【再監修】契約書で押さえておくべき構成や用語/「条・項・号」の違い、「又はと若しくは」の使い分け
契約書には決まった作り方があるわけではありません。しかし、基本的な構成はおおむね共通しているため、基本的な形について押さえておくとよいでしょう。
書き方も自由ですが、基本的には法律用語を使ったり、一定の慣例やルールに従った書き方をしたりします。契約書に書かれている法律用語などは、普段は耳慣れないものや微妙なニュアンスの違いなどがあるため、正確にその内容を理解しておきましょう。
1 共通している部分が多い「契約書の基本的な構成」
契約書の基本的な構成はおおむね共通していて、「タイトル」「前文」「本文(一般条項・主要条項)」「後文」「契約書締結日」「署名(記名押印)」となります。以下で整理してみましょう。
1)タイトル
タイトルとは、「売買契約書」などの表題です。タイトルは、契約の法的効力への影響はなく、自由に付けることができます。ただし、実務上は、契約内容が一目で分かるようなものにします。
2)前文
前文とは、「○○(以下「甲」という)と、□□(以下「乙」という)は、△△について次の通り契約を締結する」といった文言です。契約当事者は誰なのか、契約の目的は何であるのかなどを明らかにします。
3)本文
本文は一般条項と主要条項に大別されます。契約書に記載する順番は、言葉の定義など、以降の内容に関わってくる条項や、基本的なもの(売買契約であれば、甲が乙に◆◆を販売するなど)から記載していくのが一般的です。また、一般条項の一部については、契約書の後ろのほうにまとめて記載することが多くなります。
1.一般条項
契約内容にかかわらず、共通して定められることの多い条項です。「解除条項」「損害賠償条項」などがあります。
2.主要条項
一般条項以外の条項です。個々の契約書で大きな違いが生じます。
4)後文
後文とは、「上記合意成立の証しとして、本契約書2通を作成し、甲乙各々署名捺印の上、甲乙各1通を保有する」といった文言です。契約書原本の作成通数、保有する者などを定めます。
5)契約締結日
いつ契約を締結したかが分かるように、契約締結日を記載します。契約書に特別な定めをしていなければ、当該日付が契約の効力発生日と推定されます。なお、本来的にはこのようなことは望ましくありませんが、交渉や手続きの遅れなどからバックデート(日付の遡及)をせざるを得ないことがあります。この場合、契約書に特別な定めをしていなければ、過去に遡って契約に基づく履行義務が生じることになるため注意が必要です。
6)署名(記名押印)
契約当事者による署名または記名押印です。契約当事者(または、その代理人)の署名または記名押印がある契約書は、契約当事者の意思に基づいて成立したものであると推定されます。日本においては、実務上、署名だけではなく、併せて印鑑も押すのが通常です(署名捺印)。
なお、最近は、紙での契約ではなく、署名者のEメールアドレスやIPアドレスで本人性を確認する電子契約システムを使用した契約締結方式も多くなっています。このシステムを利用する場合、署名や記名押印もすべて電子で行われます(この点については、【再監修】図解 印鑑の意義、契約書への印鑑の押し方、印紙の貼り方で詳しく説明します)。
2 条・項・号の違い
1)条・項・号で箇所を特定
契約書の内容を確認する際は、「第○条第○項第○号で定めてあります」「第○条の前段と第○条の但書は矛盾していませんか?」といったように、該当箇所を特定して協議をします。
しかし、条・項・号、柱書(はしらがき)、但書、前段、後段の違いを正確に理解していないと、契約内容の確認などの際に契約当事者間で認識に相違が生じるおそれがあるので、以下で基本的な構造などを整理してみましょう。
2)基本的な構造
1.条・項・号
基本的な構造は条・項・号となります。項は条を細かくしたもの、号は項を細かくしたものです。条の内容が比較的シンプルで、条件などを列挙する場合は、項を飛ばして号が定められることもあります。
なお、契約書によっては条の数が多くなり、内容が分かりにくくなるケースがあります。このような場合は、条の上位の階層に「章」を置いて整理します。
2.項と号の番号に注意
項と号には「1」「(1)」「一」などの番号を付けます。項と号の番号の付け方が同じだと紛らわしくなるので使い分けましょう。
第1項には「1」「(1)」「一」の項番号を付けず、第2項から「2」「(2)」「二」などと付け始めるのが基本です。契約書のひな型などを見ると、第1項から項番号を表示しているものが少なくありませんが、これは分かりやすく表記しているためです。
また、書き方として、号は体言止めにするのが基本です。
3)柱書
柱書とは、条項の中に、号によって項目が箇条書きにされている場合、その号を除いた部分を指します。
4)但書
但書とは、文字通り「但し」という記述から始まり、前文や本文に補足などを加えている部分を指します。
5)前段、後段
前段とは、条項の文章が句点で2つの文に分かれている場合の前半の文、後段とは同じく後半の文を指します。しかし、後半の文が「但し」で始まる場合は、後段ではなく但書と呼びます。
ちなみに、条項の文章が3つの文に分かれている場合、真ん中の文を中段と呼びます。
第1条(条・項・号など基本的な構造)
これが第1条第1項である。但し、第1項には項番号を付けないのが基本であり、この文は但書である。
2 これが第1条第2項の前段である。これが第1条第2項の後段であり、ここまでを柱書という。
一 これが第1条第2項第1号。
二 これが第1条第2項第2号。
3 契約書でよく見かける言葉の使い方
1)正しい使い分けは意外と難しい?
