海外で広く普及しているライドシェア。UBER(ウーバー)にLyft(リフト)といった名前は、その時価総額の高さも相まって、日本でもよく耳にするようになりました。とはいえ、まだ日本においてライドシェアを経験したことのある人は少ないかもしれません。

ライドシェアとは何か。なぜ海外で人気なのか。「注目される民泊ビジネス」に続き、話題のシェアリングエコノミーに迫ります。

1 各国の交通事情

1)日本におけるタクシーの位置付け

日本における公共交通機関といえば、電車とバス。安い料金で、特に都心であれば本数もそれなりに多く、数多くの人の移動手段としてよく利用されています。一方で、タクシーは「困ったときに使う最終手段」という認識の方が多いかもしれません。それは、電車やバスに比べて乗車賃が高いから、という認識が根底にあるからで、便利さでいえばタクシーのほうが上かもしれません。

日本には、東京、大阪、名古屋などのように在来線、地下鉄、新幹線と多くの線が往き来する都市もありますが、地域によっては、電車やバスの本数が少ないところもあり、住民の主要交通機関はタクシーという場合があります。

2)海外におけるタクシーの位置付け

海外では都心であっても、電車とバスの整備がまだ進んでいない地域が多く存在します。中国を含む東南アジアなどでは、それが顕著な状態となっています。

一方で、大渋滞を引き起こしたり、排気ガスによる環境問題が浮上したりと、付随する問題が多く発生しています。また、自家用車を手に入れるには多額の資金が必要になるため、フィリピン、ベトナムなどの家庭の中には、1つのバイクに家族3人が乗っているようなところもあります。

大渋滞の中を自身で運転すること自体大変であり、特に大人数でのバイクの相乗りは危険でもあるため、タクシーに安く乗れるのならば、タクシーで通勤・通学したいというニーズが出てきます。環境の面から見ても、1台当たりの乗車人数が上がれば、走行車数が減りますので、渋滞緩和や排気ガス抑制につなげることができます。

3)タクシーが抱える課題

電車やバスのように大勢と乗車するものと違い、タクシーは閉鎖空間であり、行き先の権限が運転手にあることから、警戒心を抱く人もいます。日本では、タクシーに関する犯罪はなじみがないかもしれませんが、海外であれば、旅行客を狙った、法外な乗車賃の提示などが行われることもあるようです。

また、慢性的なタクシー不足から、街角でいわゆる流しのタクシーに乗車するのが難しいという地域も多数あります。

良い運転手を見極めて安心して乗車したい、適正な乗車賃で乗車したい、すぐにタクシーに来てほしい……こういったニーズから、タクシーの配車アプリやライドシェアのサービスが誕生しました。

2 ライドシェア

日本では、タクシーの配車アプリを利用したことがあっても、ライドシェアのアプリおよびサービス自体を利用した経験のある人は少ないかもしれません。一方、海外では人々の身近な交通手段としてライドシェアは頻繁に利用されています。

もともとライドシェアは相乗りを意味しますが、現在では必ずしも大人数での乗り合いを意味せず、タクシー業には必要とされる免許を持たない個人が、他人を乗せ、対価として金銭を受領する、すなわち業務として行う“白タク”の代名詞としても使われています。また、1人の運転手が、1台に複数の顧客を要所要所でピックアップする相乗り型のサービスも存在します。

従来の白タクといえば、無許可・無認可の素人がドライバーを務めていることから、タクシーよりも質が低いという認識が大勢でした。

それが、テクノロジーの進化で、アプリ上からドライバーのレーティングができるようになりました。レーティングが高いドライバーほど収入が高額になるため、サービスの質を高めようとドライバーの行動が改善され、タクシーと白タクの評価が逆転し始めたのです。

また、ライドシェアアプリでは、近くにいる運転手が応答して、指定した場所へ迎えに来てくれて、乗車賃もあらかじめ支払額が表示されているため安心感があります。クレジットカードを登録しておくことで、現地通貨の用意がなくても払えることや、現地の言語が話せなくとも、目的地はアプリを通じて運転手に伝わっていますし、運転手とのチャットアプリにおいても互いの言語に自動翻訳されるため意思の疎通が可能です。

一方で、個人が簡単に参入できるとなっては、既存のタクシー業界は自分たちの利益を奪われるのではと脅威に感じてしまいます。多くの国でタクシー業界による白タク反対運動が展開されており、移動手段の供給不足が深刻な国では社会問題になっています。

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3 海外での普及

1)米国

UBERとLyftという二大スタートアップが市場を占めています。UBERへは、日本のSoftBank社も投資を行って話題になりました。同社は世界展開を目指しつつも、中国を除くアジア圏ではシンガポールを拠点とするGrabが覇権を握り、日本では白タク規制で思うようにサービス展開ができないなどの苦戦も見られます。

ライドシェア事業は、レベニューシェア型の契約であり、各社の売り上げはドライバーの数に比例して増えます。そのため、プレーヤー同士でドライバー数を奪い合うことになりますが、時間当たりのドライバーへの利益還元率を高めることでドライバーを確保しようとすると、結果として乗車賃が上昇することになってしまい、それだと従来のタクシーに対し安い乗車賃というモデルが成り立たなくなってきます。

