していた。 社外の活動も活発に行っていた。平成27年1月1日、代表世話人株式会社を設立。
同社代表取締役に就任。世話人業をスタート。年間1000人以上の経営者と出会い、縁をつなげている。

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