日本国内で注目されているものの、まだまだこれからの「Web 3.0」や「メタバース」。今回は、19歳にしてメタバースで新しいサービスを生み出そうとしている起業家(合同会社ARKLET 代表取締役 山下 青夏氏)に、Web 3.0がブームとなっている理由やメタバースの現状と今後などをどう考えているかまとめていただきました。

1 Web 3.0は“専門家”を定義しにくいかもしれない

まず前提として、Web 3.0というワードが意味する内容を整理してみましょう。これは、テクノロジーとしての側面と、思想的な側面に二分されると思っています。

テクノロジーとしての側面は、非金融分野での利活用を目指すブロックチェーン3.0の技術です。一方で、思想的なWeb 3.0は、これまでの中央集権的なプラットフォームビジネスを打破し、「新たな自律分散型の仮想世界」を創造し、仮想世界内のみでも生きられるようにDAO(ダオ、自律分散型組織)の仕組みを取り入れようとしているものです。そこに経済圏を作り様々な仕組みを導入することで、一定のビジョンや目的の基に集まるコミュニティ内で“生活”することを可能にするのがメタバースです。そして、play to earn(遊んで稼ぐ)という仕組みを活用して経済圏を確立させます。

ここで浮き彫りになるのは、このWeb 3.0というものについては、“専門家”を定義しにくいという点です。メタバースを創出するということは、新たな仮想世界での生活を可能にするべく、例えば対人コミュニケーションにおいて、眉毛の動きなどのノンバーバルな情報をいかに提供するか、また仮想通貨が本来の意味での通貨として機能させるために市場経済の動きをいかに調整するか、法や規制のない世界にいかに(そしてWeb 3.0の場合、誰が)秩序を生み出すかなど、様々な問題に直面します。

これらの問題に対峙するには、社会学や社会心理学、経済学、法学・政治学などの人文学に根差した知識が必要とされています。こうなっては、もはや真の意味での“専門家”はいないと考えた方が適切であるように思えます。そしてメタバースの定義が、ときに狭まり、ときに広がるその理由はここにあると言って良いでしょう。このように、メタバースは様々な点から論議することができます。

メタバースの画像です

(出所:筆者提供資料)

2 なぜWeb 3.0という“思想”がブームとなっているのか

ではなぜ、Web 3.0がこれほどまでに思想として勃興することになったのでしょうか。メタバースをはじめとする仮想世界は、本質的に言うと“新たな生活空間”です。そしてそこでは、ビジョンに則ったメンバー間でコミュニティが形成され、自身の価値観が受け入れられるまでコミュニティを行き来することができ、束縛も管理もありません。これがメタバースに与えられている使命であり、今に生きる人々の“幻想的なアナザーワールド”としての集合体です。

こうしたものが生まれた背景には様々な要因があります。1つは、政府やGAFAなどのビッグテック企業による“プライバシーの侵害”と“社会制度の崩壊”を食い止めようという動きがあります。2018年の序盤に、Facebook利用者およそ5000万人分(その後さらに人数は増加したとされる)のユーザー情報が選挙コンサルタント会社に流れ、その情報が米国の大統領選挙における政治的プロパガンダに使われたなどど報道され、日本を騒がせました。慶應義塾大学院教授の山本氏は、この問題に対して自らの著書で、【本質的な問題は、この“情報漏洩”にあるのではなく、権力者がAIや膨大なデータを使って人々の内面を分析して把握し、有権者1人ひとりの行動を意識されるまでもなく支配し、それによって民主主義が危険にさらされる可能性だった】といった趣旨を述べています(山本龍彦 2018「AIと憲法」日本経済新聞出版社)。

Web 3.0に関しては、ブロックチェーンやDAOを用いて匿名性を保持するなど、独自のプライバシー管理方法があることで注目が集まっています。このほかにも、行き過ぎた地域格差を、過疎地域と都市とを結ぶことで解決しようという動きも見られます。

