書いてあること

  • 主な読者:一族経営である中小企業の経営者
  • 課題::自身の常識内で資産を移してしまうと、贈与税の課税対象になってしまう可能性がある
  • 解決策:家族間であっても、自分以外の名義に対して金銭などが移った時点で税金がかかるかもしれないという認識を常に持っておく

1 税法では家族も他人

家族でも税法では他人。この基本を知らないと、思わぬところで贈与税がかかります。経営者は税金に敏感なので、「自分は大丈夫!」と思うでしょう。しかし、今、皆さんがイメージしたのは、いわゆる「ファミリー企業」における利益の分配や事業承継の準備などではないでしょうか。確かにこれらの仕組みは複雑ですが、税理士や弁護士などの専門家に相談するので、実は税務上や法務上の見逃しは発生しにくいのです。

この記事で取り上げるのは、こんな難しいケースではなく、

皆さんが日常生活の中で何も考えずに行っている家族間の金銭のやりとり

です。妻に貴金属をプレゼントする、子供の借金を肩代わりするなど、決して珍しくないこれらのケースで贈与税がかかることがあるのです。

資産を移した後では対策は講じることはできません。家族のためを思ってやっただけなのに、かえって相手の税負担を重くしてしまう。そんなことは避けたいですよね。この記事で、「えっ、これが贈与なの?」という家族間のよくある金銭のやり取りを紹介するので、確認してみてください。

2 妻に高価な貴金属や車をプレゼントしたらアウト?

民法上、夫婦は互いを扶養しなければならないので、生活費や教育費をいくら贈与しても、贈与税はかかりません。扶養対象の子供についても同じです。

ただし、

生活費や教育費ではない財産は、原則として贈与税がかかる

ため注意が必要です。「原則、贈与税は年間110万円まではかからない」ので、対象はこれを超えるものとなります。例えば、数百万円もする高価な貴金属や、2台目の車を妻にプレゼントしたら、それは生活費や教育費ではないので贈与税が発生するかもしれません。当然、貴金属などの購入費用を金銭で渡したり、自身で車などを購入した後に名義変更をしたりしても同様です。ただし、生活水準は人それぞれなので個別具体的な判断は分かれます。

税法上、社会通念上相当な額としか規定されておらず、金額などの明確な基準はないので、日頃の夫婦間の金銭のやり取りなどから判断されます。明らかに目立つ金銭移動が生じる場合は、事前に贈与税が発生するか否かを確認するのが無難です。

3 子供の借金を肩代わりしたらアウト?

就職や入学を機に、親が子供の借金を肩代わりすることがあります。ただし、このケースでは、

肩代わりした金額は、原則として贈与税がかかる

ため注意が必要です。これは、いったん子供に金銭を贈与して、その資金を使って子供が借金を返済したとみなすからです。

逆にいうと、一時的に親が返済資金を立て替えただけで、後に本人(子供)が親に返済するのであれば贈与税はかかりません。第三者との貸借関係が、親子間の貸借関係に変わったイメージで、金銭は子供にあげたものではないと税法的には判断できるからです。なお、このケースで、本人(子供)が親に返済をしなかったとしても贈与税はかかりませんが、いずれ発生する相続の際、親側の債権が相続財産として加算された状態で相続税が発生します。

例外もあります。本人(子供)の財産が無くなり、どう考えても返済不能と認められたら、親が肩代わりした分の贈与税はかかりません。ただ、よほどでなければ、このケースには該当しません。

4 満期保険金を子供が受け取ったらアウト?

子供の資産形成として、親が子供を満期保険金の受取人とする生命保険に加入していることはよくあります。ただし、

保険料を負担していない子供が満期保険金を受け取った場合、贈与税がかかる

ため注意が必要です。これは、親が、保険料を負担していない子供に金銭を贈与したとみなされるからです。

ちなみに、満期保険金が保険料を負担している本人が受け取った場合は所得税がかかります。いずれの場合でも、税金がかかるので、契約者(保険料を負担する人)と保険金の受取人が誰なのかすぐに分かるように、保険関係の書類はまとめて整理しておきましょう。また、保険金の受取人には、受取人であることを事前に伝え、満期保険金が入った場合には、贈与税の申告が必要である旨を知らせておきましょう。

5 子供名義の口座に預金し続けたらアウト?

子供の将来に備えて「子供名義」の銀行口座を作り、そこで定期預金などをしているケースはよくあります。ただし、このケースでは、

子供名義の口座に、将来渡す目的で一定のお金を預け続けた場合、管理の仕方によっては、贈与税がかかる可能性がある

ため注意が必要です。これは、口座の名義人と実際に管理している人が違うと判断されると、その口座は実際に管理している人の預金であるとみなされるからです。このような預金を「名義預金」といいます。

名義預金とみなされる主なケースには、

  • 通帳や印鑑を名義人以外の人が管理している
  • 名義人がその口座の存在を知らない
  • 名義人がその口座から自由にお金を引き出せる状態にない
  • 入金以外の取引が全くない

などです。通常、名義預金が発覚しがちなのは相続時です。子供や孫のためにコツコツと続けた預金に相続税・贈与税がかかり、受取額が大幅に減ってしまうのは忍びないものです。たとえ家族間でも、自分以外の名義に対して金銭などが移った時点で税金がかかるかもしれないという認識を持ちましょう。

6 【2024年改正】暦年贈与と相続時精算課税

1)暦年贈与に係る改正

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないという仕組みです。毎年非課税で110万円を子供や孫などに渡せるので、いずれ発生する相続税の負担を減らす効果が期待できます。

ただし、亡くなる前の一定期間に行った生前贈与については、110万円以下でも相続税がかかります。この一定期間を加算期間と呼び、

2024年1月1日以降の贈与については、加算期間が3年から7年に延長

されました。改正後は、亡くなる前1~3年の間に行われた生前贈与は全額、4~7年の間に行われた生前贈与はその期間の贈与総額から100万円を差し引いた金額が相続税の課税対象となります。

暦年贈与は一般的な相続対策ですが、加算期間の延長や後述する相続時精算課税の改正(基礎控除の創設)によって、2024年以降は相続時精算課税制度を選択した場合の方が、より節税効果が高くなるケースが多く発生することが見込まれます。暦年贈与と相続時精算課税のどちらを選ぶか、慎重に検討しましょう。

2)相続時精算課税に係る改正

相続時精算課税とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、2500万円までは贈与税がかからず、相続時に生前贈与分もまとめて相続税を計算する仕組みです。生前贈与した金額の累計が2500万円を超えた場合は、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります(この贈与税は、相続税を計算する際に相殺されます)。

2024年1月1日以降、

相続時精算課税制度で使える「年間110万円の基礎控除」が創設

されています。2024年1月1日以降に相続時精算課税制度を選択して贈与を行った場合、年間110万円以内であれば贈与税はもちろん、相続税もかからなくなります。加えて、贈与税の申告も不要です。従来は、相続時精算課税を選択すれば、少しでも贈与があれば、贈与税の申告が必要だったため、利便性が高まりました。

以上
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年4月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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