超売り手市場から一転し買い手市場となったウィズコロナの今、採用のポイントは「量」ではなく「質」にシフトしています。不況期に採用投資が有効なのは、自社の未来を担っていく「優秀なコア人材」を獲得しやすいからに他なりません。この好機を逃さないために重要となる取り組みが“採用のオンライン化”です。中でもWeb面接のスキルを磨くことは不可欠です。
第3回第4回は、候補者が自社に合う人物かどうかを見極める「選考」について解説してきました。最終回の本稿では、採用面接のもう1つの役割である「動機形成」についてお伝えしていきます。
自社の魅力をアピールし、候補者の不安要素を取り除き、候補者が「入社したい」「この会社ならば、活躍できそうだ」と感じられるよう働きかける。動機形成は分かりやすくいうと口説き。オンライン上でどうやって口説けばよいのか、そのノウハウを解説させていただきます。

1 対面より内定承諾率が低い

Web面接での選考は難しい。こうした面接官の悩みが、実は先入観や偏見によるものであって、「構造化面接」というやり方を導入することによって見極めの精度が高まることは、本連載でお伝えしてきました。
対面面接に比べると、Web面接は会話のキャッチボールがしにくい。会話を円滑に進めるきっかけとなるジェスチャーやアイコンタクトといった「非言語的手がかり」が、対面面接と比べWeb面接では減少するからです。面接官からすると、会話が盛り上がりにくくなることで、見極めが難しいと感じがちですが実は逆で、客観的に言語的情報に集中することで見極めの精度は高まります。面接官のバイアスさえ取り除けば、Web面接は「選考」に向いている面接手法なのです。

しかし残念ながら、対面面接を受けた候補者より、オンライン面接を受けた候補者のほうが「内定承諾率が低い」という研究結果があります。企業の方から、「最近は内定を出してから承諾を得るまでの期間が長くなっている」という話も耳にします。“Web面接は見極めの精度が高まる=内定を出した学生は自社にフィットしている”はずにもかかわらず、相手に承諾してもらえない。ここにはどんな問題があるのでしょうか。

2 面接官に親しみを感じない問題

Web面接を受けた学生からは、「企業に魅力を感じにくい」といった声がよく上がります。これは、対面面接と比較してWeb面接の「動機形成」が弱いことを示唆しています。なぜか。実は、Web面接での動機形成の難しさも、“会話がしにくい”という特質が原因なのです。会話がしにくい→企業に対する魅力を感じない。あまりに唐突すぎる気もしますが、その背後には、人間の心理的なバイアスが機能しているのです。

ざっとまとめると、

  • Web面接では会話がしにくい
  • 人はうまくいかない時、その原因を他者に求めがち
  • Web面接で会話が盛り上がらないのは、面接官のせい

という心理的なメカニズムが、「学生の無意識」に働きかけてしまうのです。

例えば、面接において学生が自分の思うように話せなかった場合、「面接官の人当たりが悪かったからではないか?」「面接官の努力が足りなかったのではないか?」と考えてしまうのです。
印象が悪かった面接について尋ねると、面接官が自分に対して興味を持ってくれなかったという意見をよく聞きます。これも円滑な会話ができていないことで、“自分に対して興味を持っていない”と、原因を面接官側に求めてしまうからに他なりません。そんな状況で面接官に親しみなんか感じるわけがありません。

3 面接官の印象が大きい

そして厄介なのは、「面接官の印象」は極めて重要だということです。学生に企業への志望度が高まった要因を尋ねた調査でも、「面接官が与える印象が大きい」との回答が多く見られました。学生は企業の代表者としての面接官と接することで、「この会社はどんな会社なんだろうか」と推測しています。
動機が形成されていく=“この会社に入ったら自分がうまくやっていけそうだ”と感じていくプロセスだとすれば、入社後うまくやっていけそうかを判断する際に、“面接官が自分のことをちゃんと見てくれているか“という印象は非常に大事な情報となるはずです。
特に日本の採用においては、入社後の仕事内容がそこまで明確に決まっていないケースが多く、企業を選んでいく上での情報があまり揃っていません。結果として、より一層「面接官の印象」が重要視されるのです。
“面接官=企業の代表者”というイメージを持つ学生からすると、“面接官に親しみを感じにくい”は、その“企業に魅力を感じにくい”に直結します。つまり学生は就職する企業を選ぶ上で、面接官の印象に大きく左右されるわけです。

Web面接における会話のしにくさは、「選考」においては実はプラスに働いていたのが、「動機形成」においてはマイナスに機能してしまうことが分かりました。これまで対面で行っていたことをただオンラインに移行しただけでは、動機形成は非常に難しい。それどころか学生が、面接官を通して企業にネガティブな印象を持ってしまう可能性すらある。そうなると、Web面接において、どのように動機形成に取り組んでいくべきでしょうか。
対策の基本方針は極めてシンプルです。要は、学生がWeb面接においても“自分の能力を発揮できた”と感じられる環境を提供すること。これに尽きます。そうすれば(ある意味でお門違いな)面接官へのネガティブバイアスも発動されないわけですから。

