年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、エッセンス株式会社の社長である米田瑛紀さんです。

2019年4月、副業・兼業の解禁やリモートワークの推進など、激動の「働き方多様化時代」が始まっています。米田さんは、その最先端を担っていて、経済産業省におけるワーキンググループの委員にも選出されています。

大企業の優秀な人材をスタートアップ企業へ期間限定で送り込む「他社留学」の他、「現代の遣唐使」に見立てて「地方人材を東京へ送り込む」ことを事業化するなど、幅広く人材を活性化し「人財」にする活動をされています。

1 副業人財で決まりましたよ!

最初に、私のキャリアでターニングポイントになった出来事を紹介します。今から20年ほど前、当時懇意にしていた得意先の方から、ドラッカーさん(ピーター・ドラッカー)の音源を聞かせてもらったことがあります。その音源の中に、ドラッカーさんが来るべき将来に必要な人材像についてコメントしている場面がありました。

詳細なことまでは覚えていないのですが、当時のドラッカーさんが、「1社に帰属し自身の関わる仕事だけのプロフェッショナルの時代は確実に終わる」ということと、「多様性の時代が来る。その際には、いろんな業界、企業、職種、コミュニティーと対話ができる器用なビジネスパーソンが重宝される時代となるだろう」というようなことを予言的に話していたことは鮮明に覚えています。

これらドラッカーさんのお話に衝撃を受けた当時の私。幸いにして20代で全く違う業界へ2度の転職経験があり、さらに、私はあらゆる業種と関わりのあった損保会社で仕事をしていました。そうしたことから、ドラッカーさんのメッセージを、「まさにドラッカーさんが私に言ってくれている」と自分勝手に誤解? 曲解?して受け取り、それが根拠のない自信となって現在に至るまでパワーをもらっています。

会社員時代、就業規則の関係により私は金銭的な副業経験をしたことは一度もありません。しかし、当時から社外へ求め始めたネットワークのおかげで、莫大な【情報】と【信用】を手に入れることができました。金銭以上のものを【副業】として得られたといっても過言ではないと今まさに感じ、感謝しています。

これからの時代を生き抜く上でも、副業は大切な意味を持っていると思っています。

そろそろ冒頭のタイトル、【副業人財で決まりましたよ!】に戻りたいと思います。【副業人財で決まりましたよ!】。これは、私がインタビューに伺った際に、米田さんが席に着くなり、ニコニコ顔で語ってくださった言葉です。

今から数カ月前、懇意にしている上場会社の社長さんから、「杉浦さん! ここ6カ月ほど、社長マターで幹部人材を探しているけれど採用できなくて困っています! どこか採用の支援をしてもらえる会社を紹介してください!」と依頼を受け、すぐに米田さんにお願いしたものでした。

そこから2カ月もたたないうちに、米田さんから「副業人財をご導入いただくことが決まった」との報告をいただき、少し不思議な感じでした。役員級での採用要請でしたので、私は常勤の候補が当たり前と思っていましたが、この副業でジョインされた方は元マイクロソフトでマーケティングを担当したこともあり、現在は世界的によく知られるマーケティング会社の超有名人だそうです。

もしこのハイスペックな方を説得し、100%のコミットで転職要請するには、いったいいかほどの年俸を準備することになるのでしょうか。そして、どれくらい先にジョインすることとなるのでしょうか。

恐らく、企業側が想定している額をはるかに上回る金額が必要で、しかも、候補の方の状況によっては、実際にジョインするのはしばらく後になるかもしれません。企業にとっては、かなり難しく現実的ではない状況になるでしょう。

「常勤採用の発想から企業側も転換をしたほうが良いですよ」。そう米田さんは話します。「副業人財」としてジョインしてもらえば、ハイスペックな方を週1もしくは月数回程度で味方にすることができ、企業のレベルアップが図れます。依頼主の社長にとっては良いことずくめです。