しかし、Web 3.0がこれほどまでに思想としてブームとなった要因は、このようなマクロな視点からの動きだけではないと考えられます。むしろ個人単位のミクロな感情も要因となっているのではないでしょうか。
例えば、1つは“VUCAの時代”への焦りです。我々の生きる現実社会は、「ムーアの法則」のような指数関数的に発展するテクノロジーを基盤としています。そのため、技術の進行とともに社会の発展も進行し、VUCAのような不安定な時代が到来します。そのような時代では、「Web 3.0」「メタバース」などのバズワードに対して、常にキャッチアップしていないと置いていかれるという危機感が個人個人の中に存在し、よりバズワードへの注目が高まります。

また、もう1つここで着目したいのは、現実社会からの(個人単位での)“逃避”という要因です。まず、前提として、Web 2.0は“発信の民主化”の時代であると言われています。
ICT総研の調べによると、SNSを利用する理由についてのアンケート結果は次のグラフのようになっています(回答者 n=275)。

SNSを利用する理由の画像です

(出所:ICT総研「2022年度SNS利用動向に関する調査」)

アンケート結果には様々な目的が羅列されていますが、ここでは

「知人同士の近況報告」
「自分の行動記録を残しておきたい」
「写真や動画などの投稿を見てもらいたい」
「『いいね』などのリアクションがほしい」

といった回答項目に注目してみます。これらの回答項目は、情報を“発信”することに基づいており、それも“自己”に関する情報発信です。

各人がそれぞれの趣味を生き、人々に共通する大きな価値観が消失してしまったように感じるポストモダン的な現代において、発信することの意義は、「自分像の創造」にあります。記名での発信の場合は、リアルとバーチャルが融合し結合しているため、他者が認識する「自己像」を操作しようとします。
一方で、匿名での場合は、現実世界とは全く異なる新たな生きる場所で同じように他者に認識される「自己像」を操作します。あるいは、例えば匿名のアカウントを使い「バイトテロ」に対し攻撃をして歪んだ正義感に浸るなど、自己が認識する「自己像」を操作する場合もあります。

このように考えると、Web 3.0も、“新たな生きる場”“桃源郷”の創造、自己像の操作という点でWeb 2.0と共通する側面があることが分かります。Web 3.0に対して人々が真に求めるものは、よりビジョンべースで関係性を構築し維持できるより生きやすい空間の創造であり、今後は現在のSNSのような使い方がされてくる領域であると考えられます。

Web 3.0の画像です

(出所:筆者提供資料)

3 Web 3.0における未来予測

これまで見てきたように、Web 3.0とはまさしく人々にとっての新たな桃源郷であり、その世界の実現においては様々な問題に直面することになります。社会を創造するということは、カオスな世界に警察機能・司法機能・政治機能が自然発生的に生まれて秩序が発生するという、人類がこれまで歩んできた歴史を再度、DAOという概念とシステムで縛られた空間内で実現するという試みです。

メタバースの市場規模は今後ますます拡大していくと考えられており、2024年までに7830億ドルを超えると予測されています(Bloomberg「メタバース、次世代技術プラットフォームの市場規模は8000億ドルに達する可能性」(2021年12月1日))。

また、VRのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の販売台数は、次世代「マイクロOLED」技術の採用により格段に伸びると言われています。

現在HMDに用いられているのは、一定以上の解像度があるフラットディスプレイを接眼部の近くに配置し、その映像をレンズで視野全体に拡大する構造です。映像の周辺部の歪みを解消するために、映像側の周辺部を加工して出力し、レンズを通すと歪みが少なくなるように見せています。

一方、次世代のVR/ARデバイスを支えるマイクロOLED技術を使ったデバイスは、この構造をとっていません。OLEDとは「有機EL」のことで、レンズで拡大して見たり、プロジェクターに搭載して投射用に使ったりします。これにより、解像度の高いディスプレイをコスト効率の良い「半導体製造プロセス」を使って作ることが可能になります。パナソニック子会社のShiftallによって発売された「MeganeX」も、3月に発売されたスマートグラス「Nreal Air」も、マイクロOLEDを採用しています。

仮想空間の市場が「キャズム」を超えるためには、ソフト側におけるキラーコンテンツの登場と、ハード側における「価格、サイズ、重さの観点での購入障壁」の解消が必要不可欠と考えられています。実際、マイクロOLED技術は、このハード側の課題を解消するのに役立つとされ、いま注目を集めています。また、今後マシンのパワーが上がり「左目4K・右目4K」が実現すればさらに没入感が増し、マジョリティの購入動機につながるでしょう。

