世界中を震撼させる新型コロナウイルスの蔓延によって、日本の労働市場は大混乱に陥っています。空前の人手不足から一転、内定取り消し報道が相次ぐなど採用環境も激変。今後の見通しも不透明な状況です。
しかし不況による厳選採用時代が到来したとしても、確実に超売り手の環境が継続するであろう採用市場があります。それがエンジニアの世界です。
前回
に続き、ますます争奪戦が過熱するITエンジニア採用について、この記事では、具体的なノウハウを解説します。

1 エンジニアの価値観をしっかり理解する

特定の企業にとっては、エンジニアの獲得は死活問題です。しかしエンジニア自体の不足をはじめ、技術やスキルの見極めの難しさ、現場とのミスマッチなど、エンジニア採用にはさまざまな課題が存在するということについて、前回お伝えしました。
優秀な人材を獲得できれば、企業自体の大きな業績向上にもつながることが期待できます。そういった意味でも、前述の採用課題をどう乗り越えていくかが極めて重要な命題だといえます。

まず取り組むべきは、企業としてエンジニアの価値観をしっかり理解することです。彼らのキャリア観やワークスタイルにフィットした戦略設計こそが、採用で成果をあげるための第一歩となります。
例えば、「総合職として採用され、最初の1年は営業を経験する」といったような人事配置を好んで受け入れるエンジニアは稀です。エンジニアに共通する「性質」に関して、きちんと理解できていないと、このような運用をしてしまいがちです。これでは優秀な人材の確保は難しいでしょう。

2 技術力の向上と成長機会が原動力

エンジニアにとってもっとも関心があるのは、自分自身の持つ技術力や業務経験です。従って、転職時には他の職種と比べ、「技術力の向上が期待できるか」「成長機会が豊富に存在するか」といった内容を重視する傾向があります。
また「リモートワークが可能か」「フレックスなど時間の融通が利くか」「副業OKか」など、働きやすさについても求められるようになっています。新しい技術を勉強する時間が欲しいというエンジニアが増えているのです。

ひと昔前ならば、寝る時間を削ってでも一日も早くシステムリリースしなければならないという風潮がありました。今では残業を肯定するのではなく、残業せずに完了させるためにどうすればよいかなど、生産性を重視する傾向が高まっています。
趣味や資格などのプライベートのための時間をつくりながら、仕事にも集中して取り組みたいと考えるワークライフバランス派も多く、エンジニアが働きやすい環境づくりを推進していく企業努力がより一層求められるようになっています。

3 そもそも採用市場に現れにくい

エンジニアの価値観を理解することで、採用に関するベーシックなスタンスのようなものは見えてきたのではないでしょうか。では、どんな方法を用いてエンジニアを採用すればよいのでしょうか。考えうる採用手段のバリエーションについてご紹介しましょう。

    採用サイトへの掲載
    一般的な採用サイトに加え、エンジニアに特化した求人サイトも登場。こういう場に求人票や広告を掲載する

    人材紹介サービスの利用
    企業が求める人材を紹介してくれる「人材紹介サービス」を利用する。フィーは高価ながら、採用に至った場合のみ手数料を支払う成功報酬制をとるケースが一般的

    ダイレクト・リクルーティング
    企業が採用候補者一人ひとりにアプローチをかける採用方法。採用サイトの登録者に対するスカウトや、SNSで積極的に声をかけていくことを指す

    勉強会やミートアップへの参加
    最新の技術などについて情報共有や議論、交流を行うミートアップや、各種勉強会に出席し、エンジニアや学生と関係を構築する

    リファラル採用
    自社で働いている社員に候補者を紹介してもらう方法。転職市場に出てきづらい優秀な人材にアプローチできるメリットがある

一般的な採用手段といえば、求人サイトに広告を出すことですが、エンジニア採用では空振りに終わることが少なくありません。それは前提として、優秀なエンジニアは厚遇で囲い込まれていることが多く、顕在的な採用市場にはあまり出てきていないからです。エンジニアに特化した採用サイトや人材紹介サービスも出てきていますが、これらを活用しても流動性の低さを解決することは難しいかもしれません。

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4 潜在的な求職者にリーチする

だとするとエンジニア採用の基本戦略は、いかに潜在的な求職者にリーチして、その気になってもらうかということになります。その観点からお薦めできるのが「ダイレクト・リクルーティング」「ミートアップ」「リファラル採用」といった採用手法です。

ダイレクト・リクルーティングで重要なのは、誰に声をかけるのかということに尽きます。潜在的な求職者を狙うとすれば、ミートアップといわれるエンジニアが集う場が最も有効でしょう。成長意欲の高いエンジニアが多く参加していますし、またフランクな場でもあるので、いい人材との出会いが期待できます。こういうリアルイベントに参加し候補者リストをつくっていきます。
そのリストをタレントプールといわれるサービスを使ってデータベース化し、定期的にコミュニケーションをとるのです。その中で自社への興味を持ってくれるようになったエンジニアに対してオファーを出す。こういったやり方が最も旬な採用手法とされています。

リファラル採用は、自社のエンジニアからの紹介なので、ある程度のスキルレベルやカルチャーフィット感が期待できるという点で、極めて有効なリクルーティング手法ともいえます。しかも今はその気じゃない時点での推薦であった場合、先述の候補者データベース=タレントプールにリスト追加し、機が熟した時点でオファーを出せばよいのです。

5 自社のエンジニアを、採用活動に巻き込む

さて、1)ミートアップやリファラルによって候補者リストをつくる→2)タレントプールで採用データベースを構築→3)タイムリーにダイレクトアプローチする。こうして採用手段が確立されれば、採用の母集団はある程度確保できるはずです。

ミスマッチを防ぐ選考について解説しておきましょう。
選考を、人事担当者のみで企画・実施するのは得策ではありません。先述の通り、現場の求める人材像と採用担当者の意識する人材像との間にミスマッチが起こりがちだからです。このミスマッチを解消するためにも、自社のエンジニアに協力を求めるとよいでしょう。自社に必要なスキル・技術の評価や成長性の見極めなどは、人事よりも現場のエンジニアの方が精通しています。
求人票の作成や基礎知識の見極め、面接における技術力の確認など、選考のプロセス全体を通じ、主体的に関与してもらうと良いでしょう。人事部門にエンジニア出身者を配置することも有効です。

本記事では、ITエンジニアの採用動向や彼らの仕事に対する価値観、およびいくつかのリクルーティング手法などを紹介しました。いろいろな手法を試していきながら、採用成功事例を増やしていきましょう。また採用手法だけでなく、社内環境の改善も重要なテーマ。エンジニアにフィットした職場づくりにも注力してください。

最後に、エンジニアの採用ができたとしても、厚遇し過ぎると既存の社員に不満がつのります。【エンジニアは採用できたけれど、別部門の社員が辞めてしまった】という失敗例は少なくないのです。エンジニアの技術は特殊ですが、経理や人事にも専門的な知識が求められるはずです。各人の責務(役割分担)を明確にし、全体調和を図ることも忘れてはなりません。

次回は、コロナウイルス問題に揺れる「新卒採用」について。実は今こそいい人材獲得の勝機であることをお伝えします。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年4月17日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
執筆:平賀充記(ひらがあつのり)
株式会社ツナグ・ソリューションズ取締役 兼 ツナグ働き方研究所所長。1988年(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「タウンワーク」「はたらいく」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年(株)リクルートジョブズ・メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、いまに至る。
著書に『非正規って言うな!』『サービス業の正しい働き方改革・アルバイトが辞めない職場の作り方』(クロスメディアマーケティング)、『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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