米田さん率いるエッセンス社では、「戦略設計図を描けるプロ(人財)をそろえている」という点で、他社にはない価値を企業に提供できるとしています。また、人材を探している企業に寄り添い、「足りないピースは何か」「どこなのか」といった点も掘り下げていく【丁寧なチューニング】も、大きな強みといえるでしょう。

米田さんの姿勢から、「副業だからこそ人財の適材適所をしっかり考えることの大切さ」を目の当たりにした次第です。案件の数にこだわるのではなく、チューニングの丁寧さとクオリティーの部分に、エッセンス社が「何を重要視しているのか」がうかがえます。

2 水面下でも動き出している大企業の「他社留学」という研修スタイル

次にご紹介するのは「他社留学」という取り組みです。1万人以上を抱える大企業では、仮に自分が必死で努力したり、運を味方につけたりしたとしても、役員にまで上りつめることは本当に大変です。昨今、大企業でも役員の若返りにチャレンジしているとはいえ、20代で役員会に出るチャンスは皆無といってもよいくらいです。

しかし、エッセンス社ではその経験を20代でかなえる取り組みも実施されています。実は私がご紹介した会社はまさに社員数1万人以上で、「有能な若手人財をつなぎ留めておく施策はないか?」と探しているところでした(大概の場合、期間限定の海外研修ってことが多いですね……)。そこでその会社には、期間限定で他の会社に留学するという「他社留学」を若手社員に経験させてみることを紹介しました。

当初、まずは、その会社の1名を、あるスタートアップ企業に留学させることにしました。その結果、

  • 自社(大企業)のリソースの大きさ、ポテンシャルを認識できた
  • スタートアップ企業の役員会に参加することで経営側の考え方を学ぶことができた

ということだそうです! そこで、現在は3年目の他社留学をスタートしており、非常に効果が出ているといいます。

例えば、他社に留学することで、現業の【引き出し】が増え、課題解決力や視座が高まり、価値観も広がる。そして何より、「マインドが変わる=自立心が育まれる」ことが大きいと思います。

私が会社員時代に感じていた、【企業研修】の意味のなさ。研修に際して、会社が多額の投資をしてくださったことには感謝していましたが、「座学→眠い→体験値が低い→研修期間を過ぎればすぐに消えてゆく」。こうしたことの連続でした。だからこそだと思いますが、私には、エッセンス社の他社留学事業は大企業にとって「本当に社員を変えることのできる」画期的な【研修事業】と映りました。

企業が副業解禁に向かう場面でも、この他社留学は意味あるものだと感じます。自分が勤めている会社のことしか知らないという純粋培養では、企業側が副業解禁しようとしても、社員たちは何も分からない、変わらない、一歩も前へ進めない。そんな状況かもしれません。他社留学は、そうした社員の背中を押す施策と感じます。

●エッセンス社の他社留学に関する説明はこちら
http://nanasan.essence.ne.jp/

他社留学事業を説明した画像です

3 【現代の遣唐使】地方と東京をつないでいく

米田さんの思いは、「地方活性化」にも及びます。米田さんは、その思いを「現代の遣唐使」という表現で話してくださいました。飛鳥時代から平安時代にかけ、日本の礎(技術、政治、文化、宗教)に大きな影響を与えたのが、日本から「唐」に派遣されていた「遣唐使」です。遣唐使も、まさに「有能な人財を全く見たこともない世界に送り込むことで成長の機会を得られる」という制度でした。米田さんは、「現代の遣唐使」になぞらえて、地方の企業から東京の企業へ社員を送り込み、学びの機会を創出するという事業にもチャレンジされています。

例えば、青森県六ヶ所村に所在する日本原燃株式会社の例を見てみましょう。同社の2017年度の売り上げは2600億円超、従業員数も2700人を超えています。今回、この地元の超優良企業である日本原燃社から、都会にあるユニリーバ・ジャパン社の人事や、サイボウズ社の総務にと、日本でも先端的な取り組みをしている企業で「現代の遣唐使」が実施されたそうです。