さらに、Appleの参入が取締役会で発表される(と言われている)など、続々とHMDの開発が進行している印象があります。現在のVRデバイスは、まだまだ改良の余地があると感じています。パソコンでメタバースに入ろうとするのはメタバース自体に意味がなくなるので、VRデバイスが必須ですが、今よりももっと軽くて充電が長持ちし、装着感が良いものが必要です。現状では、まだVRデバイスの装着感が良いとはいえない面もあるので、メタバースの事業を行うにはスマートフォン・PC対応が必要だと思います。

4 日本におけるメタバースのビジネスチャンスは?

現状では、メタバース自体は、日本でのビジネスチャンスはそれほど多くないのが実情です。これにはいくつかの要因がありますが、例えば日本では仮想通貨取引での障壁となる法律が多数存在することなど、まずは法規制の壁があります。

しかし、「エンタメの市場」という観点で見れば、日本のコンテンツ市場規模は10兆円ほどであり、世界の約8%を占めています(経済産業省 令和2年2月「コンテンツの世界市場・日本市場の概観」)。メタバースやNFTでの制作においてエンタメ観点では、大きなビジネスチャンスがあるといえるかもしれません。

コンテンツの世界市場の画像です

(出所:経済産業省 令和2年2月「コンテンツの世界市場・日本市場の概観」)

例えば、NFT自体もカードゲームなどと連携させれば一気に市場価値が上がりますし、国(などの環境)が変わればメタバースで1位になることは十分にありうると思っています。その条件としては、

  • 日本での法律自体が変わること
  • メタバース自体のプラットフォームが自動翻訳になり、世界がつながること
  • 仮想通貨ではない新たな通貨によって世界の通貨が統一されること

などだと考えています。

5 メタバースの世界観が広がっていくまでの時間軸と今後

もしかしたら、想像以上にメタバースの世界観が日本国内で広がっていくスピード感は早いかもしれません。例えば、この2~3年以内に、円とドルの中間を取るような新しいステーブルコインが出てくる可能性があります。その後、デバイスが進歩し、メタバースの中で実際に対面して話しているような状況さえできれば、世の中に一気に広まるかもしれません。例えば、実際にショッピングしているような光景が目の前に広がるとなれば、ある程度リテラシーのある層には流行っていくのではないでしょうか。そうすると、どんどん広まっていくと思います。

私たち合同会社ARKLETも、メタバースの認知を拡げる活動を今後も続けていく予定です。ゆくゆくは、誰でもメタバース空間を作れるようにしたいと考えています。そして、メタバース空間に実際の街を作り、たまたま入ったお店で衝動買いができる空間、また、そこで稼ぐことができる空間にしたいと思っています。

【参考文献、参考資料】
山本龍彦(2018)「AIと憲法」日本経済新聞出版社
ICT総研「2022年度SNS利用動向に関する調査」
Bloomberg「メタバース、次世代技術プラットフォームの市場規模は8000億ドルに達する可能性」(2021年12月1日)
Mogura VR news「次世代のVR/ARデバイスを支える『マイクロOLED』技術に注目せよ」
経済産業 令和2年2月「コンテンツの世界市場・日本市場の概観」

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年7月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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提供
●合同会社ARKLET 代表取締役 山下 青夏 ●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
●合同会社ARKLET 代表取締役 山下 青夏
高校在学中より地元名古屋の就活チャンネルの運営に携わる。その後、大学入学後にデータ解析を用いた若年層向けSNSコンサル事業を個人で展開。7名で2021年10月に合同会社ARKLETを設立し、その後、メタバース事業に着手する。

●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
イノベーションプロバイダー、ファミリービジネス二代目経営者、起業家、講演家、コラムニスト
山口県下関市生まれ。19歳から7年半単身オーストラリア在住後、医療・福祉・介護イノベーションを目指す株式会社モリワカの専務取締役に就任。その後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学び、卒業生資格取得。約6年間シリコンバレーと日本を行き来し、株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業。

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