りそなグループのコンサルティング・ファームであるりそな総合研究所(以下「りそな総研」)。りそな総研では、経営や人事、IPO、事業承継などのコンサルティング、プライバシーマーク認定取得などの取得支援、会計・法律問題に関する相談や経営情報の提供、ビジネスセミナー運営など、幅広く中小企業の経営支援を行っています。
りそな銀行の常務執行役員を経て、2022年4月にりそな総研の代表取締役社長に就任した米谷高史氏(よねたに・たかし。以下インタビューでは「米谷」)に、中小企業から寄せられている悩みや課題解決について伺いました。

※インタビュー担当:りそなCollaborare事務局(以下「事務局」)

1 中小企業の経営者から増えている相談は「SDGs」と「レギュレーション」

事務局

最近、中小企業・ベンチャー企業などから寄せられる相談で多いテーマは何ですか?

米谷

傾向としては大きく2つに分かれます。
1つ目は、「SDGs」に関する相談が増えてきました。比較的社歴が長く規模の大きな企業はサプライチェーンからの要請もあるようですが、今後は幅広い企業に影響してくる重要なテーマだと考えています。
もう1つはレギュレーション、つまり「法令対応」です。足元で言いますと、いわゆる「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)や「電子帳簿保存法」(電帳法)、2023年から始まる「インボイス制度」(適格請求書保存方式)の相談が増えています。
いずれにしても、ベースになる相談と、そのときに話題になっているテーマの相談があり、本当に幅広いです。

事務局

SDGsについては不明瞭なところもある一方、パワハラ防止法などについては明確なルールがあり、やるべきこともはっきりしているという印象です。そうして考えると、SDGsについては、「なぜ、やらなければならないの?」「やるとしても、どこから着手すればいいの?」という考え方もありそうですね。

米谷

SDGsについては見えてきているところも多いのです。ただ、具体的に求められる対応やスケジュールなどは業種によって異なるので、感度や対応に違いが出てくるのは当然です。例えば、EUは厳しい規制がありますから、そうした地域と取引している企業の場合、自発的というよりも、取引先から要請される形で対応せざるを得ないケースもあります。
また、今は「脱炭素」が一つのキーワードとなっていますが、大企業については「人的資本」など、これまでとは異なる情報の開示が求められるようになっています。こうしたことも、今後はサプライチェーンに波及していくかもしれません。

米谷さん写真その1です

事務局

企業が置かれている状況によって異なるということですね。

米谷

はい。状況の見極めが大事です。SDGsに限らず対応にはコストがかかりますから、いずれ対応が必要だとしても、「今ではない」ということもあります。そのため、企業の業種や取引関係、ステージに合わせたアドバイスを心がけております。

2 中小企業・ベンチャー企業が注視すべき分野は?

事務局

SDGsの他にも、さまざまなルールや枠組みができています。りそな総研として、そうした動向やビジネスの可能性をお客さまである企業に伝えたりしているのでしょうか?

米谷

はい。テーマは次から次へと出てきますし、情報はお伝えしています。

事務局

さまざまなテーマがある中で、今、中小企業・ベンチャー企業の経営者が特に注意したほうがよい分野は何ですか?

米谷

これも、企業の業種やステージによって変わってきます。法令遵守は当然のことですので、ある程度、経営の枠組みが出来上がっている企業の場合、改めて自社の対応状況を確認してみる必要があります。
 また、全般的にいえることですが、明確なレギュレーションは後から定まってきます。大枠が先行して決まり、詳細は後からということなので、先にお話ししたように、「自社がいつ対応すべきか」という判断は企業ごとに異なるものであり、当社はそうした検討のお手伝いもしております。


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3 事業計画の作成支援で終わらず、「対話」しながら伴走する

事務局

りそな総研として、注力している経営支援サービスは何ですか?

米谷

今、注力しているサービスの一つに「事業計画の作成支援」があります。
経営者の方は、業界動向や自社のポジションはもちろん、それらの変化を日々実感しながら計画されています。けれども、多くの中小企業・ベンチャー企業は、それを事業計画書に落とし込んでいません。
リソース不足など事業計画が作成されない要因はさまざまですが、今でいうと外部環境の変化が激しすぎるので、事業計画を作成すること自体に懐疑的な方もいるのでしょう。

事務局

確かに、事業計画を作ってもその通りにならないことのほうが多いです。

米谷

それでもベースのシナリオを作っておくと、不測の事態に備えることができます。例えば、1年前に今のようなエネルギー問題や食糧問題が起こるなんて思ってもみませんでしたよね。想定外のことが起きるのが世の常ですが、自分たちがイメージしていたことと実際に起きたことのギャップを確認することは大事で、そこから対策も生まれてくるわけです。
実際、事業計画を作成された経営者の方からは、「計画を持っておいてよかった」というお言葉をいただくことが多いです。

事務局

事業計画を作成したきりで終わってしまうという話も聞きます。事業計画の実行をサポートするために、企業との継続的なコミュニケーションが必要だと思いますが、具体的に取り組んでいることはありますか?

