1 実はとても身近な「契約」

契約とは、一方の「申し込み」と、もう一方の「承諾」によって成立する法律行為です。

契約はとても身近なものですが、いざ「契約を締結しましょう」と言われたら、ちょっと身構えてしまいます。しかしご安心を。実は私たちの生活は契約だらけなのです。

例えば、仕事では会社と社員は「労働契約」を交わしています。これにより、あらかじめ約束した仕事を社員は行い、その対価として会社は給料を支払います。もっと身近な例では、皆さんがコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)でコーヒーやお菓子を買うときなどは、「売買契約」を交わしています。ただ、コンビニの店員が、「今から、このコーヒーについて、売買契約を交わしましょう」などと言っていないだけで、れっきとした法律行為がなされているわけです。

いかがでしょうか。コンビニで買い物をする(売買契約)、レストランで食事をする(役務提供契約)など、これら全てが契約なので、皆さんは、毎日多くの契約を交わしながら生活しているわけです。

この記事では、契約と法律の関係を整理した上で、契約書を作成する理由や、実際に契約を締結できる人は誰なのかについて弁護士が解説します。

2 最初に確認。「契約と法律」の関係

1)「契約自由の原則」とは

契約と法律の関係に関する重要な考え方に、「契約自由の原則」があります。

「契約自由の原則」とは、契約に関する事項は、契約当事者が自由に決めることができ、国家はこれに干渉しないというものです。

「契約自由の原則」は、具体的に次の4つの自由から成り立っています。

  • 相手方選択の自由:契約を締結する相手方を決める自由
  • 内容の自由:契約内容を決める自由
  • 方式の自由:書面か口頭かなど、契約の方式を決める自由
  • 締結の自由:契約を締結するか否かを決める自由

契約は「誰と」「どのような内容で」「どのような方式で」締結してもよく、また「契約を締結するか否か」についても自由に決めることができます。そして、契約で決めたことが法律に優先するのが原則です。

2)公序良俗に反するものはダメ

ただし、契約自由の原則があるとはいえ、何でも契約できるわけではなく、

公序良俗・強行規定 > 契約自由の原則 > 任意規定

といった関係があります。強行規定はおかしな契約を認めないもの、任意規定は契約で不明瞭な部分を補足するものといったイメージですので、以下で確認してみましょう。

まず、「強行規定」についてです。

強行規定とは、「公序良俗」を具体的に定めたものであり、契約当事者の意思にかかわらず適用されます。

強行規定について、民法で「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定められています。具体的には、建物の賃貸借契約において、「物件が天災、火災、地変その他の災害によって使用できなくなったときには敷金を返還しない」というように、借主の責任ではなく、貸主の責任や不可抗力による場合に敷金を返還しないとすることは、公序良俗に反するとして、裁判で無効とされたケースがあります。

次に、「任意規定」についてです。

任意規定とは、契約当事者の意思が不明確であるときに、不明確な部分を補充するための規定です。契約当事者間の合意があれば、その合意が任意規定よりも優先されます。

任意規定の例には、民法の「典型契約」があります。

民法の典型契約とは、「代表的な契約の種類を定めたものである」と説明されるように、日々の生活に密接に関係するものが多く含まれています。例えば、消費者がお店で買い物をする売買契約や、友人と洋服を貸し借りする使用貸借契約などがあります。

これらは日常の行為であるが故に、細かな条件を契約書で定めることはほとんどありません。こうした、ある意味曖昧な権利・義務関係において何らかのトラブルが生じた場合、判断のよりどころとなるのが典型契約なのです。

なお、民法の「典型契約」については、以下の記事で詳しく説明しています。

実際は、「どれが強行規定で、どれが任意規定なのか」といった判断が難しいことがあります。そのようなときは、弁護士などの専門家に相談しましょう。

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3 口約束でも成立するのに、契約書を作成する理由とは?

さて、冒頭の説明でもお分かりいただけたように、コンビニで買い物をするときに、いちいち契約書を作成しません。実際、口約束だけでも「申し込み」と「承諾」があれば契約は成立します(「保証契約」「定期借地権契約」など、一部の契約は書面がなければ成立しないので注意が必要です)。

しかし、ビジネスは必ずといってよいほど契約書を作成するのは、後のトラブルを防ぐためです。以下に具体的な効果を示すので、確認してみてください。

1)契約内容を明確にできる

人の記憶は曖昧ですし、自分にとって都合の良い解釈をしがちです。そのため、口約束だけで契約を締結すると、後になって「言った、言わない」のトラブルになるリスクが高まります。

この点、契約書を作成しておけば、こうした問題が回避されます。互いの曖昧な記憶ではなく、契約書の記載内容に基づいて判断することができます。

2)トラブル発生時に自社を守る

口約束だけだと、大枠では合意しているものの、細かな取引条件まではきちんと合意できておらず、後々、トラブルになるリスクがあります。実際、「納品日・数量・料金の支払日」といった基本的なところが漏れているケースもありますし、目的物が契約に適合しているか否かを判断するよりどころもありません。

受注側は仕事欲しさに「きちんと対応しますよ!」などと安請け合いしますが、目的物が契約に適合しない不備があると、場合によってはいつまでもその対応に追われて、適正な収益が得られなくなります。他方、発注側も契約書に記載がないと、目的物に不備があった場合に、取引相手にどのようなことが主張できるかが明確ではなく、想定外の不利益を被る恐れがあります。こうしたことがないように、契約書で目的物が契約に適合しない不備があるときの補正内容や、その期間を定めておけば、自社を守ることができます。

