年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、都築 啓一(つづき けいいち)さん(株式会社スマテン 代表取締役CEO)です。

都築さんたちスマテンが行っているのは、ビルや店舗など建物の法令点検の業界に革命をもたらす、「スマート点検=略してスマテン」です。内容は後ほどご紹介しますが、他であまり聞いたことのないサービスです。

競合がほぼなく、むしろ大企業が実現しようとして頓挫してしまったことを、都築さんたちが成し遂げている印象です。最初にビジネスモデルを聞いたときは衝撃的でした。これが本当のDXだ、と。今、スマテンのサービスは引く手あまたで、月に数百物件くらいお客さま(建物)が増えており、これからもニーズはまだまだ広がりそうです。

文章だけでは表しきれないスマテンのサービスの「現場感のすごさ」は、都築さんご自身が消防点検の会社を立ち上げたことがあるからこそです。現在34歳の都築さん、消防点検の会社よりも前に、飲食店や太陽光の会社などでしっかりと売上・利益を上げてきました。以降ではスマテンさんの他に類を見ないサービスと、爽やかでありつつ、根っこの芯が激強な都築さんの事業への取り組み方をご紹介します。

1 「建物の法令点検プラットフォーム」の導入実績は約1万棟を超える

スマテンには、全ての建物を安全なものにしたいというVISION、MISSIONがあります。

スマテンのビジョンの画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

一軒家を除く建物、例えば工場・ビル・マンション・アパート・商業施設などは、法令でさまざまな法定点検が義務付けられています。しかし、都築さん曰く、「一軒家を除く建物は400万棟ほどあり、そのうち、法令点検の実施率は50%を下回る」のだそうです。半分も実施されていない現状に驚きます。

この実施率をアップさせて、皆が安全で安心して過ごせる、働ける世界をつくるために都築さんがつくり出した仕組みが、

建物の法令点検の管理や、点検業務を受発注しやすくする総合プラットフォーム

です。このプラットフォーム、「ビルや店舗など建物を管理する側」と「建物の点検をする側」の両方の効率化、DXを実現しているサービスです。2019年以降、すでに1万棟超えの建物で導入されています。驚きなのは、この1万棟超えの建物を、大半が「営業電話1本で」開拓してきているという事実。導入しているのは大手焼肉チェーンや飲食店、カー用品、学習塾など、複数のビルや店舗を管理している企業です。そこに電話1本で導入。都築さんの営業力もさることながら、圧倒的な商品力なので、複数の建物を持っている企業の総務部などの方なら、スマテンの話を聞けば、「効率化でき、管理コストも削減できるメリット」が、すぐに理解できるからだと思います。

スマテンの導入状況の画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

2 建物を管理する側と法令点検する側の両方がうれしい「無料」のサービス

スマテンが実施している法令点検の総合プラットフォームの全体像は次の通りです。

  • 建物管理側(ビルオーナーなど)と法令点検する側(点検業者)の両方がDXできる
  • 間に入ったスマテンが点検業者に依頼するなど、しっかりとスマテンが動いている
  • 建物管理側も、法令点検する側も、ツール導入・利用の費用が無料である

スマテンの総合プラットフォームの画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

建物に関する法令点検はさまざまです。そのため、複数の地域にビルや店舗を持っている場合は実に管理が大変です。地域ごとに、その地域その地域の点検業者に依頼する形になるからです。この状況を、都築さんの言葉を借りてご紹介します。

「例えばFCなどで全国に数百店舗、数百のビルがある場合、地域ごとに、何十社の点検業者に発注しなければならないので、管理は本当に大変です。北海道の店舗(建物)は北海道の点検業者に、沖縄の場合は沖縄の点検業者に発注するという形です。点検の手配をしている総務部の方などは、例えば年に2回行う消防点検であれば、6月と12月の点検時期に点検業者に発注して、地域ごとの何十社という業者とやり取りして点検日程を調整して、『●月●日に点検業者が来るよ』と店舗ごとにお知らせして……というように、かなり業務が煩雑になってしまっています」

