2022年も年末調整の時期になりました。年末調整とは、従業員などの所得税等の税額を確定するための手続きですが、正直、仕組みや言葉の意味がよく分からないことはないですか。そこで、この記事で年末調整の仕組みを分かりやすく説明します。また、年末調整を理解するための重要なキーワードも解説します。
 なお、基本的なことはいいので、年末調整書類の具体的な記載方法を確認したい人は、以下の記事をご参照ください。

1 「年末調整」とは? とことん分かりやすく

会社(個人事業者も含む。以下同様)は、役員・従業員やパート社員(以下「従業員」)に支払う毎月の報酬・給与から、所得税と復興特別所得税(以下「所得税」)を差し引き、従業員に代わって納税しています。これを「源泉徴収」といいます。会社が源泉徴収するからこそ、従業員(給与所得以外の所得がある人などを除く)は、原則として、自分で所得税の申告・納税をする必要がないわけです。
ただし、会社が源泉徴収をした金額は、保険料控除などの所得控除(所得金額から差し引くことができる一定の金額。詳細は後述)が反映されていないので、正しい金額ではありません。そこで、これを解消して年の最後に精算するのが年末調整というわけです。

深掘りキーワード

  • 所得税
    個人が1年間(1月1日から12月31日まで)に得た所得に応じて国に納める税金です。所得は10種類(給与所得・事業所得・利子所得・配当所得・不動産所得・山林所得・一時所得・退職所得・譲渡所得・雑所得)に分かれます。

  • 復興特別所得税
    東日本大震災の復興財源を確保するために設けられました。2013年1月1日から2037年12月31日までの25年間の期間限定で導入されています。

  • 収入金額
    自営業者は「売上金額」、給与所得者は「総支給額(社会保険料や税金が差し引かれる前の金額で通勤手当等の非課税金額を除いた額)」が該当します。

  • 所得金額
    上記の収入金額から必要経費を差し引いた金額です。自営業者の必要経費には、仕入費用や人件費・賃料などの諸費用が該当します。給与所得者の必要経費は収入金額に応じて決められていて(55万~195万円)、これを給与所得控除といいます。
    また、収入金額が850万円を超える一定の給与所得者は「所得金額調整控除」があります。この控除は複雑ですので、詳しくは後述します。

  • 所得税の確定申告
    1年間の所得金額とそれに対する所得税の額を計算し、毎年2月16日~3月15日(15日が土日・祝日である場合は翌平日)に申告します。所得が給与所得だけの人の多くは、年末調整をすれば確定申告は不要です。ただし、年末調整で申告できない各種控除の適用を受ける人や年末調整対象外の人は確定申告が必要です。

2 年末調整の対象となる従業員と、対象とならない従業員との違い

年末調整の対象は、原則として、会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」)(詳細は後述)を提出している従業員です。ただし、一部、対象にならない従業員もいます。

【年末調整の対象となる従業員】

  • 1年を通じて勤務している人
  • 年の中途で採用され、年末まで勤務している人
  • 年の中途で退職した人のうち、死亡により退職した人など
  • 年の中途で海外赴任により非居住者となった人

【年末調整の対象とならない従業員】

  • 1年を通じて勤務している人で、主たる給与収入金額が2000万円を超える人
  • 2カ所以上から給与の支払いを受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人
  • 扶養控除等申告書の提出がない人
  • 非居住者(国内に住所も居所(1年以上住んでいる場所)も持っていない人)など

なお、年末調整の対象となる従業員に対して年末調整を行わないと、罰則(10年以下の懲役、もしくは200万円以下の罰金(もしくはその両方))を受けることもあるので注意が必要です。

3 所得控除とは

所得控除とは、所得税の額を計算するときに、所得金額から差し引き、税負担を軽くする制度です。全部で15種類ありますが、年末調整で申告できるのは、このうち12種類です。
ちなみに、年末調整で申告できない3種類の所得控除は、医療費控除(1年間に一定額以上の医療費がある場合に受けられる)、寄附金控除(国や地方自治体などに一定の寄附をした場合に受けられる)、雑損控除(災害等によって住宅家財などに被害が出た場合に受けられる)です。これらについては、自身で翌年3月15日までに確定申告をすることで所得控除を受けることができます。

深掘りキーワード

  • 税額控除

    所得控除と似た言葉に税額控除があります。税額控除とは、課税所得金額(所得金額-所得控除額)に税率を掛けて計算した金額(税額)から直接控除できる制度です。税率を掛ける前の所得金額から控除する所得控除よりも、税額控除のほうが税負担を軽くする効果が高いです。


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4 年末調整の対象となる12種類の所得控除と所得金額調整控除

年末調整における提出書類(申告書)と、それぞれに関係する所得控除の種類を紹介します。なお、以下で説明する「所得金額調整控除」は所得控除ではないものの、年末調整で申告できるので併せて紹介しています。そのため、全部で13種類(前述の12種類+所得金額調整控除)となっています。

1)扶養控除等(異動)申告書

扶養控除等(異動)申告書は年末調整で配布される申告書で、原則として、会社から給与の支払いを受ける全ての人(給与所得者)が提出する書類です。扶養控除などを記載しますが、適用する所得控除がない場合でも、氏名等の記載事項を記入して会社に提出します。

