【再監修】役員報酬を損金に算入するための基本的なルール
経営者や役員に対する役員報酬は、従業員給与と違い、税務上さまざまな取り決めがあります。例えば、従業員給与は基本的に全額損金(税務上の費用)に算入できますが、役員報酬は毎月同額でなければならないなど、一定の方法で支払われたものでなければ損金に算入できません。損金に算入できないと、支出したにもかかわらず所得(税務上の利益)を減らすことができず、法人税の負担が軽減されません。
役員報酬は金額が大きくなるため、取り扱いを間違えて損金算入できない場合、納税が想定外に多額になることになり、資金繰りの影響も無視できません。このような事態を避けるためにも、役員報酬に関する税務上の取り扱いは正確に把握することが重要です。
どのような役員報酬なら損金算入できるのか? この記事で基本的なルールを分かりやすく紹介していきますので、役員の方はぜひ、ご一読ください。
1 損金に算入できる役員報酬
税務上、損金算入できる役員報酬は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに限られています。
「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれにも該当しない役員報酬を支払い、かつ損金に算入して確定申告をしてしまった場合、税務調査などで指摘を受け、役員報酬分に係る法人税を支払うことになります。また、役員個人には支給時に所得税が課税されているので、この役員報酬には法人税と所得税が二重に課されます。
なお、業績連動給与を損金に算入できるのは有価証券報告書の提出企業(いわゆる上場企業)などに限られており、中小企業では、定期同額給与か事前確定届出給与で支給するのが一般的です。
2 定期同額給与とは
定期同額給与とは、「その支給時期が1カ月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」もしくは「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」をいいます。
例えば、3月決算の会社の場合、4月から翌年3月までの12カ月の支給時期における支給額が同額である給与をいいます。
また、「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」とは、その事業年度開始の日の属する事業年度開始の日から3カ月を経過する日などまでに改定された定期給与をいいます。
例えば、3月決算の会社であれば、6月30日までに改定されて支給される役員報酬が該当します。これは、役員報酬が株主総会での決議が必要となるため、株主総会で役員報酬の支給枠が変更されることを考慮したものです。
なお、著しい業績悪化のために減額する場合は損金に算入できるなど、例外規定はあります。とはいえ、損金に算入するためには、上記のように定められた期間内の支給額を同じ額にする必要があります。
3 事前確定届出給与とは
事前確定届出給与とは、「その役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭等を支給する旨の定めに基づいて支給する給与(定期同額給与および業績連動給与を除く)で、決められた日までに納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしているもの」をいいます。
事前確定届出給与は、事前に納税地の所轄税務署長に届け出なければなりません(詳細は後述)。そのため、手続きは煩雑ですが、支給額や支給時期を自由に決めることができます。ただし、届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給しなければ、その全額が損金に算入できなくなってしまうため、慎重に検討・実施するようにしましょう。
事前確定届出給与のイメージ(四半期支給の場合)は次の通りです。
また、事前確定届出給与は定期同額給与と組み合わせて利用することもできます。例えば、役員賞与を設定する場合などに活用されます。
4 役員報酬を変更する場合のスケジュール
定期同額給与と事前確定届出給与については、それぞれ金額などを変更する際の期限があります。ここで3月決算の会社を例に、役員報酬を変更する場合のスケジュールを確認します。
3月決算の場合、一般的に定時株主総会は6月末までに開催することになっています。定期同額給与の変更は、原則事業年度開始の日から3カ月以内とされているため、6月末がその期限になります。
事前確定届出給与は、定時株主総会による決議から1カ月以内、または事業年度開始の日から4カ月以内のいずれか早い日が届出期限になります。例えば、6月20日に株主総会が開催された場合には、7月20日と7月31日を比較し、早い日である7月20日が届出期限となります。
5 役員報酬を決める際の留意点
一般的に、役員報酬の金額は「企業の業績見込み」「従業員賃金とのバランス」「世間相場」「税務上の取り扱い」などを勘案して決定します。また、中小企業に多いオーナー企業では、会社と社長個人の資産を一体的に考え、総合的な税負担のシミュレーションなどを行った上で、役員報酬を検討することもあります。
特に、企業の業績見込みを正確に行い、自社に最適な金額を設定することが会社経営を行う上で大切になります。もし、業績が見込みに対して大幅に下回ってしまった場合には、役員報酬の支払いが会社の財務状況を悪化させる要因になりかねません。反対に、業績が見込みに対して大幅に上回った場合には、想定以上の法人税等の支払いが発生することになります。
また、定期同額給与や事前確定届出給与のように税務上の規定に沿って支給している役員報酬でも、不当に高額な部分については損金に算入できないケースもあります。不当に高額かどうかの明確な基準はありませんが、同業他社や社内の他の役員報酬と比較して、あまりにもかけ離れた金額を設定する場合などが本ケースに該当すると考えられます。役員報酬の金額や支給方法を検討する際には、事前に税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
以上
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)
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