そこで、各社が取り始めている戦略が、自動運転への参入です。走行データ、データとマップのリンク、画像処理、特定の事象に遭遇した際に行う動作などをAIに覚えさせ、運転手がいなくても走行できる車が増えれば、利益が運転手に依存しなくなるためです。自動運転へはライドシェアの多くが調査・開発に乗り出しており、いずれ無人タクシーが広く普及する日もくるかもしれません。

2)中国

中国ではDiDiが最も有名でしょう。こちらも最近日本に進出し、タクシーを呼ぶアプリとして日本交通の展開するJapan Taxiとの戦いを見せています。

数カ月前には、運転手が乗客に性的暴行を加えた事件が中国で問題となり、DiDiに対する非難の声が上がったこともありましたが、DiDi側でも、運転手のレーティングなどを強化していく方針を打ち出したこともあり、すでに国民にとって必要不可欠なインフラとなりつつあるDiDiは、依然として利用されています。

3)アジア(中国以外)

東南アジアで広く普及しているのがGrabです。UBERとの戦いに勝ち、広くGrabブランドが普及しています。フィリピン、マレーシア、ベトナムなど多くのアジア圏で利用でき、同じアプリ、同じUXで使えます。

また、GrabはGrabPayと呼ばれる決済機能も備えています。乗車賃支払いのために登録したクレジットカードで、タクシー以外の店舗でも決済することができ、そのとき特別クーポンが使えることもあります。日本におけるSuicaのように、毎日使う交通系マネーは、他のところでも使いやすく、中国におけるAlipayやWechatpayのような役割も見せ始めています。

4  日本における展開

日本では、国土交通省が定める道路運送法という法律で、ライドシェアが禁止されています。また、日本では確かにタクシーの初乗りは世界的に見てやや高いものの、電車やバスが整備されていることや、タクシーの質が高く、ライドシェアがないと通勤・通学に支障があるという地域がそれほど顕在化していません。

2018年7月には、UBERが淡路島でタクシー配車アプリの実証実験を開始。既存団体の反対もあり、現状ではライドシェアはいずれも日本では運営できない状況となっています。また、UBERはハイヤーの配車アプリという位置付けでサービス展開をしており、DiDiはタクシーの配車アプリとして展開しています。

一方で、2018年秋の未来投資会議では、内閣府から次世代モビリティ推進の一環として、一部地域でのライドシェア(自家用車での有償運送)をやりやすくする環境整備の方針が出されています。規制が緩和されライドシェアが認められたとき、乗車運賃や既存の業者との拮抗具合がどのように変化するのかが注目されます。

無許可の個人が乗車の対価として金銭を受け取ることが禁止されているのであれば、金銭を受け取らなければいいという観点に立ったのが、nottecoというサービスです。これは無料のライドシェアで、行きたい目的地がある人と、その目的地まで運転する予定の人をマッチングする、ヒッチハイクのような仕組みです。ドライブが趣味な人と、遠方へ旅行したいけれども車が運転できない人などがマッチングしているようです。

配車アプリとしてはUBER、DiDiなどの他、日本交通が提供する全国タクシーなどがあります。これらのサービスはいずれも呼び出しをした場合、迎車手数料がかかりますが、フルクルというサービスでは迎車手数料がありません。ただし、同アプリでは、距離制限があるため、かなり近い距離にいるタクシーを呼び止めるといった形での利用となります。

5 今後の展開

国民や社会課題を救う手段の一つとして注目されるライドシェア。特に中国、東南アジア、インドなどではもはやインフラの一つといえるでしょう。

一方で注目されているのが、MaaS(Mobility As A Service)という流れです。MaaS は、ITを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、個人か法人かなどの運営主体にかかわらず、マイカー以外の全ての交通手段によるモビリティ(移動)を一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ概念です。

例えば、既存の乗り換えアプリのように、A地点からC地点へ移動する際の最適経路を計算し、A地点からB地点は電車、B地点からC地点へはシェアサイクルといった組み合わせと価格を提示、そのアプリ内で決済までも完結できるというものです。

また、現在“ラストワンマイル”と呼ばれる、家から最寄り交通機関までの移動についても個人向けヴィークル(移動手段)の開発が進んでおり、身体障害者や高齢者の移動がより楽になることが期待されています。

一方で、運転・移動機能を持つものの走行については各国で規制があるため、例えば乗り捨てられるセグウェイを、企業の敷地内や大学キャンパス内などに設置するといった試みが始まっています。

MaaSの概念の中には自動運転も含まれており、トヨタ自動車の展開する「e-pallet Concept」といった構想が分かりやすい事例でしょう。ライドシェア、宅配など複数のサービス事業者が1台の自動運転車を相互利用したり、複数のサイズバリエーションを持つ自動運転車による効率的な輸送などを目指しています。

そうした中で、ライドシェアは、快適な暮らしへと進化していく途中にある存在といえるでしょう。日本での今後の動向が注目されます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年3月28日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
執筆:Eriko Nonaka
新卒でメガバンクに入社。
現在はIT企業でFintech新規事業開発に携わる。フリーランスとしても活動しており、企画やPM等でベンチャー支援を行う。働き方改革にも注目しており、パラレルワーカー等ネオワーカーにフィーチャーしたメディアを運営。

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