既成概念の中で硬直した企業組織、若い世代が違和感を持っても過去の事例の中では発言すらはばかられる。日本原燃社では、こうした状況を打破すべく、「現代の遣唐使」を導入したのかもしれません。社員は、東京の企業で、全く違った組織運営の在り方や、仕事への取り組み方について現場で学ぶことができます。最先端の取り組みを行っている企業で経験した実績を、遣唐使となった社員が自社に持ち帰ることで、実際に、社内が大いに活性化しているそうです。

「現代の遣唐使」では、「既にある良きもの」をどんどん都会から持ち帰り、地方で生かしていくことがポイントです。今まで、地方へ有能な都会人財を送り込むことで活性化を生むケースは見受けられました。「都会人財が地方へ行く」という一方通行ではなく、双方向、特に地方から都会への遣唐使制度の中に、地方活性化の早道があるかもしれないと感じました。

4 副業解禁、その時代に必要とされる人財に大切なこと

働き方改革、副業解禁といったように社会が大きく変化していく中だからこそ、「人財」として大切にしなければならないことがあると、私は思っています。

あるスタートアップ企業で部長級以上の会議に出席したときに居合わせた、60歳以上の元商社出身の人生の先輩。この会社で必要なことへの言及は全くせず、終始、自分の経歴を一生懸命プレゼンするだけでしたが、結果として、その方は多額の報酬要求をされました。こうした、過去の人脈を頼り、電話一本で「この会社の社長と会え!」などと言う、強引な顧問の時代もそろそろ終わりに近づいていると感じます。

米田さんも、これから副業解禁時代を生き抜くためには、【再現性】と【マインド】という2つのキーワードが特に重要だと話します。

米田さんの会社で中核事業の一つである、プロ人材の紹介サービス事業である【プロパートナーズ事業】には、大企業で現役として働いている方や引退した方が「プロ候補」としてたくさん面談に訪れるそうです。しかし、そのうちの80%以上はお引き取りを願うのだそうです。

【再現性】と【マインド】という2つのキーワードを持っていない、それがお引き取りを願う理由だと米田さんは言います。有名企業に所属していただけ、肩書があるだけで、現場で実践してきたビジネススキルや成功体験を持ち合わせていない。また、やってきた仕事は単に所属企業のルーティンワークで、自社以外に持ち出して活用したり、再現できたりするものは何一つない。そんな方が少なくないと言います。

加えて、【マインド】もなく「大企業にいた」という上から目線で、そのことが地方の中小企業の現場では全く役に立たないことを理解していないようです。「自分が何に、どうしたら役に立てるか?」を必死で考える言葉が出る、そして行動する。そうした他者貢献のマインドがあってこそ副業ができるのです。【再現性】と【マインド】。この2点がないと、副業時代を生き抜くことは難しいと米田さんは話します。

●エッセンス社のプロパートナーズ事業に関する説明はこちら
https://www.essence.ne.jp/propartners

プロ人材の活用の広がりを説明した画像です

【再現性】と【マインド】。この2つを意識し、多様化し、激変していく世の中で活躍できる人材が「人財」となり、地方と都会の両方が活性化することを願いたいと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年4月12日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

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提供
執筆:杉浦佳浩 (すぎうら・よしひろ) 代表世話人株式会社代表
三洋証券株式会社入社(昭和62年)。鹿児島支店にて勤務。地元中小企業、個人富裕層の開拓を実施。 日経平均最高値の2カ月前に退職。次に日本一給与が高いと噂の某電機メーカーに転職。埼玉県浦和(当時)にて、大手自動車メーカー、菓子メーカー、 部品メーカー等の主力工場を担当。 退職時は、職場全員から胴上げ。そして、某保険会社に二十数年勤務後、平成26年末に退社。在社中は、営業職、マネジメント職を経験して、リテール営業推進、若手人財育成を中心に担当していた。 社外の活動も活発に行っていた。平成27年1月1日、代表世話人株式会社を設立。
同社代表取締役に就任。世話人業をスタート。年間1000人以上の経営者と出会い、縁をつなげている。

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