多種多様な冷凍食品を、24時間いつでも購入できる「冷凍自販機」は、ここ2年ほどで急速に全国に広まりました。コロナ禍で飲食事業が大打撃を受ける中、独自の工夫で成功をおさめた会社も多く、行動規制が緩和された今、冷凍自販機は改めて注目を浴びています。
この記事では、冷凍自販機の設置事例を見ながら、食品の新たな販売スタイルの可能性を探っていきます。

1 食品の新たな販売スタイル 冷凍自販機が急拡大

サンデン・リテールシステム(東京都墨田区)が開発した「ど冷(ひ)えもん」は、2021年1月の発売開始後、シリーズ累計販売6000台超の大ヒットを記録しました。また、2022年2月には富士電機(東京都品川区)が「FROZEN STATION」を発売し、この大手メーカー2社の冷凍自販機が食品自動販売機の普及をけん引しています。

食品自動販売機の普及の画像です

冷凍自販機の普及が拡大した要因の一つとして、コロナ禍で深刻な打撃を受けた飲食店や業務用加工食品メーカーの存在があります。飲食店では、3密の回避のため、座席数を減らし、時短営業を余儀なくされました。そのあおりを受けて、業務用加工食品の需要が大きく落ち込んだのも記憶に新しいところです。

「何とかして販路を広げたい」「とにかく、うちの自慢の味を食べてもらいたい」

そう考えた飲食店や業務用加工食品メーカーの経営者にとって、1台で10種類もの商品を24時間無人で販売できる冷凍自販機は、望みを託すに値するものだったに違いありません。
餃子、ラーメン、鰻、ホルモン、スイーツ……多種多様な食品が冷凍自販機で販売されており、その事例は枚挙にいとまがありません。そして、コロナ禍による行動規制が緩和された今、冷凍自販機は、

空きスペースの新たな有効活用策や、食品ロスの削減に向けた取り組みの一環として、さまざまな業界から注目されている

のです。

冷凍自販機の画像です

2 「こんなところにも!」冷凍自販機の設置事例

1)SOBO(ソボ)(東京都新宿区)

東京・新宿御苑から外苑西通り沿いに徒歩数分、2021年2月に餃子工場直売所「新宿餃苑」(現在は閉業。FROZEN24-LAB-として営業)の店先に冷凍自販機「ど冷えもん」第1号機を設置したのが、都内に一口餃子専門店「赤坂ちびすけ」などを展開するSOBOです。
同社は、コロナ禍で飲食事業が大打撃を受ける中、宣伝などを行っていないのに工場直売所の冷凍餃子の販売が好調だったことに着目。何とか自動販売機で冷凍餃子を販売できないか模索する中、最終的にサンデン・リテールシステムとの共同開発にたどり着いたといいます。
現在では、冷凍自販機の導入コンサルティング、ロケーションオーナーとのマッチング、販売商品の紹介や企画・開発、設置後の修理やメンテナンスなどを総合的に手掛ける冷凍自販機事業「FROZEN24」も展開。東京メトロ飯田橋駅改札内、羽田空港第2ターミナル到着ロビーなどに直営の冷凍自販機「FROZEN24マート」を設置しています。JR大森駅西口近くのFROZEN24マート大森店は冷凍自販機6台を並べた旗艦店として注目されています。

■SOBO■
https://so-bo.biz/

FROZEN24マートの画像です

2)丸山製麺(東京都大田区)

東京都大田区の住宅地に隣接する自社工場の一角。2021年3月に有名店のラーメンをいつでも購入できる冷凍自販機「ヌードルツアーズ」を設置したのが、業務用の麺類製造を手掛ける丸山製麺です。
同社は、各ラーメン店が作ったスープと自社製造の冷凍生麺を使ったコラボ商品や冷凍餃子などを冷凍自販機で販売する「ヌードルツアーズ」を事業化し、冷凍自販機のロケーションオーナーや、提携ラーメン店の募集も行っています。2021年3月以降、全国25のラーメン店と提携、冷凍自販機「ヌードルツアーズ」は、全国200箇所以上に設置され、累計販売50万食を突破したといいます(2023年7月時点)。

■丸山製麺■
https://www.maru-men.co.jp/

ヌードルツアーズの画像です

3)鰻HASHIMOTO(高知県高知市)

高知の名所・はりまや橋から徒歩数分、2021年7月にオープンした鰻店「鰻HASHIMOTO」は、養鰻業と鰻加工食品製造を行うフジ物産(静岡県静岡市)が出資する専門店の1つです。
通常営業に加え、店頭に設置した冷凍自販機で、国産鰻の蒲焼や白焼きをはじめ、肝串、つくね串、おつまみセットなどを販売しています。

■鰻HASHIMOTO■
https://s527501.gorp.jp/

4)矢澤臓物販売(東京都港区)

慶應義塾大学・三田キャンパスから徒歩数分、2022年4月にオープンした「矢澤臓物販売」は、黒毛和牛の精肉卸ヤザワミート(東京都港区)が展開するホルモン専門店です。
通常営業に加え、店頭に設置した冷凍自販機で、味付けホルモン(ハツ、レバー、シマチョウ、ミノなど)、モツ鍋セットなどのほか、ハンバーグ、餃子、焼売などを販売しています。

