日本の労働市場は世界的な新型コロナウイルスの蔓延によって、空前の売り手市場から一転。新卒採用では内定を取り消す動きがでるなど、見通しが不透明な状況となっています。採用に関して、「今はリスクを取りたくない」というのが切実な思いでしょう。そのようなときに効果を発揮するのが、長期的な取り組みこそ必要なものの、低コストでミスマッチの少ない優秀な人材を採用できるリファラル採用です。

リファラル採用とは、社員が知人や友人を会社に紹介する採用手法です。米国では、85%の企業が何らかのリファラル制度を導入しているといわれています(注)。
リファラル採用には、採用コストの削減や人材の定着、早期戦力化など多くのメリットがあります。日本でもLINEやメルカリ、サイバーエージェントなどのIT企業を中心に、積極的にリファラル採用に取り組んでいますが、慢性的な人手不足で採用難が続いていた近年では、IT業界以外にも裾野が広がってきています。また、雇用形態についても、正社員にとどまらず、アルバイトやパートの採用にも活用されるようになってきています。

(注: CareerXroads,Brown Bag Lunch Webinar REFERRAL Practices,2012 年)

1 リファラル採用のメリット

1)採用コストの削減につながる

有効求人倍率が1倍を上回る状況が続く昨今は、広告費を支払って求人サイトに掲載しても、応募が来ないことも珍しくはありませんでした。
 また、人材紹介であれば採用候補者の見込み年収の35%程度の紹介料がかかるため、優秀な人材を採用するためには、高額な紹介料を支払う必要があります。その点、リファラル採用は社員からの紹介のため、こうした費用を抑えることができ、その分を紹介してくれた社員へのインセンティブとして還元することができます。

2)定着率が高く自社にマッチした人材が採用できる

採用候補者は、実際に勤めている友人(社員)から会社の人間関係や業務内容についてのリアルな声を聞くことができます。そのため、「入ってみたらイメージと違った」といった入社後のミスマッチが起こりにくく、早期離職を防ぐことができます。また、採用候補者のスキルや価値観をよく知っている社員からの紹介であるため、即戦力としてすぐに活躍してくれる人材を、適切なポジションで採用できる可能性が高まります。

3)転職市場「外」の人材を採用できる

社員からの紹介には転職潜在層(今すぐに転職したいとは考えていない人材)も採用候補者として挙がってきます。つまり、求人サイトや人材紹介では出会えない、優秀な人材にもアプローチできる可能性があるのです。今すぐに転職する意欲がない人材でも定期的に接触し、自社の魅力を伝えておけば、将来的に転職を考えたタイミングで、自社の選考に進んでもらえるチャンスもあります。

2 リファラル採用のデメリット

1)友人が不採用になった場合、トラブルになることも

特に多くの方が気にされるのが、この点ではないでしょうか。リファラル採用はコネ採用とは違い、採用・入社が約束されている採用手法ではありません。通常の選考フローと同様に進んでいくため、選考中に不採用になってしまうこともあります。採用候補者の中には、社員からの推薦・紹介のため、「採用前提」と思って応募し、紹介者である友人(社員)とトラブルになってしまうことも。こうならないためにも、リファラル採用は通常の選考と変わらない旨を、人事から社員へきちんと伝えておくことが重要です。

2)採用までに時間がかかる

「今すぐに転職をしたい」とは考えていない転職潜在層にアプローチできるのがリファラル採用のメリットですが、その分、採用までに1~2年かかるケースも珍しくありません。「急に空きが出てしまったポジションをすぐに埋めたい!」という場合には、不向きかもしれません。

3)人材の同質化が起きやすい

リファラル採用は基本的に社員の仲の良い友人など、価値観の合う人材を紹介するケースが多いため、似たような人材が集まり、会社のカルチャーが偏ってしまう恐れがあります。全ての採用をリファラル採用だけでカバーしようとせずに、さまざまな採用チャネルと組み合わせましょう

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3 リファラル採用を成功させる6つのポイント

リファラル採用を成功させるには、どんなことに注意すればよいのでしょうか。リファラル採用の失敗を例に、6つのポイントをご紹介します。

1)社内横断的なプロジェクトチームで推進する

リファラル採用は、経営者や人事だけが頑張っても思うような成果は上がりません。他の採用手法と違い、なるべく多くの現場の社員に協力してもらう必要があります。そのため、経営者や人事だけで推進しようとするのではなく、各部門のリーダー層や若手社員などのプロジェクトチームを発足させ、社内横断的に推進していくのがお勧めです。

2)まずはエンゲージメントの高い社員に紹介を依頼する

リファラル採用には多くの現場の社員の協力が必要ですが、だからといって初めから全社員を動かそうとしてもうまくいきません。会社には、エンゲージメントが高く協力的な社員ばかりが在籍しているわけではないからです。まずは社内アンケートなどで事前調査を行い、エンゲージメントの高い社員に絞って少数で始めていき、成功事例を積み重ねていくことで理解者を増やしていきましょう

3)社員にとっての「紹介」のハードルを下げる

「リファラル採用を始めたけれど、社員からの紹介が挙がってこない」。こんな話をよく聞きますが、社員にリファラル採用の制度内容や意義をきちんと伝えられていますか? 「紹介=選考」と捉えられてしまうと、「いきなり友人を選考に呼ぶのは気が引ける」と、協力したくても躊躇(ちゅうちょ)してしまうケースもあります。
協力を求める社員には、紹介自体はあくまで会社を知ってもらうきっかけにすぎない、ということを理解してもらいましょう。紹介したい友人との飲食費を負担する会食制度を設けたり、社内に気軽に友人を呼べるピザパーティーなどのイベントを開催したりして、「紹介」のハードルを下げましょう。