考えただけでも汗が吹き出そうな業務の煩雑さ。点検業者は小規模な企業や職人などが多く、全国的に展開しているケースは稀だそうです。仮に、建物管理側が点検窓口を一本化しようと、全国展開している大手警備会社に一括で依頼したとしても、実際に点検するのは警備会社の下請・孫請の小規模企業や職人です。点検の価格は高くなるし、情報連携に時間がかかるといった問題がある、と都築さん。

この業界的問題を解決するのが、建物管理側向けのツール「スマテンBASE」です。建物管理側が建物ごとの各種点検状況や予算までをWeb上で一括管理できるもので、導入・利用の費用は無料です。

そして、「スマテンBASE」を使っている建物管理側は、点検はスマテンにだけ依頼すればいいので、煩雑になりがちな各地域の点検業者とのやり取りもありません。スマテンは、全国800ほどの点検業者とパートナー企業としてつながっています。建物管理側から来た点検依頼を、スマテンが各地域の点検業者に割り振るという流れです。この、

間に入って点検業者への実際の依頼などのオペレーションをしっかりやっている

のがスマテンの大きな強みでもあります。

一方、小規模な企業や職人が多い点検業者側から見ると、

営業活動をしなくても、スマテンから点検業務の依頼が入ってくる

状態なのでメリットがあります。そしてさらに、点検業者側の大きなメリットが、現場でスマホで点検報告書が作れる「スマテンUP」というアプリケーションです。このアプリも、点検業者の導入・利用の費用は無料。しかも日本初!

「スマテンUP」では、単にスマホで点検報告書が作れるだけではありません。なんと、すごいことに、作成した点検報告書などの書類提出業務はスマテンが代行して郵送業務などを行います。点検業者が点検だけに集中できて、一日に回れる件数が増えるので、点検業務の稼働率は上がります。逆に管理コストは下げられます。

「私たちスマテンが今、パートナーである点検業者さんたちにお願いしているのは、点検作業そのものと、『スマテンUP』で報告書を作ることだけです。営業活動、点検スケジュールの調整、点検報告書を消防署や建物管理側に提出することまで、スマテンが巻き取っています。
大事な本業の点検作業と報告書作成以外のところを全部スマテンが巻き取っていくことで、点検業者の稼働率アップも実現しています」

そう語る都築さん。建物管理側と点検業者側の両方の管理コストを減らし効率化し、そして点検業者の稼働率もアップする……これが本当のDX、スマテン、すごすぎます。何か、人間の知恵というのは、このように工夫して使って進化していくのだということを見せてくれている感じがします。

●スマテンBASE(建物管理側向け:Webで建物の点検状況などを一括管理)

https://sumaten.co/#/

●スマテンUP(点検業者向け:報告書を現場でスマホで作成)

https://sumatenup.co/

●さまざまな種類を実施しなければならない建物の法令点検

建物の法令点検の画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

 

●スマテンの総合プラットフォームの説明動画

(出所:スマテン説明動画)

●福祉事業のスマテン導入事例

福祉事業のスマテン導入事例の画像です

(出所:スマテン提供資料より抜粋)

導入企業の事例、導入者の声などは、「スマテンMagazine」にも掲載されています。

https://mag.sumaten.co/

3 「業界ど真ん中」に身を置いていた、でも「よそ者」だから良かった

スマテンのサービスが、建物管理側と点検業者側の両方にとって本当にメリットがあり重宝されているのは、都築さんが消防点検の会社を実際に行っていたからです。

「現場を知っているからここまでいけたというのもあると思います。例えば点検業者さんが『スマテンUP』アプリを使うことで、その場でスマホで報告書が作れて業務効率化できると、1日3件しか回れなかったのが、5件6件と点検に回れるようになります。そうすると工事単価・点検単価が下がったとしても売上は上がる。仮に、その部分をスマテンに支払ったとしても、点検業者さんとしては見えない管理コストがかなり圧縮できていることになります。

点検した後に会社にわざわざ戻って報告書を作ったりしないから楽だし、件数も回れるし、近い地域の点検をスマテンが回してくれるから遠いところに行かなくていいし、消防署に書類を持って行かなくてもいい。スマテンが現場感あるサービスを提供して、点検業者さんが見えないコストを削減できているので、こういうところは他社が真似するのは難しいのかもしれません」