3)契約内容を慎重に検討できる

その場の雰囲気や会話の流れに影響されて、契約内容を慎重に検討しないまま不利な口約束をしてしまうことがあります。

しかし、契約書を作成するということになれば、事前に何度も契約内容を確認します。社内確認はもちろん、ときには弁護士のリーガルチェックも受けるので、自社にとって不利な条件で契約を締結するリスクは低減されます。

4)後任の担当者が確認できる

ビジネスで、何かのプロジェクトについて契約書を作成する場合、最初の担当者はプロジェクトの内容や契約の経緯を十分に理解しています。しかし、異動によって担当者が代わると、当時の状況は十分に引き継がれなくなり、何かの確認があった際に、「なぜ、このような取り決めをしているのか?」と混乱することがあります。

この点、きちんと契約書を作成していれば、ひとまずそれに基づいて判断することができます。また、契約の背景について社内のメモや、相手とのメールなどを残しておくと理想的です。

5)裁判時の証拠書類になる

相手とトラブルになってしまい、しかも当事者で解決できない場合、裁判で争うことになります。その際、契約書は裁判において有力な証拠書類になり、契約書で合意していた内容やその妥当性が争点となります。

契約書に定めていれば何でも大丈夫というわけではありませんが、契約書は自社の主張の正当性を示す、とても重要な証拠書類となります。

契約書を作成することの効果が大きいと、お分かりいただけたと思います。ですから、

先代から続く長年の取引先やスピード重視で即決したい相手であっても、契約書を締結することが重要

になります。

4 契約を締結できる人、できない人

1)法人と契約をする場合

法人と契約を締結する場合、誰でも契約ができるわけではなく、ふさわしい権限を有していなければなりません。具体的には次の通りです。

(図表1)【法人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
代表者 法人の代表者は法人を代表する法的権限を有しているので、契約を締結することができる。株式会社の場合、代表取締役が代表者であるのが一般的。 法人によって代表者の肩書はさまざまなので、法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
支配人 支配人とは、会社から本店または支店の主任者として選任された商業使用人のこと。商法において、その営業に関して会社を代表して契約を締結する権限が与えられているので、契約を締結することができる。 ホテルやレストランなどの責任者を「支配人」と呼ぶことがあるが、商法上の支配人とは必ずしも同じではない。法的な権限があるかについては、登記事項証明書で確認する。
事業責任者 代表権はないため、実際の権限を確認する必要がある。実際に、その契約内容の範囲において事業に関する権限を有していれば契約を締結できる(実際は契約を締結する権限がなく、相手方がそのことを知っていた、または知らないということにつき重大な過失がある場合は除く)。 事業責任者の権限は登記事項証明書では確認できないため、相手に確認する必要がある。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

2)個人と契約をする場合

個人と契約を締結する場合、誰でも契約ができるわけではなく、ふさわしい権限を有していなければなりません。具体的には次の通りです。

(図表2)【個人と契約をする場合に、契約を締結できる人】

相手の状況 法的な問題点 ポイント
未成年 結婚している場合などの例外を除き、法定代理人(親権者や未成年後見人)の同意を得ていない場合は、法定代理人や未成年者本人に契約を取り消される恐れあり。
親権者などその未成年者に代わって契約を締結できる人(法定代理人)などと契約を締結するか、法定代理人などの同意(親権者が婚姻中の場合は父母両方の同意)が必要。
本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
契約を取り消されると、遡って契約はなかったものとなる。
成年被後見人 成年後見人や成年被後見人本人から契約を取り消される恐れあり(成年被後見人は、成年後見人の同意を得ていても、自ら有効な契約を締結できないため、事前に成年後見人の同意を得ていたとしても、成年後見人から契約を取消されるおそれあり。)。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は取消不可。
被保佐人 不動産売買などの重要な契約について、保佐人の同意なく契約した場合は、保佐人や被保佐人本人から契約を取り消される恐れあり。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
保佐人の同意が必要な行為は、民法13条第1項で列挙されている。例えば、預貯金の払い戻し、お金の貸し借り、不動産の売却や賃貸借契約の締結などがある。
被補助人 不動産売買などの重要な契約を、家庭裁判所が「補助人の同意が必要な重要な行為」と定めた場合、補助人の同意なく契約した場合は、補助人や被補助人本人から契約を取り消される恐れあり。 本人確認として、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認する。
補助人の同意が必要な行為は、家庭裁判所が定めたもののみ。

(出所:弁護士監修のもと、日本情報マート作成)

3)契約当事者に代わって契約を締結できる代理人

代理人は、契約当事者に代わって契約を締結できる人で、「法定代理人」と「任意代理人」がいます。

法定代理人とは、法律によって代理権があることが定められた人です。一方、任意代理人とは、法定代理人以外の代理人で、契約当事者から権限の委任を受けた人です。

任意代理人と契約を締結するときは、「一定の代理権はあるが、実は契約締結については代理権の範囲外だった(代理権がなかった)」ということがないように注意しましょう。こうしたリスクを避けるためには、できるだけ契約当事者と手続きをする必要があります。

また、どうしても任意代理人と手続きをしなければならない場合は、

  • 委任状に記載する委任事項について、「○○との間で締結する『売買契約』に係る一切の権限」といったように、代理権を有する範囲を厳格に定める
  • 不明な点はすぐに契約当事者に確認する

などの対応をしましょう。

いかがだったでしょうか? 契約は非常に身近な法律行為なので、プライベートではいちいち契約書を作成しないことが多い一方、ビジネスでは契約書を作成することが基本となっている理由をご理解いただけたと思います。

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以上

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年3月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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