4)紹介したい人材の具体的なイメージを共有する

社員から紹介が挙がってこない主な理由に、「具体的にどんな人を紹介すればいいのか分からない」「紹介の対象が『転職を考えている友人』に限定されてしまっている」ことなどがあります。このような場合は、社内でメモリーパレスというワークショップを開催してみましょう。メモリーパレスでは、社員に対して「前職で尊敬していた営業職の先輩は誰ですか?」といった質問をしてみます。このような過程で、会社が採用したい人物のイメージと、社員の間で「こんな人と一緒に働きたい」「こんな人に会社に入ってもらいたい」という具体的なイメージが共有できます。そうすることで、社員が持っている人脈の掘り起こしにつながるとともに、紹介段階のミスマッチ(後述)を減らせる可能性が高まります。

5)友人を紹介したいと思われる魅力的な職場を作る

そもそもあなたの会社は、社員が友人を紹介したいと思える魅力的な職場でしょうか? 違法な長時間労働やパワハラは論外ですが、そうでなくても社員が職場環境や待遇に不満を感じていれば、当然大切な友人を紹介したいとは思いません。人事がきちんとリファラル採用に取り組んでいるにもかかわらず、社員からの紹介が挙がってこない場合は、社員の声に耳を傾けて、魅力的な職場作りに努めましょう。

6)定期的に社内の周知を図る

当初はうまくいっていたリファラル採用も、時間がたつと忘れ去られ、紹介がぱたりと止まってしまうことも。リファラル採用を社内文化として根付かせるためには、定期的な周知が不可欠です。人事だけでなく、トップや経営層からリファラル採用の重要性を発信してもらうことも有効でしょう。

4 リファラル採用に関する疑問あれこれ

1)採用候補者が不採用に。こんなときどうする?

せっかく紹介してくれた採用候補者が不採用になってしまった場合、紹介者である社員と友人(採用候補者)が気まずい関係になり、今後社員がリファラル採用に協力してくれなくなることも。

そんな最悪な事態を回避するためにも、まずは紹介段階のミスマッチを減らすことが大切です。採用したい人物像を「〇〇部長の下で新規プロジェクトを推進できる人」「○○業界で営業していた人」など、社員がイメージしやすい具体的な言葉で共有することで、紹介段階のミスマッチを防ぎましょう。

また、採用候補者をカジュアル面談や社内イベントに呼んで、選考前に見極めることも重要です。その時点で選考を通過するのが難しいと思った場合には、紹介者である社員にその旨を伝えておきましょう。
選考過程に進んだ友人(採用候補者)が不採用になってしまったときには、必ず紹介者である社員に不採用の理由を説明しましょう。そうすることで、会社への信頼度が高まり、「もうリファラル採用に協力しない」と思う社員を減らすことができます。

2)紹介者である社員が退職してしまった場合のケアは?

紹介者である社員が何かしらの理由で退職してしまった場合、その社員の紹介で入社した友人のモチベーションが下がり、最悪の場合、一緒に辞めてしまうことも。特に、友人が入社して間もなく紹介者である社員が辞めてしまった場合には、人事だけでなく部門全体でケアするようにしましょう。

3)紹介インセンティブの設定、金額はどうしてる?

リフカムが行った調査では、リファラル採用に取り組んでいる会社のうち、95%が紹介社員への紹介インセンティブを導入していました。また、紹介インセンティブの金額については、10万円以上に設定している会社が42%にも上ります。

インセンティブの金額のアンケート結果を示した画像です

(出所:リファラル採用の取り組みに関する実態アンケート調査結果(2019年3月))

こうしてみると、金額が高いほど効果があるのでは? と思われるかもしれませんが、社員からは「お金目的で友人を紹介したと思われるのが嫌」「インセンティブ額が高いと、プレッシャーがかかる」といった声が聞かれました。

実際に、紹介数を増やすために紹介インセンティブ額を倍に引き上げた企業がありましたが、結果的には紹介数に変化はなかったようです。紹介インセンティブはあくまで「すてきな仲間を集めてきてくれたことに対する”感謝の気持ち”」であり、金額はそれほど重要ではないようです。

リファラル採用は取り組み始めてすぐに結果が出る手法ではないため、根気強く取り組むことが大切です。また、リファラル採用を取り入れることで、今の職場環境を見直す良いきっかけになるかもしれません。昨今の状況下においては、オンライン面談や動画ツールなどをうまく活用しながらリファラル採用を進めていくことをお勧めします。
時間がかかる取り組みだからこそ、今すぐ始めて将来の準備をしておきましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年4月15日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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提供
執筆:安部紗乙莉(あべさおり) 株式会社リフカム 広報
株式会社カカクコムにて、メディアマーケティング、関西支店の立ち上げを経て、広報部門で、メディアリレーションや、インナーコミュニケーション、コーポレートブランディングに従事。
2019年株式会社リフカムに入社。広報責任者として社外へ「リファラル採用」 に関する情報発信を企画・活性化。オウンドメディアの企画運営も行う。

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