都築さんの画像1です

都築さんは謙虚な語り口で爽やかにサラッとこうお話しますが、すごいことを成し遂げています。古くからのしきたりが色々あったり、ITやツールに強くない方が多いイメージの点検業界ですが、そこで「スマホ一つで簡単に」「面倒で時間を取られる書類提出はスマテンが巻き取る」という、とても分かりやすいサービス設計で革命的に効率化しています。

2016年に名古屋で自ら消防点検の職人たちを集めた会社を立ち上げた都築さんは、外から業界に飛び込んでいるので、業界ど真ん中にいつつも、「なんでこんな非効率的なことが当たり前に?」と普通に思えて、改善しようとしたのがスマテンのサービスに生きたのかもしれません。

「よそ者だったから良かったっていう話ですね」と笑顔の都築さんです。

4 自分の命をどこに使うか

都築さんの根底には、強烈に、

自分の使命を果たしたい、自分のやるべきことで世の中や人の役に立ちたい

という思いがあります。これが2016年に立ち上げた消防点検の会社、ひいては、そこで感じた課題を解決する現在のスマテンにつながっています。少し紐解いてみましょう。

もともと、実家が自営業の都築さん。継がないと決めたため、中学生のころから「自分の道は自分で決めないといけない」という気持ちがあったそうです。

理系を選択し、理系の大学に進んだ都築さんですが、入学1週間で大学を辞めようと思います。曰く、「周りが優秀すぎてとても敵わないレベル。入学した時点でこんなにギャップがあるのに、4年間積み重ねたらもっとギャップは広がる」と感じたとのこと。

しかしここで止まる都築さんではありません。そこから行動開始です。バックパッカーとして世界中を旅してアジアなど何十カ国を回りました。「1カ月間バイトして10万円貯めて、翌1カ月で海外に行く、を繰り返してました」という都築さんは、タイでアジアン系カフェアンドバーを見て、そういう店が名古屋にあったらいいなと思うと、思い立ったが吉日、半年くらいで名古屋に共同出資でバーを開業しました。それが19歳のときだそうです。すごい行動力とスピード感!

その名古屋のバー時代の話がまたものすごい。なかなか文章にしにくいところもありますが、最初に3人でバーを始めたものの、色々あって別の地元の友だち2人を呼びまたバーを経営。当時、年中無休で1日20時間くらい働くという生活を3年間くらい続けたそうです……。このバー時代の物語は、ここには書ききれません。バー時代だけで前後編の映画が撮れるくらいのドラマがあり、泣ける、笑える、そして感動します。ですので、映画になることを期待しています!(期待している人は多いと思います)

とにかく常に「自分の使命、やりがいを見つけたい」「自分の道は自分で決めなければ」と感じてきた都築さん。10代後半から20代前半にかけてバーを経営したのも、まだ世の中にどういう仕事があるのか分からないので、色々なお客さんからさまざまな話を聞けるからという理由もあったそうです。

その後、2011年に東日本大震災が起きます。とにかく「自分の使命を見つけ、果たす」という気持ちの都築さんは、震災1週間後、福島県いわき市にボランティアに行きます。当時のいわき市は「今日食べるご飯がない」という状態だったといいます。このボランティアを通じて都築さんは感じたことをこのように語ってくれています。

「当たり前の生活の大切さ、日常の幸せを感じました。そういうものに本当に心から感謝しなければならないな、有り難いことなのだな、と」

「一方、ボランティアは、継続していくのが難しいことなのだなとも感じました」

そこから都築さんは、ボランティアではなく仕事として、「自分の使命、やりがい」「自分はどうやって人の役に立てるのか」を見つけるために、さまざまな事業にチャレンジしていきます。

太陽光の会社を立ち上げたり、福祉の会社を立ち上げたり。それらの事業でちゃんと売上・利益を上げているというところがまたすごいところです。「うまくいかなくて撤退した」のでは全く無い、「本当に自分が一生を捧げたいと思える仕事は本当にこれなのだろうか、まだ見つかっていない。燃えない」感に悩み、事業を変えていったそうです。事業的に成功はしていても。やるべきことはしっかりやった上で、です。何か、ないものねだりでフワフワと青い鳥を探していたりする感じとは全く違います。