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4 フィット感のフィードバック

Web面接で動機形成をするための対策は、大きく2つあります。
1つ目の対策は「フィードバック」です。中でも有効なフィードバックだとされているのが、フィット度合いが高いことを候補者に伝える手法です。正式には「パーソンオーガナイゼーションフィット」といい、採用面接においては候補者と企業がマッチしている状況を指します。つまり“あなたはうちの会社に合っているよ”ということを伝えるわけです。
これは「あなたはすごい」というように、単に良いところを褒めるフィードバックよりも効果的です。学生からすれば、入社後にうまくやっていけそうかを判断したいわけですから、たとえ自分はすごいと言ってもらえたとしても、その会社で能力を発揮できそうだと感じられなければ、うまくやっていけそう!とは判断できません。重要なのはあくまでも「相性」の問題なのです。

相性については、3つ種類があるといわれています。1つ目「類似度」。例えば、“うちの会社は穏やかな社風なので、あなたのような穏やかな性格には合っている”といったことです。2つ目は「候補者が求めていることと企業が提供できる」という相性。3つ目は、反対に「企業が求めることを候補者が持っているか」という相性。例えば、“うちの会社はこういう人を求めているんだ”と話した上で、“あなたにはそういうところがあるよね”と伝えてみたり。いずれにせよ、面接官から“あなたならうちの会社でうまくやっていけますよ”と、自社との相性を伝えることは、学生の動機形成に対して極めて効果的です。

5 面接官が自分の入社動機を語る

2つ目の対策は「候補者との信頼関係を形成すること」です。特に有効なのが面接官の自己開示。面接官は候補者にあたる学生に対していろいろ質問をします。これはある意味で学生への自己開示を求めているわけで、同時に面接官自身も積極的に開示していかないと、自己開示の程度が釣り合わなくなってしまう恐れがあります。分かりやすくいうと、学生が“自分だけ丸裸にされた”と感じてしまう状態です。こうした偏りは、ただでさえ面接官への親しみを感じにくいWeb面接では、良い状態とはいえません。

そして最も効果的な自己開示は、面接官が自分自身の入社動機を語ることです。採用面接というシーンであまりにパーソナルな自己開示をされても、学生からすると「ポカン」となってしまいます。なぜこの会社に入ったのか、という面接官の語りは、学生にとっても極めて有益な情報です。
その際に重要なのが「WHAT」ではなく「WHY」の視点。自分が共感した会社の理念やビジョンについていくら語っても、「自分の会社の好きなところ=WHAT」を語るだけでは、学生にとっては、それはただの会社説明にしか過ぎません。
「なぜその理念をいいと思ったのか=WHY」を付け加えて話すことで、自身の価値観を伝えることができます。生い立ちや経験をベースに形成されてきた価値観を自然な形で自己開示していく。これが「入社動機」を語る上での鉄則です。

フィードバックと自己開示。学生の能力発揮感を引き出しながら、面接官への親しみやすさを醸成していくことで、動機形成につなげていく。この2つはWeb面接の弱点を補う上で欠かせない対策です。

6 ハイブリッド面接のすすめ

本連載は、新卒採用にWeb面接を導入していく意義や利点に着目し、面接の大きな役割である「選考」と「動機形成」をオンライン上でアップデートするためのノウハウをお伝えしてきました。だからといってすべてWebで行おうと主張しているわけではありません。新卒採用は数回の面接を経て内定を出していくことがほとんどなわけですから、全採用工程を見据えた上で、面接の手法を組み立てていく視点も必要となってくるでしょう。実際には、対面とWebをうまく組み合わせた「ハイブリッド面接」を志向していくべきです。
Web面接サービスを提供するHRテック企業が、「各選考プロセスにおいて、オンライン(=Web)とオフライン(=対面)のどちらでの実施を希望するか」を学生に聞いた調査があります。会社説明会や1次面接はオンラインでの実施希望が6割以上と、オフラインでの実施希望を大きく上回った一方で、最終面接においては、オフラインでの実施希望が6割となりました。
「面接機会を増やしてくれる」「選考では精度の高い見極めができる」という利点を持つWeb面接を採用初期に活用し、「自然な会話で動機形成につなげる」という利点を持つ対面面接を最終面接で活用する。先述の調査結果も踏まえると、こうしたハイブリッド型の面接構成が極めて合理的といえるでしょう。
いずれにせよ、いい人材を獲得するには、“採用活動に汗をかく熱量”と“学生に語り掛ける熱量”が欠かせません。最後の最後は「対面」のシチュエーションで熱く口説く。これも大いにアリだと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年5月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:平賀 充記(ひらが あつのり)
株式会社ツナググループ・ホールディングス エグゼクティブフェロー 兼 ツナグ働き方研究所所長。1988年(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「タウンワーク」「はたらいく」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年(株)リクルートジョブズ・メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、いまに至る。
著書に『非正規って言うな!』(クロスメディアマーケティング)、『神採用メソッド』(かんき出版)、『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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