1 理解していますか? 「経費」で落とすことの大切な意味

「この支払いは経費で落ちる?」

経営者や社員が経理・会計担当者によく聞く内容ですが、この質問の意図は立場によって大きく違います。

社員がこの質問をするのは、「会社のお金で経費を精算できるか」、つまり自腹を切らずに済むかを確かめたいからでしょう。一方、経営者の場合は、社員と同じように経費精算できるかを聞く意味合いもありますが、それ以上に「1円でも多くのお金を設備投資や人材採用に使いたい」という思いがあります。

では、なぜ支払いが経費で落ちると事業のために使える資金が増えるのでしょう?

経費で落ちるということは、会社のお金で支払うということですから、逆に事業で使えるお金は減りそうなものです。

このカラクリは会計制度の違いからきていて、経営者は「税務会計」を意識して質問をしています。

一体、どういうことなのか。詳しく見ていきましょう。

2 中小企業の会計は税務会計が基準

会計には「財務会計」「税務会計」「管理会計」の3つがあり、目的や作成される書類などが違います。

3つの会計の比較表

3つの会計の関係性を示すと、次のようになります。

3つの会計の目的や関係(イメージ図)

一般的な中小企業には、上場会社のように財務諸表を広く外部に公表する義務がありません。一方、納税の義務は会社の規模に関係なく生じます。そのため、

中小企業の会計は税務会計が中心になる

ことになります。

なお、管理会計は社内の意思決定のために行うものなので、実施するか否かは任意ですし、納税額の計算にも直接的な影響はありません。

会計の種類とそれぞれの役割がお分かりいただけたと思います。ここからは、財務会計と税務会計という、2つの制度会計を中心に説明していきます。

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3 「経費」「費用」「損金」の正しい定義とは?

早速、財務会計と税務会計でもうけを計算する仕組みを確認してみましょう。

財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組み

財務会計では「利益」「収益」「費用」、税務会計では「所得」「益金」「損金」の関係になります。これは言葉の違いだけではありません。多くの項目はほぼ同じ取り扱いではあるものの、一部、取り扱いが違うものがあり、それこそが「税務調整」の対象となります。

具体的には、税務計算では財務会計上の収益・費用に一定の調整(税務調整)を加えて、益金・損金とし、所得を計算する流れになります。

このあたりの詳細は、以下の記事で紹介しているので、ご確認ください。

ところで、皆さんは疑問に感じませんか?

財務会計にも税務会計にも「経費」という言葉が出てきません。実は、

経費とは、財務会計上の費用の一部を指す会計用語

なので、先のもうけの計算では登場しなかったのです。ただし、個人の場合は所得税法上の用語として経費という言葉が使われます。確定申告をしたことがある方にはなじみが深いでしょう。

経費と費用と損金の関係を示すと、次のようになります。

経費と費用と損金の関係(イメージ図)

まとめると、次のようになります。

「経費」「費用」「損金」の違い
経費とは、一般的に財務会計上の費用の一部を指す会計用語で、費用のうち販売や管理目的で支払われる支出を指すことが多い。

費用とは、財務会計上の利益を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

損金とは、税務会計上の所得を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

ここで冒頭の質問に戻ります。経営者は税務会計を意識して、「この支払いは経費で落ちる?」と聞いているわけですが、その真意は次の通りです。

税務会計を意識した経営者の意図
経費が増えると費用が大きくなる。その中で損金に算入できるものがあれば、税務会計上の損金も大きくなって所得が小さくなり、税金負担が軽減される。その分、会社により多くのお金が残るので事業に使える。

法人税は、前述した「所得」に税率を乗じて計算するので、所得が小さければ税額は減少するのです。ただし、経費が増えれば「必ず」税負担が減少するわけではなく、損金になるものは限られています。

次章で、損金に算入できるか否かの判断に迷いやすい代表的な費用として、福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却を取り上げます。

3 福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却の損金算入

1)福利厚生費

福利厚生費とは、社内のコミュニケーションの円滑化や社員のモチベーション向上のために行われるイベント開催費や物品購入費などです。

基本的に、福利厚生費は全額を損金に算入できます。ただし、支出の目的が曖昧だったり、金額が一般的に見て高額すぎたりする場合、福利厚生費とは認められず、損金に算入できません。福利厚生費の詳細は、次の記事を参照ください。

2)交際費

交際費とは、取引先など社外の人との飲食費や、贈り物をした場合の物品購入代などです。

交際費は、原則として損金に算入できません。ただし、飲食費については、参加者1人当たりの代金が1万円以下(2024年3月31日以前のものは5000円以下)であれば、交際費ではなく、会議費などとして損金に算入できます。

また、資本金が1億円以下である中小企業の場合、社外の人との飲食費の50%までの金額(飲食費の金額を問わない。社内飲食費は除く)、もしくは飲食費に限らず年間800万円までの交際費のどちらか一方を選択し、損金に算入できる特例があります。交際費と会議費の詳細は、次の記事を参照ください。

3)備品などの購入費

備品などの購入費は、金額の大小や、どのくらいの期間使い続けられるものかなどによって考え方が変わってきます。

例えば、使用可能期間が1年未満、または取得価額が10万円未満のものであれば、消耗品費として、全額をその物品を使い始めた日に損金に算入でます。この他にもさまざまなルールがあるので、備品などの購入費の詳細については、次の記事を参照ください。

4)減価償却

減価償却とは、資産計上される備品など(以下「固定資産」)の損金処理の方法です。

会社の成長・発展のためには設備投資が欠かせず、数千万や数億円を使うこともあります。このように高額な固定資産については、使用の実態に合わせて、少しずつ損金処理していくルールがあり、それが減価償却です。

固定資産の減価償却は、種類・仕様・用途など、さまざまな要素ごとに細かく減価償却方法や償却期間(耐用年数)が決まっていて、その通りに計算しなければなりません。

ややこしいのは、財務会計では認められるが、税務会計では認められない方法などがあるため、税務会計の限度額を超えて減価償却費を計上してしまうことがあります。しかし、税務会計の限度額を超えた部分については損金に算入できないので注意が必要です。減価償却の詳細については、次の記事を参照ください(備品などの購入費のところで紹介しているのと同じ記事です)。

4 「経費・費用」と「損金」と経営者に必要な視点

いかがでしたか。普段何気なく使っている「経費」「費用」「損金」という言葉には、明確な違いがあることをお分かりいただけたと思います。

そして、「この支払いは経費で落ちる?」という質問には、単に会社から経費分のお金が戻ってくるということだけではなく、「それが損金に算入できたら税務会計上の所得が減り、税負担の減少につながる」という意味もありました。

一方、税負担を減らすという点だけに重きを置きすぎことは危険です。確かに損金に算入できれば税負担は減少します。しかし、そもそも備品などを購入するために支払った費用が会社に戻ってくるわけではないので、当たり前のことですが、会社の成長に効果のないお金の使い方、つまり無駄遣いはしてはいけません。

事業に必要な費用は使わなければなりませんが、何が必要で、何が不要なのかを判断するのは経営者です。しかも、その基準は会社の経営ステージによって変わります。経営者の計数感覚が試されるところです。

以上

(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年3月18日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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