米谷

はい。まさにそこがポイントであり、経営者と継続的に「対話」できることが銀行系シンクタンクの強みだと思っています。
経営者(企業)と銀行は近い存在です。経営者の方から直接ご相談を受けることもありますし、銀行経由でご相談をいただくこともあります。複数のルートから、経営者のお悩みを聞ける関係は非常に好ましいことであり、もっと多くのご相談をいただけるように工夫していきたいと考えています。

事務局

お客さまである中小企業と対話する上で重要なことは何だとお考えですか?

米谷

金融は手段でしかなく、目的は別にあります。ですから、しっかりとお客さまの事業計画に入っていかなければ見えてこないものがあります。多角化をしたいのか、効率化をしたいのか、経営の課題や目的は本当にさまざまです。そこをお聞きして、具体的なご提案をしていきます。
私が銀行の営業だった頃、事業承継など繊細な問題についてもご相談を受けましたが、そうしたときは本当にうれしかったです。

事務局

少し話はそれますが、銀行で働く上でのやりがいはどのようなところにあるでしょうか?

米谷

人によって違いますね。私は「営業」の仕事に長く携わってきました。営業の仕事は、真摯にお客さまと向き合うことで結果がついてきますし、何といっても、本当にさまざまな業界や立場の人と話をすることができます。多様な経営者の考えや、あまり接点のなかったビジネスの構造を知ることはとても楽しいですし、それがコンサルティングの幅を広げているのだと思います。

4 金融機関の「信用」をキーにサポートの幅を広げる

事務局

そうしたご経験もあり、さまざまな取り組みを手掛けられているのですね。

米谷

そうかもしれません。好奇心といいますか、「なぜだろう?」というひっかかりを大事にしています。
 例えば、自分が中小企業の経営者だったとすると、玉石混交の中からどうやって良質な情報を収集するのか悩みます。そうした思いが「りそなcollaborare」(りそなコラボラーレ)の開設につながりました。
また、新しい取り組みとして「りそなデジタルハブ」も立ち上げました。売上の上げ方は100社あれば100通りですが、間接業務のやり方はほぼ決まっています。中小企業・ベンチャー企業も間接部門に一定のリソースを費やしていますが、そうした人材を育てるのは簡単ではないですし、離職してしまったときの影響も大きいです。であれば、間接業務は「信用」できる相手に任せればよく、そうした仕組みとして立ち上げたのがデジタルハブです。
銀行には先人たちが築いてくれたものも含め、企業との長いお付き合いの中で培ってきた「信用」があります。その信用をキーに考えれば、中小企業・ベンチャー企業にお役立ていただけるサービスがまだまだあると思いますし、銀行にとってもビジネスチャンスになります。

事務局

確かにそうですね。

米谷

それに、お客さまと銀行との関係は長く続きます。例えば、お客さまが会社を売却したら法人としてのお取引はなくなりますが、個人としてのお取引は続きます。長いお付き合いができることは銀行の強みであり、そこから信用もうまれくると思います。

事務局

信用をキーにすると、さまざまなサポートができそうですね。

米谷

 ここまでお話ししてきたSDGsや法令対応、間接業務のサポートもそうですし、組織作りというものもあります。30人、50人、100人と規模が拡大していく中でマネジメントも難しくなっていきますから、成長に応じた組織作りのお手伝いもしております。

事務局

 それはどのようなものですか?

米谷

 大企業と中小企業の人材の橋渡しになるような取り組みにチャレンジしています。先ほどの間接業務の例でいいますと、中小企業・ベンチャー企業で番頭クラスの社員が離職したら大変ですから、そこに経験と知識が豊富な大企業の人材を派遣することを考えており、関係各所とも話をしています。
 本格化するまでには時間がかかるかもしれませんが、この取り組みは、中小企業・ベンチャー企業はもちろん、大企業にとっても重要なものになっていくと考えています。

米谷さん写真その2です

5 DXは年長者が若年者の意見を聞くことが大事

事務局

今話題のDXについては、どのようにお考えですか?