契約書の作成や確認の際に困るのは、契約書でよく見かける独特の表現です。例えば、「又は」と「若しくは」はどのように使い分ければよいのか、「直ちに」と「速やかに」にはどのような違いがあるのかといったことで、迷ったことはないでしょうか。
ここでは、契約書でよく見かける表現であるものの、使い方や解釈に迷ってしまう契約書独特の表現について整理してみましょう。
2)契約書でよく使われる接続詞
1.「又は」と「若しくは」
「又は」と「若しくは」は、いずれも「or」を意味する接続詞です。接続する内容が同一グループの場合、最後だけ「又は」を使います。
例)リンゴ又はバナナ
例)リンゴ、バナナ又はイチゴ
以上は全て「果物」という同一グループ内の接続ですが、ここにタコという「魚介」のグループが加わったらどうでしょうか。
大きなグループ(果物と魚介)と小さなグループ(果物グループの中のリンゴとバナナなど)がある場合は、大きなグループは「又は」、小さなグループは「若しくは」でつなげます。
例)リンゴ若しくはバナナ又はタコ
例)リンゴ、バナナ若しくはイチゴ又はタコ
2.「及び」と「並びに」
「及び」と「並びに」は、いずれも「and」を意味する接続詞で、基本的な使い方は「又は」と「若しくは」と同じです。接続する内容が同一グループの場合、最後だけ「及び」を使います。
例)リンゴ及びバナナ
例)リンゴ、バナナ及びイチゴ
また、大きなグループ(果物と魚介)と小さなグループ(果物グループの中のリンゴとバナナなど)がある場合は、大きなグループは「並びに」、小さなグループは「及び」でつなげます。
例)リンゴ及びバナナ並びにタコ
例)リンゴ、バナナ及びイチゴ並びにタコ
3)ややこしい表現を正しく理解する
1.することができる、するものとする、しなければならない
契約書にありがちな文末の表現には、次のような意味があります。
- することができる:するか否かを選択できる
- するものとする:することが義務である
- しなければならない:することが義務である
「するものとする」という表現には、「しなければならない」ほどの言い回しの強さはありませんが、意味は同一と考えてよく、義務であることに変わりありません。
2.推定する、みなす
「推定する」と「みなす」には、次のような意味があります。
- 推定する:反証を許す
- みなす:反証を許さない
「推定する」ことと「みなす」ことの違いは、反証があるときの考え方です。例えば、「冬に収穫した赤い果物はリンゴと推定する」場合は、冬に収穫された果物が実はイチゴであるという明確な証拠があれば覆る可能性があります。しかし、「冬に収穫した赤い果物はリンゴとみなす」場合は、事実とは関係なく、冬に収穫された赤い果物をリンゴと捉えるため、たとえ赤い果物がイチゴであったとしても、それはリンゴとして取り扱うことになります。
3.直ちに、速やかに、遅滞なく
スピードを示す表現には、次のような意味があります。
- 直ちに:一切の間を置かず、即時に
- 速やかに:できるだけ早く
- 遅滞なく:事情が許す限り、最も早く
スピードの順に表すと「直ちに > 速やかに > 遅滞なく」となりますが、ニュアンスの違いといえ、いずれも「○日以内」といった具体的な基準にはなりません。そのため、契約書には必要に応じて「3営業日以内」などと定めたほうがよいでしょう。
4.その他、その他の
「その他」「その他の」には、次のような意味があります。
- その他:並列関係 例)リンゴ、バナナ、イチゴその他果物
- その他の:包含関係 例)リンゴ、タコその他の食材
「その他」は並列なので、果物は全て横に並ぶイメージです。一方、「その他の」は包含関係なので、食材という大きな概念の中にリンゴ、タコが含まれているイメージです。
5.時、とき
「時」「とき」には、次のような意味があります。
- 時:時点を指す
- とき:仮定的条件を指す
例えば、「契約締結の時」とあれば、契約を締結した時点となります。また、「疑義が生じたとき」とあれば、疑義が生じた場合となります。「とき」については、「場合」と読み替えてほぼ問題ありませんが、仮定的条件が2つ以上重なる場合は、大きい条件に「場合」を使い、小さい条件に「とき」を使います。具体的には次の通りです。
第○条
次の各号に該当する場合は、速やかに相手方に報告するものとする。
一 相手方に不利益を与えるおそれがあるとき。
二 ……。
あわせて読む
契約書作成・チェックのポイント
- 第1回 【再監修】契約書の基礎知識
- 第2回 【再監修】契約書で押さえておくべき構成や用語/「条・項・号」の違い、「又はと若しくは」の使い分け
- 第3回 【再監修】図解 印鑑の意義、契約書への印鑑の押し方、印紙の貼り方
- 第4回 【再監修】契約書のチェック。基本構成から「解除条項」「損害賠償条項」まで
- 第5回 【再監修】「知的財産(権)に関する条項」「期限の利益喪失条項」「反社会的勢力排除条項」のチェックポイント
- 第6回 【再監修】契約の変更、解約、契約解除の流れとトラブル時の対応
- 第7回 【再監修】総まとめ 契約実務で押さえておくべき3つのポイント
以上
(監修 竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔)
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