社長なら、「毎日、頑張って働いている社員への感謝の気持ちを形にしたい」と考えるものであり、その一環として福利厚生制度の充実を検討します。社長としては、任意的・恩恵的に、つまり給与ではない形で社員にプレゼントをあげたいと思うのですが、そこで立ちはだかるのが税務の問題です。

1 税務上の判断基準は「3つ」

税務上のルールに沿って社員にプレゼントをあげれば、その費用は福利厚生費として損金処理できます(損金の基本的な考え方については、「【再監修】知っておきたい税金計算と損金の基礎」をご確認ください)。そうでなければ社員等(役員を含む。以下、同様)の給与または賞与(以下「給与等」)となって源泉所得税が掛かることがあります。大切なのは、税務上の判断基準を知ることです。そして、福利厚生制度に対する支出が、給与等として課税されるかどうかの目安となる判断基準は次の3つです。

1)機会の平等性

全ての社員等に対して機会が平等であることが、福利厚生費とするための原則です。そのため、特定の社員だけを対象にしたプレゼントなどは、経費ではなく給与等になります。

2)社会通念性

福利厚生制度が、広く社会の一般慣習として行われているものであれば福利厚生費に該当します。また、福利厚生費として処理できる上限額として、「通常要する費用」といわれることがありますが、これは社会通念上妥当な金額という意味です。

具体的な金額が分からないので迷うかもしれませんが、国税庁のウェブサイトで公表されているタックスアンサーや過去の判例などの情報を参考にしながら、常識的に見ておかしくない程度であれば、所得税を課税しなくてもよいと考えて問題ないでしょう。

3)実費の精算

福利厚生制度の中には、通勤手当のように実費弁償の性質を持つものがあります。社員等にとっては、会社との雇用関係などに基づく収入であり、また業務遂行上必要な費用でもあります。そのため、こうした費用は給与等ではない経費になります。

2 社員へのプレゼントは経費で落ちるのか?

所得税上の基本的な考え方は、福利厚生制度に対する支出は社員等への給与等として課税するというものです。ただし、先の3つの判断基準に基づき、社員等にとって所得税が非課税となるものや、一部のみが課税対象となるような例外的なケースもあります。

つまり、福利厚生費などの経費として処理できるものもあれば、給与等として処理しなければならないものもあります。注意しなければならないところですが、判断はケース・バイ・ケースで難しい面があります。以下で、幾つかのケースを紹介しますが、最終的には専門家に相談したほうが無難です。

1)社員旅行の場合

社員旅行の費用が経費となるかどうかの判断基準についてですが、国税庁タックスアンサーによれば、その旅行によって社員等に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が次のいずれの要件も満たすものであるときは、原則として、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。

具体的には、日数が4泊5日以内(海外旅行の場合は、海外での滞在日数が4泊5日以内)、かつ、参加割合が全体の人数の50%以上だと、福利厚生費として処理をすることができます。

なお、社員等に対する日ごろの慰安と業務研修を兼ねて、「研修旅行」とするケースがありますが、この場合は、業務を行うために直接必要な部分に掛かる費用のみを福利厚生費とすることができます。それ以外の費用については、所得税が課税されます。

2)社員等に社内規程で定める誕生日プレゼントを贈る場合

社員等の誕生日に社内規程で定めるプレゼントを贈る場合、広く一般に社会的な慣習として贈られているもの(誕生日ケーキや花束など)であれば、福利厚生費として経費処理をしても問題ないでしょう。

ただし、祝い金として金銭(商品券などのように換価が容易なものを含む)を支給する場合や、高額なものをプレゼントする場合は所得税が課税されます。

3)永年勤続者への記念品などを贈る場合

国税庁タックスアンサーによれば、永年勤続者へ、記念品として物品、旅行券、観劇券などを支給する費用が福利厚生費となるかどうかの判断基準は、金額と勤続年数です。

具体的には、その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること、かつ、勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること、かつ、同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていることが必要です。

ただし、記念品ではなく金銭(商品券などのように換価が容易なものを含む)を支給する場合や、本人が自由に記念品を選択できる場合には、所得税が課税されます。

4)社員等の学資金、資格取得費用を負担した場合

国税庁タックスアンサーによれば、使用人に、学資に充てるための費用を支給する場合、支給したこれらの費用が次の1.及び2.の要件を満たしていれば、給与として課税しなくてもよい(所得税が課税されない)ことになっています。

  • 通常の給与に加算して支給する費用であること
  • 次の(1)から(2)のいずれにも該当しない費用であること(法人の場合) (1)役員の学資に充てるため支給する費用 (2)役員や使用人と特別の関係がある者(例:使用人(法人の役員を含む)の親族)の学資に充てるため支給する費用

また、役員又は使用人としての職務に直接必要な技術や知識を習得させ、又は免許や資格を取得させるための研修会、講習会等の出席費用又は大学等の聴講費用に充てるための費用として適正なものに限り、給与として課税しなくてもよい(所得税が課税されない)ことになっています。

ただし、税理士、中小企業診断士などの一身専属的な資格については、役員又は使用人としての職務に「直接必要な」資格とはいえない場合が多いと考えられますので、注意が必要です。

5)昼食等の支給

国税庁タックスアンサーによれば、役員や使用人に支給する食事は、次の2つの要件をどちらも満たしていれば、給与として課税されません。

  • 役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること
  • 次の金額が1か月当たり3500円(税抜き)以下であること
    (食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)

この要件を満たしていなければ、食事の価額から役員や使用人の負担している金額を差し引いた金額が給与として課税されます。

また、現金で食事代の補助をする場合には、深夜勤務者に夜食の支給ができないために1食当たり300円(税抜き)以下の金額を支給する場合を除き、補助をする全額が給与として課税されます。

なお、残業又は宿日直を行うときに支給する食事は、無料で支給しても給与として課税しなくてもよいことになっています。

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3 会社における経理処理上の留意事項

繰り返しになりますが、社員等に対して所得税が課税されないときは、会社は福利厚生費などの経費処理をすることになります。一方、所得税が課税されるときは、給与等と同様に源泉徴収を行わなければなりません。

なお、役員に対する支出等が給与等に該当するときは注意が必要です 。法人が役員に対して支給する給与等の額のうち「定期同額給与」「事前確定届出給与」又は「利益連動給与」のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません(詳細な内容については、国税庁タックスアンサーでご確認ください)。

また、「定期同額給与」「事前確定届出給与」又は「利益連動給与」のいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません。「定期同額給与」の例としては、その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものが挙げられます。

そのため、例えば定期同額給与の役員に、給与等に該当するような高額な誕生日プレゼントを贈ってしまうと、定期同額給与の要件に該当しなくなります。その場合、誕生日プレゼントの分が損金不算入となり、法人税が課税されてしまいます。

4 事前確認が大切

ここまで紹介したように、福利厚生制度の費用の税務上の判断は簡単ではありません。また、福利厚生制度に関する社内規程を整えたり、これらの支出についての疎明資料(証拠資料)を残しておいたりすることも大切です。そのため福利厚生制度を見直すときには、顧問税理士や税務署などと相談しながら進めていきましょう。

以上

(監修 税理士 石田和也)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年12月3日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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