1.扶養控除

扶養親族(その年の12月31日現在の年齢が16歳以上で、生活費を負担しているなど一定の者)の合計所得金額が48万円以下である場合などに、一定額(38万~63万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。

2.障害者控除

納税者自身や配偶者、扶養親族が障害者(所得税法に規定されている障害者に該当する者)である場合に、一定額(27万~75万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。

3.寡婦控除

納税者自身が寡婦である場合に、一定額(27万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚した後に再婚をしていない人などをいいます。

4.ひとり親控除

納税者自身がひとり親である場合に、35万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人などをいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。

5.勤労学生控除

納税者自身が勤労学生である場合に、27万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。合計所得金額の見積額が75万円以下(給与所得だけの場合は、給与収入金額が130万円以下)で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人は勤労学生控除は受けられません。

2)給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書

給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書は年末調整で配布される申告書で、原則として、会社から給与の支払いを受ける全ての人(給与所得者)が提出する書類です。記載事項には計算箇所が多いため、注意が必要です。記載方法については「2022年の様式対応 年末調整の書き方をシンプルに解説」を参照ください。

6.基礎控除

ほとんどの納税者が対象で、一定額を所得金額から控除することができます。具体的には、所得金額から48万円を控除できますが、合計所得金額が2400万円を超える従業員については、その合計所得金額に応じて控除額が減り、合計所得金額が2500万円を超える従業員については、基礎控除は受けられません。

7.配偶者控除

配偶者の合計所得金額が48万円以下である場合などに、一定額(13万~48万円)を所得金額から控除できる制度で、年末調整で申告できます。控除を受ける納税者自身の合計所得金額が1000万円を超える場合には、配偶者控除は受けられません。

8.配偶者特別控除

配偶者の合計所得金額が48万円を超え配偶者控除が受けられない場合に、配偶者の合計所得金額の見積額に応じて一定額(1万~38万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、配偶者控除と同様に控除を受ける納税者自身の合計所得金額が1000万円を超える場合や、配偶者の合計所得金額が133万円を超える場合には、配偶者特別控除は受けられません。

9.所得金額調整控除

給与等の収入金額が850万円を超える人のうち、子育て中の人や障害者などである場合、下記の算式で計算された金額の控除を受けられる制度(所得控除ではない)で、年末調整で申告できます。なお、計算式上の収入金額は、収入金額が1000万円を超える場合には1000万円が上限となります。

所得金額調整控除額=(給与等の収入金額-850万円)×10%

3)給与所得者の保険料控除申告書

給与所得者の保険料控除申告書は年末調整で配布される申告書で、生命保険料控除などに関する記載箇所があります。

10.生命保険料控除(一般の生命保険料)

納税者自身が生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合、上限4万円(2011年12月31日以前に一般の生命保険・個人年金保険契約したものについては5万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。保険期間が5年未満の生命保険などの中には対象外のものもあります。

11.小規模企業共済等掛金控除

納税者が小規模企業共済や個人型確定拠出年金(iDeCo)などの掛金を支払った場合、その年に支払った金額全額の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。
iDeCoとは、納税者自身が掛金を拠出・運用し、資産を形成する年金制度です。原則、60歳まで資産を引き出すことはできませんが、掛金の拠出時(掛金が全額所得控除)・運用時(運用益に課税されない)と、資産の受取時(一定の所得控除がある)に税金優遇を受けることができます。

12.社会保険料控除

納税者が納税者自身や配偶者、扶養親族が負担すべき社会保険料を支払った場合に、その年に支払った金額または給与などから差し引かれた金額全額の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、控除対象となる社会保険料には、健康保険、国民年金、厚生年金保険、国民健康保険の保険料などが含まれます。

13.地震保険料控除

納税者自身が地震保険料を支払った場合に、上限5万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、地震保険料控除には2007年分の年末調整で廃止された一定の長期損害保険料(共済期間が10年以上のものなど)についても控除対象となっています。

4)住宅ローン控除とは

上記の他に、住宅借入金等特別控除(以下「住宅ローン控除」)があります。住宅ローン控除とは、納税者自身が住宅ローンを組んで住宅の購入・増改築を行った場合、「住宅ローンの年末残高×1%(上限40万円。なお、住宅を居住の用に供した日などに応じて控除率、上限額が異なります)」で計算された金額の税額控除(所得控除ではない)を受けられる制度で、年末調整で申告できます。住宅ローン控除を受ける従業員は、「住宅借入金等特別控除申告書」の提出が必要です。
ただし、年末調整で申告できるのは、住宅ローンの利用を開始した年の翌年以降(2年目以降)が対象です。1年目については、自身で確定申告を行う必要があります。

5 「年末調整の電子化」。煩わしい作業から解放される?

2020年10月から年末調整の電子化が始まっています。これにより、書類をデータでやり取りしたり、保存したりすることができるようになり、控除額の検算や大量の紙を保管しなくても済むようになりました。
とはいえ、電子化に対応するには、

  • 会社:給与システムの改修や税務署への届け出・承認
  • 従業員:専用ソフトのインストールやアカウント作成

などといった準備が必要です。こうした手間もあってか、電子化が始まって2年がたちますが、実は引き続き紙で年末調整を行っている会社が多いようです。会社の規模によっては電子化によって新たに発生する実務が大変で、逆効果になってしまうこともあるので、担当責任者や税理士などと相談して決めるとよいでしょう。

以上

(監修 税理士 石田和也)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年11月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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