世界中を震撼させる新型コロナウイルスの影響によって、日本の採用市場も大混乱に陥っています。もっとも影響が大きいのは、これからピークを迎えていく新卒の就活シーンです。

骨太で実践的な採用戦略を提供する本連載では、前回、採用戦略策定の第一歩ともいうべき「採用ブランディング」の重要性について解説させていただきました。連載第3回目の本稿はその後編として採用ブランディングの具体的ノウハウについて述べるつもりでした。
しかしながら、昨今の状況を鑑み内容を変更し、新型コロナウイルスへの対応策となりうる【オンライン採用手法】についてお届けいたします。

1 説明会も面接もヤバイ

政府は2月26日、新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、大規模なスポーツや文化イベントなどについて、今後2週間程度、中止か延期、または規模を縮小するよう要請する公式見解を示しました。呼応するように、大物ミュージシャンのコンサート中止の報が飛び交うなど、たくさんの人が集うイベントの中止が相次いでいます。

例年2月後半から3月にかけては、新卒向けの大規模な合同企業説明会が開催されます。これらの就活イベントは総じて中止となり、さらには企業が個別に主催する会社説明会も続々と中止が決定されています。

また、今後の選考プロセスも不透明感でいっぱいです。感染拡大のリスクが高い行為として、「対面での人と人との距離が近い接触(手を伸ばしたら届く距離)」「会話などが一定時間以上続き、多くの人と交わされる環境」が挙げられていますから、「対面での採用面接」はかなり危険度が高いシチュエーションと言わざるをえません。

2 WEBシューカツ推進委員会

とはいえ、今年度は東京オリンピック開催年でもあり、就活のスケジュールを変更するのが容易でないことも事実です。そういった状況下で、急速に企業の間で広まっているのがオンライン(=WEB)を活用した採用です。
HRテックといわれるサービスの一角として、昨今台頭してきたオンラインでの説明会やWEB面接などに切り替える企業が急増しているのです。

こうした企業側の対応だけでなく、無償でのサービス提供に踏み切るHRテック企業の動きもあります。中には「企業の責任として、少しでも就活生の不安を軽減させたいと考え、Webシューカツ推進委員会を発足します」というテック企業連合も登場しています。

3 水面下で広がっていた非対面採用

オンラインでの企業説明会は、一般的にウェビナー(Webinar)と呼ばれています。ウェビナーは “ウェブ(Web)” と “セミナー(Seminar)” を合わせた言葉で、その名のとおり動画を使ったセミナーをインターネット上で実施することをいいます。一方的に情報を伝えるだけではなく、昨今では音声通話やチャットを活用して質問もできるようになっています。

また、WEB面接とは、Skypeなどのインターネットを介して行われる面接全般のことを指します。WEBカメラを通してリアルタイムに行われるライブ式と、撮影した動画を専用のプラットフォームに投稿する動画投稿形式の2つがあり、各企業が自社の採用戦略に合わせて使い分けています。

実は、こうしたオンラインを駆使した動画面接サービスは数年前からありました。人材サービス大手のマイナビが実施した調査によると、WEB面接を経験した就活生は、2019年卒では11.5%、2020年卒では20.2%。この1年で倍増するくらい注目は高まっていました。
日程が合わなかったり、地方在住で面接に来るのが大変だったり、“今まで会えなかった就活生”とオンラインでなら出会えるというメリットもあり、徐々に広まっていたのです。

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4 やっぱりリアルには勝てない?

そうした側面がありつつも一気にブレイクしていかないのは、やはり「非対面」であることに対する懸念が拭いきれないからです。特に、商社や飲食・小売りといった対面を重視する業界では、採用プロセスのオンライン化が進んでいない傾向にあります。
我々、ツナグ働き方研究所の取材でも「やっぱり実際に会ってみないと人物の見極めができないのでは?」という採用担当者が多く存在しました。

学生側の受け止め方も、実はまだ抵抗感のほうが強いようです。ある就活サービス大手の調査では、「採用プロセスのWEB化を望むか」という質問で、会社説明会については約50%が「望む」と回答。「望まない」の約20%を抑え、WEB化歓迎の傾向ですが、面接は「WEB化を望まない」が過半数という結果に。選考というプロセスにおいては、企業と同様にリアルな対面でのシチュエーションを望む傾向が強いようです。

5 緊張というハードルを下げる効果も

端末の準備や場所の設定などWEB面接に臨む環境面で不安があるという声もあります。しかし今の就活生は、そもそもデジタルネイティブ世代。日常ではYouTubeなど動画サイトを中心に情報収集や発信をしています。一度経験することで、オンラインならではのメリットを体感する学生もいます。
WEB面接を経験したある学生に取材したところ「リアルな面接の場だとガチガチに緊張してしまうけど、オンラインの動画だとあまり緊張せずにすんだ。ちゃんと自分を出せて納得のいく面接ができました」と話してくれました。
リアルコミュニケーションに委縮しがちな彼らにとって、WEB面接のほうが、自然体で臨むことができ、本来の自分をアピールできるというのは一理あります。

かくいう私も、参加予定だったセミナーがZoomというWEB会議システムで開催されることに急遽変更され、先日オンラインでのセミナー受講を初体験しました。もちろんリアルな場での臨場感には及びませんが、講師や他の受講者とのコミュニケーションは思ったよりスムーズでした。チャットだと人目を気にせずにすむので、むしろ質問をしやすいなど、先述の学生の気持ちがよく分かりました。

確かに、面接官が候補者の緊張をほぐすのは、面接における重要命題です。面接官研修などでは、「選考のための質問スキル(情報収集力)」「自社を魅力づけるプレゼンスキル(情報伝達力)」と同じくらいのウエイトで「候補者の緊張をほぐす場づくりスキル(信頼関係構築力)」についてのレクチャーが行われます。このことからも、緊張のあまり実力が発揮できない学生たちの「素」をチェックすることが、どれほど重要かが分かります。

6 デジタルアレルギーを乗り越えるチャンス

加えて言うと、今まで面接官が面接の役割自体が低下しているという向きもあるのです。
リアル面接の神話が崩れてくるとなると、オンライン化を阻む最後の壁は、企業側のデジタルサービスへのアレルギーだけになってきます。

デジタル音痴の私がまさにそうです。先述の受講セミナーがオンライン開催に変更されると聞いたとき、正直気が進みませんでした。どうやってシステムにログインすればいいのか、音声はどうすれば聞こえるのか、などなど考えると憂鬱な気持ちになりました。
しかし経験してみると、非対面への懸念はかなり払拭され、デジタルへの距離感も一気に縮まりました。

時に人と企業との「結婚」にも例えられる就職活動。新型コロナウイルス感染という非常事態を機に、消極的な選択としてWEB面接を利用することになった企業も、その体験によって、今後は積極的な選択としての利用に変化していくケースが多々あるはずです。そういった意味において、2020年は「面接の常識が変わった年」と、歴史に刻まれることになるかもしれません。
いま検討中の企業、それでも対面がいいと考えている企業、さまざまだとは思います。今回の危機を採用革新の好機と捉え、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。

次回こそは、採用ブランディングの実践編をお届けいたします。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年3月11日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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提供
執筆:平賀充記(ひらがあつのり)
株式会社ツナグ・ソリューションズ取締役 兼 ツナグ働き方研究所所長。1988年(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「タウンワーク」「はたらいく」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年(株)リクルートジョブズ・メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、いまに至る。
著書に『非正規って言うな!』『サービス業の正しい働き方改革・アルバイトが辞めない職場の作り方』(クロスメディアマーケティング)、『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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