■矢澤臓物販売■
https://valuet.co.jp/brands/yzh/

3 テイクアウトだけではない冷凍自販機の可能性

1)冷凍自販機対応の冷凍パスタが発売

日清製粉ウェルナ(東京都千代田区)は、急拡大する冷凍自販機市場をターゲットとして「冷凍自販機専用パスタ」を開発し、2023年3月からテスト販売を実施。2023年7月、冷凍自販機に対応したトレイやフォーク付きの冷凍パスタ「マ・マーもちもち生パスタ」5品目を発売しました。
同商品は冷凍自販機への格納にも適したサイズ設計で、「ど冷えもん」には最大100個格納できるといいます。業務用電子レンジを使えば3分以下で温めが完了し、その場ですぐに食べられるので、事業所内社員食堂、工場、ビジネスホテル、アミューズメント施設、シェアオフィスなどでの販売を見込んでいます。

■日清製粉ウェルナ「マ・マーもちもち生パスタ」(特設サイト)■
https://pro.nisshin-seifun-welna.com/b2b/brands/mochimochinamapasta/

2)冷凍フルーツを買ってオリジナルスムージーをつくれる期間限定のイートイン店舗

サンデン・リテールシステムと次世代店舗創出プラットフォームの提供を手掛けるShowcase Gig(東京都渋谷区。ショーケース・ギグ)は共同で、2023年7月1日~10月15日までの期間限定で、東京・新宿駅構内に「ど冷えもん」を活用したイートイン店舗「Red.(レッドドット)」を出店しました。店内に設置した「ど冷えもん」で冷凍フルーツを購入後、その場でベースとなる好みのドリンクと合わせて専用のスムージーマシンに入れ、オリジナルのスムージーをセルフサービスで作ることができ、好みのトッピングを乗せ、店内で食べることも、持ち帰ることも可能です。同社は、自動販売機やモバイルオーダーサービスなどから得られる来店客の行動分析を行い、それを基にサンデン・リテールシステムと共同で新規サービスや製品開発に活用していく予定です。

■Showcase Gig(プレスリリース)■
https://www.showcase-gig.com/news/reddot_1

4 課題は物流と欠品対策

冷凍自販機の特徴として、

  • 1台で10種類ほどの商品をストック可能
  • 家庭用の100ボルト電源で稼働し、屋外にも設置可能
  • 自分で商品を補充し、タッチパネルで商品を管理することも可能
  • オプションで電子マネーなどによるキャッシュレス決済にも対応

といった点が挙げられます。24時間無人で販売でき、代金の回収や釣り銭の補充などのオペレーションの負担が少なくて済むため、飲食店が自らの商品を販売するのには好都合といえるでしょう。
また、

キャッシュレス決済だと千円超えの商品も売れる

のが、面白いところです。ある程度高額な商品も「近所ではすぐ手に入らない」「コンビニやスーパーなどと違って人目を気にせずにいつでも買える」といった消費者心理が働き、さらにキャッシュレスの場合、決済のハードルが下がるようです。
一方、課題は物流と欠品です。普及し始めてから日が浅いこともあり、冷凍自販機にストックする商品の物流網は、飲料自販機のそれと比べると整備されていません。また、ストックできる商品数には限りがあるため、SNSの投稿などをきっかけに、1日に製造可能な数量を超えて爆発的に商品が売れてしまうと、欠品により販売機会を逃すことになり、人気もすぐに廃れてしまう恐れがあります。
例えば、クリア缶入りの冷凍パフェの製造を行う「スイーツ缶工房KOGANEYA」を運営するArounDエンターテイメント(栃木県小山市)は、2023年6月、宇都宮地裁栃木支部より破産手続き開始の決定を受けました。同社は、設立当初は居酒屋でしたが、業態を飲食店、スイーツ製造と転換。冷凍パフェの通信販売の他、冷凍自販機の脇に、購入した冷凍パフェ缶と一緒に撮影するとSNSで映える壁を設置するなどして地元メディアに取り上げられ注目されましたが、製造が追いつかず失速し、債務超過に陥ったといいます。

5 参考URL

1)冷凍自販機メーカー

■サンデン・リテールシステム■
https://www.sanden-rs.com/

■富士電機■
https://www.fujielectric.co.jp/

2)冷凍自販機の販売・コンサルティング(例)

■SOBO(Frozen24)■
https://frozen24.com/

■丸山製麺(ヌードルツアーズ)■
https://noodle-tours.com/

■和光産業(ど冷えもん)■
https://www.wako-sg.co.jp/lp/dohiemon/

■Cqree(ど冷えもん)■
https://frozen-vender.jp/

■Dプラン(PiPPon ピッポン)■
https://pippon.jp/

3)業界団体

■日本自動販売システム機械工業会
https://www.jvma.or.jp/

■フローズンエコノミー協会■
https://frozen-economy.jp/

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年7月19日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

提供
日本情報マート
中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。「売上向上」「市場動向」「開業収支」「人材育成」「朝礼スピーチ」など1000本を超えるコンテンツのほか、市場調査も実施。現在、30を超える金融機関に情報提供中。

関連するキーワード

PickUpコンテンツ