世界中を震撼させる新型コロナウイルスの蔓延によって、日本の労働市場は大混乱に陥っています。空前の人手不足から一転、内定取り消し報道が相次ぐなど採用環境も激変。今後の見通しも不透明な状況です。
しかし不況による厳選採用時代が到来したとしても、確実に超売り手の環境が継続するであろう採用市場があります。それがエンジニアの世界です。
ますます争奪戦が過熱するITエンジニア採用について2回にわたって解説していきます。この記事では、まずエンジニア採用の実情を把握しその課題について整理してみましょう。

1 そもそもエンジニアの数が圧倒的に足りない

「エンジニア」とは、広くは技師や技術職のことを指しますが、ここでいうエンジニアは、プログラマーやシステムエンジニア、ネットワークエンジニアなど、一般的に「ITエンジニア」と言われる職域を指します。
ITエンジニアの需要は、年々高まりをみせています。doda転職求人倍率レポート(2020年2月)によると職種別の有効求人倍率において、技術系(IT・通信)職種=ITエンジニアが8.69倍。他職種と比較しても群を抜いて高い倍率になっています。技術系(電気・機械)職種=ものづくりエンジニアの5.54倍と比較すると、いかにITエンジニアの需要が大きいか分かります。

こうしたITエンジニアの不足は、さらに顕著になっていきます。経済産業省の調査によると、2018年時点でIT人材は約22万人不足。これが2030年になると、約44.9万人(IT需要の伸びが中位)、多ければ約78.7万人(IT需要の伸びが高位)にも膨れ上がると予測されているのです。

2 GAFAが優秀なエンジニアをさらっていく

「人々が私たちを頼りにしている」。アマゾン・ドット・コムのCEOジェフ・べゾス氏は、こう従業員にメッセージを送ったとのこと。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため外出自粛が進む中、必要なものを手に入れる手段としてネット通販の利用が跳ね上がりました。さらには、店舗でもレジなしで決済できるテクノロジーの外販を打ち出しています。人との接触を避けて買い物ができるので、小売業界での導入が進みそうです。

この動き自体、コロナ対策として歓迎されるものですが、実はエンジニア採用にも影響を与えると考えられます。ただでさえGAFAと言われるアメリカのIT大手4社の人気はすさまじいものがあります。その一角をなすアマゾンがこうした社会貢献的かつ先駆的な動きをとったわけですから、魅力を感じるエンジニアもいるはずです。

GAFAに限らず、巨大なIT企業や有名テック企業が優秀なエンジニアを厚待遇で囲い込む。逆に中小企業においては、エンジニアからの応募を集めることさえもままならない。このように、人材獲得において極めて市場原理が働きやすいのが、エンジニア採用市場の特徴なのです。

3 エンジニア争奪戦の第2幕

しかもこれからは、本格的に第4次産業革命が進みます。情報システムの高度化やAI(人工知能)・IoTなどを活用した新サービスが普及していきます。デジタルを生業にしていない企業であっても、社内情報システムを開発するエンジニアやビッグデータ活用の基盤を整えるエンジニアが必要になります。その構築を担うエンジニアの需要が今後さらに高まっていくことは、言うまでもありません。

総合商社が配送の効率化や需要予測、タクシー会社が配車アプリの開発といった、デジタル事業の強化を目的に子会社を設立する動きがあります。
このような動きは、あらゆる業種の企業がエンジニア争奪戦に加わってくることを意味します。先述のようなGAFAに代表される巨大IT企業の囲い込みが第1幕だとすると、あらゆる業種の企業がエンジニア採用に加わってくることで、激しいエンジニア争奪戦の第2幕が明けたといえます。

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4 ミスマッチという根深い課題

エンジニア採用が難しいのは、数が足りないという問題だけではありません。いくつかの要因から発生する構造的ミスマッチの問題もあるのです。
せっかく採用できたものの、求めるスキルや経験を持ちあわせていなかったという残念なケースは少なくありません。採用担当者の多くは人事系のキャリアを歩んできており、エンジニアとしての経験を持っていることは多くありません。そのため、現場が求める人材と採用担当者が選考を進める人材とのミスマッチが発生しがちなのです。

条件のミスマッチもあります。候補者の求める条件が自社の採用条件に該当せず、内定承諾に至らないというケースです。「超」がつく売り手市場であるにもかかわらず、決裁する上層部がエンジニアの貴重さを理解していないと、高い待遇を認めないこともあるのです。当然ながら優秀なエンジニアの需要は大きく、多くの企業が内定を出します。その中から自社を選んでもらうには、他社に勝る魅力が必要です。

5 エンジニアの気質とズレている

他社に勝る魅力ということでいえば、ある企業では、要となる最高技術責任者(CTO)はネット系スタートアップから迎えいれ、エンジニア採用においては、そのCTOが陣頭指揮を執りました。求めるスキルを明示し、年齢不問で採用する。給与は能力主義として、働き方の自由度を高めたのです。
こういう採用ができれば、ミスマッチはおろか、優秀な人材の獲得につながることは言うまでもありません。しかしできていない企業があまりにも多いように感じます。

その背景にあるのは、デジタル世界に生きるエンジニアの気質と日本に根付く企業文化のズレです。エンジニアを総合職として採用し、最初の1年は営業を経験してもらうといったジョブローテーション。最新の開発ツールを導入しようとしても、あまりに手間と時間のかかる承認プロセス。エンジニアがやる気を失っていく要素が満載なのです。
経営が自ら目指すデジタル戦略を示し、エンジニアが力を発揮できる環境を整備する。それができなければ、採用市場にいるエンジニアからの求心力は獲得できません。

6 実態を把握し、エンジニア採用を変えていく

エンジニア採用が難しいとされる理由を、改めてまとめてみます。

  • 社会のデジタルシフトにともなうエンジニア自体の不足
  • GAFAをはじめとした一部の人気企業による人材の囲い込み
  • 人事が応募者の技術やスキルを見極められず、現場配属後に露見するミスマッチグ
  • 上層部の無知などによるエンジニアの気質にそぐわないリクルーティング

こうした実態をしっかり把握することで、エンジニア採用に対する意識を大きく変えていく必要があります。
次回は、エンジニア採用を成功させるノウハウとして、

  • エンジニアの性質をしっかり理解した上での「採用計画づくり」
  • エンジニア職の社員に関与してもらう「採用プロセス企画」
  • ダイレクト・リクルーティングやリファラル採用などの「最適な採用手法」

などについて、具体的に解説していきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年4月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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提供
執筆:平賀充記(ひらがあつのり)
株式会社ツナグ・ソリューションズ取締役 兼 ツナグ働き方研究所所長。1988年(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「タウンワーク」「はたらいく」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年(株)リクルートジョブズ・メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、いまに至る。
著書に『非正規って言うな!』『サービス業の正しい働き方改革・アルバイトが辞めない職場の作り方』(クロスメディアマーケティング)、『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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