悩んでいるとしても、常に行動し、結果を出す。止まらない。こういうところにも、都築さんの底知れぬエネルギー、芯の強さ、ビジネスにフルコミットする力を感じます。

色々なことを考えて行動し続けている中で、2016年に消防点検の会社を立ち上げ、そこから現在のスマテンの立ち上げに至った都築さん。

このスマテンも、最初は点検業者向けアプリ「スマテンUP」を、自分たちの消防点検の会社で使おうと思ったところから始まったのだそうです。自分たちだけで使うには開発費も結構かかったし、実はこのアプリは自分たちだけではなく、業界全体で困っている職人さんたちの役に立つのではないかと考えたことがきっかけで、プラットフォーム事業に転換していったといいます。

そして現在、都築さんは、効率化できる余地が山ほどあるのにできていない法令点検の業界を、革命的に効率化して業界全体に役に立つのと、「法令点検の実施率を上げて、安全で安心な世の中にしたい」という思いで突き進んでいます。

色々と事業を立ち上げて結果を出し続けている都築さんに、「本当に自分が一生を捧げたいと思える仕事は本当にこれなのだろうか、まだ見つかっていない。燃えない」感について聞いてみました。すると、とても印象的なことを語ってくださいました。

ここは、都築さんご自身の言葉で最後にお伝えしたいと思います。

「確かに太陽光の会社をやっているときは調子は良かったです。ただやはり、お金が儲かるからビジネスに本気になれるかっていうとそうではなくてですね。

なんというか、『自分の命をどこに使うか』っていうのを考えていたと思います。結局、今のスマテンをやっていても違う会社をやっていても、生活はできるでしょうし生きていくことはできるとは思うんですけど、ただ、振り返ったときにこの事業をやって本当に社会のためになったなとか、世のためとか人のためになったなって思えないのは残念というか悔しいなっていうところがあって。

なので、自分の使命であったり、自分ができることは何なんだっていうのをずっと考えています。

今、僕は社員とかにも言いますが、本当に自分には能力がない、本当にポンコツな人間だと思っているんです。本当に。普通の社会人としてだったら、どこも雇ってくれないくらいポンコツだと思います。自分は。

ただ、人によって適材適所といいますか、逆に経営者としてリスクを背負うことは全くビビることなく攻めれるっていうのは強みかもしれないです。そういうことを踏まえて、とにかく何か自分の命を、ポテンシャルを最大限発揮できるのはどこなんだろうというのを常に探していました。

正直に言うといい家に住んだりいい車を買ったり、色々やったんですが、僕の場合はそれで幸福度は上がらなかった。やはりそういうところじゃない、ただお金を稼ぐということではなく、自分の命をそこに使うんだっていう、『そこ』をいち早く見つけてフルコミットすることが自分の人生の幸せにつながるんではないか。それを探し求めてたって感じです」

「自分の命をどこに使うか」を探し求めていた。現在34歳、経営者歴14年の都築さん。もう、他に何も言葉はいらない感じです。都築さん、本当に有り難うございます!

都築さんの画像2です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年9月20日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
執筆:杉浦佳浩 (すぎうら・よしひろ) 代表世話人株式会社代表
三洋証券株式会社入社(昭和62年)。鹿児島支店にて勤務。地元中小企業、個人富裕層の開拓を実施。 日経平均最高値の2カ月前に退職。次に日本一給与が高いと噂の某電機メーカーに転職。埼玉県浦和(当時)にて、大手自動車メーカー、菓子メーカー、 部品メーカー等の主力工場を担当。 退職時は、職場全員から胴上げ。そして、某保険会社に二十数年勤務後、平成26年末に退社。在社中は、営業職、マネジメント職を経験して、リテール営業推進、若手人財育成を中心に担当していた。 社外の活動も活発に行っていた。平成27年1月1日、代表世話人株式会社を設立。 同社代表取締役に就任。世話人業をスタート。年間1000人以上の経営者と出会い、縁をつなげている。

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