米谷

ペーパーレス化が進んでいないとか、なぜ印鑑を押す必要があるのかなど、いろいろ言われていますよね。これは笑い話ですが、住所のフリガナもそうです。「木場(キバ)」(東京都江東区の地名)に「モクバ」とフリガナを振っても「モクバ」とはなりません。選択肢がないのに、なぜフリガナを振ってもらう必要があるのかということです。
ただ、DXをしなくても現状の仕組みで回っているという事実があり、そこから出る怖さというか、面倒臭さがDXのブレーキになっているのでしょうね。

事務局

DXを進めている企業では、それによって浮き彫りになった非効率に嫌気して、若手が離職してしまうこともあるとか。

米谷

昔、聞いた話に、「天動説」が常識だった世の中が、どうやって「地動説」に変わったのかというものがあります。天動説を唱えている年長者に「この資料を見てください」と説得しても、「そうか!」と地動説の支持に変わる人は一人もいなかったというのです。
 しかし、仮に50代以上は天動説の支持が100%、40代は天動説と地動説が50%ずつ、30代以下は地動説が100%だった場合、世代交代によって自然に「地動説」が常識になっていきます。つまり、パラダイムシフトとは世代交代なのです。ですから、DXについて年長者は若年者の話を聞くことが大切だと思います。スマホで経費精算できないと嫌がる若手も少なくないとか。月末に紙で経費精算していた年長者がスマホの経費精算を始めてみるだけでも、DXのきっかけになるかもしれません。

事務局

少し飛躍しますが、メタバースなど新しい話題もあります。こうしたことについても、若年者の声に耳を傾けてみるのが大事だということでしょうか?

米谷

まず、「世の中は変わる」と認識することが大事です。現時点でメタバースについて実感が湧いている人は限られるかもしれません。しかし、振り返ってみると、今から20年前に「四六時中、電話機を手放せなくなるぞ」と言ったとしても、何を言っているのだろうという感じだったはずです。同じように、未来は「バーチャルが居心地よい」という世界になっているかもしれず、そうなってもよい準備をしておくことが大切ではないでしょうか。
 ただし、経営者は経営判断をしなければなりません。どのようなリスクをテークするのかということです。新しいことへのチャレンジも、得意分野を深掘りすることも戦略ですから、変に時代の流れに巻き込まれる必要はありませんよね。

6 モヤモヤを解消してもらうために背中を押す

事務局

これからのりそな総研の取り組みについて聞かせてください。

米谷

そうですね。経営者には、日頃からモヤモヤしている課題がたくさんあります。ですが、今日の売上など目先のことを優先しなければならず、なかなか課題解決に着手できません。ここを何とかサポートしたいと思い、実際に経営者に話を聞いたり、当社のコンサルタントと議論したりしました。そうしたら、一つの可能性が見えてきました。

事務局

それは、どのようなものですか?

米谷

「社長交代」や「周年」が課題解決に取り組む一つのタイミングになっていることが分かったのです。我々はとかく企業の数字を見ながら話をすることが多いのですが、それだけでは不十分だったのです。
 考えてみれば、私が家を買ったのも、貯金ができたからではなく、子供の成長に合わせてのことでした。これを企業に置き換えれば、課題を解決するのによい「区切り」はたくさんあるわけです。これから、そうしたタイミングをとらえたご支援を提案していく計画です。

事務局

面白いですね。

米谷

はい。ただ、お客さまと同様に、我々にも課題があります。例えば、人事制度の構築などベースとなるご支援はもちろんですが、そこに留まらず、新しい分野にも専門領域を広げていきたいと考えています。
 また、銀行系シンクタンクとして、たくさんのお客さまに相談していただけるようになりたいと思っています。銀行の営業担当者を経由したご相談があるのは強みですが、「伝言ゲーム」も生じます。ですから、もっとダイレクトにご相談いただけるような体制を作っていきたいと思います。

米谷さん写真その3です

7 中小企業は意思決定の速さが最大の強み

事務局

最後に、りそなCollaborareの会員さまへメッセージをお願いします。

米谷

中小企業・ベンチャー企業の強みは、何といっても「意思決定の速さ」だと思います。混沌とした世の中ですが、経営者の方が世の中の流れをしっかり見て、さまざまな分野へチャレンジをしていただけたらと思います。りそな総研も、中小企業のお取り組みをサポートさせていただきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年9月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

提供
米谷高史
1989年(平成元年)関西学院大学卒業。大和銀行(現りそな銀行)入行。2017年りそな銀行執行役員。2018年埼玉りそな銀行取締役。2020年りそな銀行常務執行役員。2022年りそな総合研究所代表取締役社長。大阪府出身。

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